第4話 ~ニック視点
「おいニクソン、聞いたぞ。なんか平民の薬師の女にいれあげているようだな?」
「どこからそんな話を?」
「城中の噂だ」
噂話が好きだよな。特にスキャンダル系。
「彼女には騎士団に薬を作ってもらっている」
「薬師なら他にもいるんじゃないか?」
「そうなんだが、彼女が作った薬が相性がいいのか騎士に良く効くんだよ。外傷だけどな。ああ、こないだは脱水症状の騎士の治療もしたらしい」
「へぇ、いやなにお前がなにかに執着するのも珍しいからさ、どんな女性かと思って」
「特に兄上が気になさるような女性ではないですよ。ただの腕利きの薬師ですよ。ああ騎士団では愛されていますね」
「へぇ~」
翌日、兄上が騎士団を見学にいらした。
騎士一同敬礼で迎えた。
「はははっ。固く考えないでほしいな。ただ来ただけだから」
それが重要なんだけどな。彼らにとっては。
「ニック、彼女はどこにいるんだ?」
「救護室を設けたので、そちらにいると思われます。この間、鍛錬を見学し薬も不足したので薬を調合しているかと…」
兄上…彼女に会うのが目的か!
「それどこ?」
「ご案内します。こちらです」
俺は兄上を救護室まで案内した。
「えーと、どちら様ですか?ケガをなさっているようには見えないのですが?」
その疑問はもっともだと思う。
「こちらはウィナーズ王国第1王子であられるセイムス殿下であられます」
「……‼申し訳ありません。口のきき方が…」
「あ、そういうの気にしないで。フランクでいいよ」
「えーと、私は平民でセアラと申します。騎士団で週2回薬師をしております。残りは下町で薬屋をしております」
「セアラちゃんね。可愛い~!」
「兄上、王太子妃がいらっしゃるのに軽薄かと……」
「ニックはお堅いなぁ。愛でる分には問題ないでしょ?そこらの花と同じだよ」
「私なんぞ、雑草かと存じます」
「え~雑草も可愛いじゃん。それに薬になったりするんでしょ?私はよく知らないけど」
「確かにそうですが、王太子妃のような麗しい美しい方は大輪のバラがお似合いかと…」
「セアラちゃん可愛いから、王太子妃も連れて来ようかな?‘セアラちゃんを愛でる会’みたいな?」
「何ですか?それ。恥ずかしいから、やめて下さいよ~」
何を考えてるんだ。この兄上は。
「兄上、義姉上は妊娠しているのでは?無理をさせてはいけませんよ?」
「そうだな、悪阻が見ていて大変そうなんだよ」
「でしたら今から薬を調合しますから、それを王太子妃様にお飲みいただければと思いますが。そういうのは、特別な方が調合した薬でないといけないのでしょうか?ではレシピを……」
「いんや、私が側にいるところで調合するのだから毒になるものなど入ってはいないだろう?」
「そんな畏れ多い」
「なら平気だ。頼むよ、少しは楽になったあいつの姿を見たいんだ」
セアラは調合を始めた。ものの数分で調合が終わり、兄上には飲み方とレシピが書かれた紙を同時に渡した。
数日後、義姉上の体調は回復したようで、益々‘セアラちゃんを愛でる会’の開催が現実味を帯びた。と同時にセアラの名声も高まり、下町の薬師にとどまらず王宮専属の薬師にという声まで出てきた。