41ミモザ手紙を書く
その頃ミモザは侍女のラウラに手紙を書いた。
地下室にやって来るのは護衛兵だったがみんなミモザを気の毒に思っていた。
それでミモザはラウラに手紙を渡してほしいと頼んでみた。
「ええ、それくらいお安い御用です。俺達だって若奥様には同情してるんです。若旦那様はあんな調子でお辛い事ばかりでしたでしょう?離縁できてよかったってみんなとも話をしていたんですよ。でも、子供が出来たなら大奥様が黙っているはずもありませんからね。でも、ラウラに手紙を渡すくらい何でもありません」
護衛兵のライルは気の毒そうにそう言って手紙を預かってくれた。
ミモザはラウラに渡す手紙にこう書いた。
~ラウラへ~
あなたには本当にいつも迷惑ばかりかけて本当に申し訳ないと思っているわ。
でも、このままでは私は赤ん坊を生むまで閉じ込められることになると思います。ライオスも義理父も当てにはなりません。
私は何とかしてここから出る方法を見つけたい。
それで一緒に入れた手紙を法務院にいらっしゃるリック・ペルサキス卿と言う人に届けてほしいの。
ラウラも知っての通りお腹の子どもは義理父クリストとの間に出来た子供よ。
それはこの子がキャメリオット公爵家の血を引き継いでいないったことにもなるはず、確かに公爵家の嫡男ライオスの子供を身ごもれば跡継ぎとしての権利がキャメリオット家にもある。でも、お腹の子は違う。
だから、私は未婚の母親と言うことになるはずで、親権は私だけになると思うの。
お願いラウラ。その権利がはっきりすれば義理母様のやっている事が違法なことだってわかるはず。
そうすれば私はここから出ることが出来る。
だってこれは貴族の地位を利用して平民に横暴な扱いをしている。まさに耐えがたき法に値するはずなの。
お願い。この屋敷ではあなたしか頼める人がいないの。
貴方だけが頼りなの。どうか手紙を届けてほしい。
でも、危険な事はしないでね。あなたに何かあったら私は一生後悔するから。
~ミモザより~
ラウラは手紙を受け取ってすぐに行動をした。
王宮にも行ってみたが門番に追い返された。
迷った挙句にセルカークを頼ろうと思った。
彼はペルサキス侯爵家の3男だと言う事も知っていたし、兄がリックだということも知っていた。
それなのにミモザがどうしてセルカークを頼らないのかとも思ったが、言われなくてもわかると思ったのかもしれないとラウラは思った。
ラウラはあれからのふたりの事は知らなかったのだ。
***
ラウラがペルサキス診療所を訪れたのはちょうどシルヴィの命日の日だった。
診療所は閉まっておりメモを残して帰ろうとしていた時、ちょうどセルカークが男性と帰って来た。
「ラウラ?さんじゃなかったか?」
セルカークが尋ねる。
「はい、先生お久しぶりです。あの、その怪我は?」
セルカークは額をぶつけて少し血がこびりついていた。
「ああ、いや、何でもないんだ。何か用かい?」
「はい、若奥…いえ、ミモザさんから手紙を預かっていて、それがリック・ペルサキス卿当てなんですが、私王宮に行ってみたのですが追い返されてしまって…それで、先生なら届けてもらえるかと思ったのでお願いしようかと」
「それでミモザさんは無事なのか?」
そう聞いたのはアルクだった。
「あの、あなたは?」
「いや、ちょっとした知り合いだ。気にするな。いいからミモザさんは?」
「はい、地下室に閉じこめられていらっしゃいます」
「「地下室?!」」ふたりが一斉に声を上げる。
ラウラは慌てて説明をする。
「あの、地下室と言っても牢みたいなところではないんです。お部屋は屋敷にある部屋のようにベッドや家具があって絨毯もしかれています。高いところには明かり取りの窓も付いていています。ただ、鍵が掛かっているのでその部屋から出ることは出来ませんが…」
「それは幽閉じゃないか。どうして彼女がそんな目に合うんだ?」
「大奥様がミモザさんに屋敷にいるようにおっしゃったんですがミモザさんが出来ないとおっしゃったので無理やり…」
「公爵夫人がどうして離縁したミモザさんを?言うことを聞かないからって閉じ込めるなんて!!」
セルカークは怒りでぶちぎれる。
「今から公爵家にミモザさんを助けに行く!」
興奮するセルカークをアルクが止める。
「セルカーク待て!お前が言ったところで門残払いされるだけだ。キャメリオット公爵家には色々な嫌疑が掛かっている。まずは乗り込める証拠が揃ってからだ」
「それはいつなんだ?」
「もうすぐだ。それまで辛抱しろ!」
ラウラが口をはさんでいいかと迷いながらそっと言葉を発する。
「あの…」
「「なんだ?」」
「ミモザさんはお腹の子供はキャメリオット公爵クリスト様との子供なので公爵家の血は引き継がれていないとおっしゃっていて、リック・ペルサキス卿にそれを伝えてほしいみたいです。この手紙に詳しいことが書かれていると思うんですが、そうなれば大奥様の言っている跡継ぎにはならないから親権を持っているミモザさんを閉じ込めていることは罪になるはずだとおっしゃってます」
セルカークの目が点になる。
「今なんて?ミモザのお腹の子供とか言わなかったか?」
「はい、ミモザさんは妊娠されていますから」
「ミモザがに・ん・し・ん…」
セルカークは膝の力が抜けて今にも頽れそうになる。
アルクが横からセルカークの腕をぐいっと掴んでラウラに言う。
「それであの公爵夫人がミモザを閉じ込めたって事か…よし、わかったラウラさん。この手紙はペルサキス卿に渡す。ミモザさんを不法に監禁しているんだ。すぐに動くようにする。だから心配するな。ミモザさんにもう少し辛抱してくれと伝えてくれ」
「わかりました。ミモザさんを助けて下さい。お願いします。では、私はこれで失礼します」
ラウラは帰って行った。
「おい、セルカーク?大丈夫か?ミモザさんが妊娠か…お前どうする?彼女を受け入れる気がないならもう関わらない方がいいぞ」
「そんな訳に行くか。俺はシルヴィの時も知らん顔をしたんだ。今回こそは彼女を見放したりしない。例え嫌がられてもミモザさんの面倒は見る。絶対に!」
「なんだ。言うじゃないか。ああ、今度こそシルヴィの時みたいな失敗を繰り返すなよ。やっぱりお前いい奴になったじゃないか!」
アルクはミモザがシルヴィの生まれ変わりだと思うはずもなくセルカークの背中を「バーン!」と叩いた。




