42動き始める
明日はいよいよ最終話投稿予定です。最後までどうぞよろしくお願いします。はなまる
アルクの行動は早かった。
すぐに王宮に戻り法務院のリックの所にミモザの手紙を届けた。
もちろんセルカークも一緒にやって来た。
リックはミモザの手紙を読んで眉間にしわを寄せた。
「それで、どうなんだ?リック。ミモザさんはなんて?」
アルクは急かす子供のように返事を聞く。
セルカークはむすっと押し黙ったままだ。
「おい、セルカーク。そんなにショックだったのか?」アルクが呆れたように聞く。
「はっ?なにが?」
「しっかりしろ!好きな女なら大きな懐で俺に任せろ!くらい言ってやるのが男ってもんだろう?」
「もちろんそのつもりです」
「そうか。じゃあ、シャキッとしろ!」
セルカークはまたアルクの「バシッ!」と叩かれる。
(これで何度目だ?アルクさんは嗜虐的な嗜好の持ち主なのか?俺が黙ってたのは、ずっと考えていたからだ。大見えは切ったが…だってそうだろう?シルヴィの記憶を持つミモザと一緒になりたいだなんて…普通ならどうやったって無理だと思うだろう。でも、俺はもう迷わない。もう、後悔はしたくない。なにがあってもミモザを守ろうって決心がついたって言うのに…ミモザが俺を受け入れてくれるかと思うと…どうしても不安になってしまう。でも、今度こそ失敗出来ない。ああ、俺は決めたんだ)
セルカークはアルクを横目で睨みながらそんな事を思った。
リックが話を始める。
「…コホン。結論から言えば彼女の考え通りでしょう。確かに前に訴えを起こされてますし、彼女のお腹の子供はキャメリオット宰相との間に出来た子供と言うことになるはずでしょう。これは正式な審判でしたのでふたりの関係は確かなものです。そうなればミモザさんは未婚の母親で父親になるキャメリオット宰相が認知したとしてもキャメリオット公爵家の跡継ぎにはなれません。今現在お腹の子供の親権はミモザさんが持っていることになります」
「と言うことはだ。ミモザさんは不当な扱いを受けているという事だな?」
「はい、誰の指示でそんな事になっているかは存じませんがその指示を出したものは不法監禁の罪に問われます。彼女はキャメリオット公爵家にはもう何の関係もない人ですから」
「そうか、監禁はキャメリオット公爵夫人がしたことだと屋敷の侍女からはっきり聞いた。だからリック。不法監禁で夫人を捕らえたい。そしてついでにキャメリオット公爵家のこれまでの数々の悪事を暴く。俺はちょっと国防院に行って来る。セルカーク、お前リックと一緒にいろ。勝手なことをするなよ。わかってるな?」
「ああ…わかってるって」
リックが不思議そうな顔で聞いた。
「セルカーク、いつからあの人とそんな親密な関係になったんだ?あんなにお前の事を嫌ってたじゃないか」
「ああ、アルクとはシルヴィの墓参りでばったり会って、もう許してもいいって…どうやらミモザさんの事で俺を応援するって張り切ってて…」
「おい、セルカークにもやっと春が来たのか?こりゃ目出たいな。おっと、こりゃ急いで違法監禁罪の手続きをしなきゃまずいな。いや、耐えがたき法の方がいいか?」
リックはぶつぶつ言いながら急いで手続きに走る。
***
アルクはすぐに塞翁司令官であるバイス・ペルサキスに報告をした。
バイスはすぐに今までの証拠や証人の確認を急がせた。
何しろキャメリオット公爵家はこの国の薬草や薬剤を一手に束ねていて、公爵が宰相になってからはその力は益々大きくなっている。
キャメリオット公爵家に逆らえば困ることになる。
長年そんな噂が飛び交い不正が行われていると分かっていながら皆、口を閉ざして来た。
ところが6年前の疫病を境に反発する貴族も出て来た。
それがパシレオス公爵家や被害に遭った貴族たちだった。
最初はわからなかった巧妙なやり口だったが、諜報部員達の調べで次第に明らかにされて行く手口で、宰相の座を力ずくで奪われた事や疫病の時のあから様な薬剤の売り渋りが分かって来たが。
数回事情を聞くが証拠は不十分だった。
それからも脅迫や嫌がらせなどでもう黙ってはいられないと声が上がり始めてもいたがずっとキャメリオット公爵家は罪を逃れて来た。
それから6年。パシレオス公爵家。ペルサキス侯爵家。ペルヘルム子爵(アルクは老親が亡くなった後は領地を持たない王宮貴族になった)ダマラス伯爵家。セルウィン伯爵家などなどたくさんの貴族からキャメリオット公爵家の嫌がらせや脅迫を受けた被害届が出されていた。
国防院の最高司令官でもあるバイス・ペルサキスは、長年キャメリオット公爵家ならびにキャメリオット宰相を確実に仕留められる証拠や証言を集めて来た。
そして違法薬物のからくりも…
それは今実を結ぶ時を迎えようとしていた。
最高司令官バイスがアルクに声をかけた
「アルク。まずはキャメリオット公爵夫人を拘束するように。まずはミモザさんの身の安全の確保だ。そして夫人の取り調べを行う。いよいよ公爵家の悪行を暴ける時だ。いいな油断するな!」
「わかっています。任せて下さい。では、私は法務院と者と一緒にキャメリオット公爵家に向かいます」
アルクはビシッと背すじを伸ばして答える。
「ああ、アルク万が一にも逃すなどと言う失態は許されんからな!」
バイスの緊張や期待がひしひしと伝わって来る。
「ええ、わかっています司令官。だからミモザさんの違法監禁罪で引っ張るんですよね?」
アルクが嬉しそうに唇に弧を描いた。
(やっと。やっと、両親の償いを受けさせることが出来る。長かった。もう絶対に逃がしはしないからな)
数々の指示を出しているのは公爵夫人だということはすでにわかっていた。
宰相であるライオスにはほとんど発言権や権利がない事もすでにわかっていた。
「ああ、それに耐えがたき法も適用されるぞ」
「ええ、行ってきます」
アルクは軽やかに身をひるがえした。




