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3だからと言ってどうなるものでもありません


 ミモザは足をひねったらしく足首に包帯を巻かれていた。

 「君、自分の名前が分かるか?」

 「はい、もちろんです。私はミモザ・キャメリオットです」

 ミモザが記憶を失くしていないとわかりセルカークはほっとしたらしくやっと本音をこぼした。

 「良かった。脅かすなよ。しかし驚いたよ。君がいきなり階段から落ちて…」

 「…」

 (いっそ死んでしまえばよかったのに。助けてなんかくれなくてよかった。て言うかどうしてあなたがそこにいたのよ!)そんな言葉が出そうになった時。

 「失礼する」

 入って来たのは夫のライオスだった。

 一瞬ライオスの顔が強張った。

 「なっ!…ふぅ~」

 ライオスは一度落ち着こうとしたのか息を大きくした。

 (なに?まさか男の人とふたりきりだったから?何を気にする必要があるの。いつも私の事なんか気にもかけないくせに)

 ミモザはつんとライオスから顔を背ける。

 「おいミモザ!お前は一体何をしてるんだ?はっ?階段から落ちそうになっただと?さあ、いいから帰るぞ、起きろ。ほら!」

 (ああ、いつもの…でもこんな所でそんな醜態をさらさなくてもいいのでは?でも、逆らえば後が恐い)

 ミモザがいつもの夫の態度に恥ずかしささえ覚えながらも恐怖で身体がすくんだ。


 セルカークは突然入って来ていきなり妻にこの態度に呆れる。

 「はい、すぐに…すみません旦那様」

 ミモザはベッドから起き上がり立ち上がった。

 (夫とは名ばかりのくせに。なによ!その偉そうな態度)といきなり込み上げる怒り。でも、何も言い帰すことなどできるはずもなく。

 「痛い!うぐぅ…」

 思わず脚の痛みにベッドに腰を落とした。

 「なんだ?そんな芝居をして、そうかわかったぞ。ミモザお前わざと階段から落ちたんだな?そうやって母の言いつけにそむく気なんだな。そんな手に乗るか!いいから、早くしろ。ったく。手間を掛けさせやがって!」


 セルカークの間の前で信じられない光景が広がっている。

 これが夫婦?エルランド国がいくら男社会だと言ってもこれはひどすぎる。

 「すみません。キャメリオット公爵家のライオス令息でしょうか?」

 「ああ、そうだが…君は?」

 ライオスの碧色の目がセルカークを捕らえた。ちなみに彼の髪は褐色だ。

 ライオスは気に入らない人間や自分に逆らう人間に容赦はない。父親が宰相と言う身分のためなんでも融通が利くしそれが当たり前だと思っている。

 要するに怖いものなしってやつだ。


 ミモザが慌てて口をはさんだ。

 「旦那様。この方は私を助けて下さったのです。あの、まだお礼も言っていませんでした。本当にありがとうございました」

 ミモザもいきなり前世の夫との再会にまだパニックだが、一応助けてもらったのだお礼くらいは言うべきと礼を口にした。

 「いえ、これくらいですんで良かったです。ライオス様奥様は足を捻挫しておられるので歩くのは数日無理かと思います。どうか抱いて馬車まで運ばれた方がよろしいかと」

 セルカークはあくまでぺこぺこ低姿勢で言葉を発したが、確かセルカークもペルサキス侯爵家の3男おまけに年上。ライオスを名前で呼ぶことはおかしくはない。


 ライオスがセルカークをふてぶてしい態度で見る。

 なんだお前、何か文句あるのか?みたいな。

 (一応妻が助けていただいた人に向かって、何?その態度。ああ…これだからわがまま放題で育ったおぼっちゃまは…

 それにセルカークあなたともかかわるつもりはないから!私、前世だけでもうこりごりなの)

 「…ぅ、はぁぁぁ~」

 ミモザはたまらず大きく息を吐いた。


 「世話になった。そう言う事なら護衛を呼ぶ」

 ライオスがさっと身をひるがえし扉の外に待機している護衛を呼ぶ。

 「こいつを運べ!」

 ミモザを護衛騎士が抱きあげた。


 セルカークは慌ててミモザに気を付ける事を言う。

 「あの…奥様、脚は数日冷やしてあまり歩かないようにして下さい。もし何かあれば私は王都で診療所を開いておりますので往診に行く事も出来ます。何かあればいつでもお声がけください」

 「お気遣いありがとうございます。あの、どちらの診療所でしょうか?」

 (あなたの近くには絶対近寄らないつもり。だからきっちり場所を聞いておくわ)

 「あっ、失礼しました。私はペルサキス診療所の診療師です。マクラダの中心部。ちょうどローズ通りより二本南側の通りオリーブ通りにありますので」

 ローズ通りは貴族の屋敷が立ち並ぶ区域で、オリーブ通りは王都マクラダの繁華街になる。

 「わかりました。本当にありがとうございました」

 (もう二度と会うこともないでしょう。お元気で)

 ミモザは白けた顔で抱かれていたが視線がベッドの横のサイドテーブルに行った時。

 (えっ?眼鏡。やだ。私、眼鏡かけてない。きっと階段を落ちた時に…)

 その時やっと自分が眼鏡をかけていないことに気づくがミモザの声は扉の向こうに消えて言った。


 ミモザは馬車に乗せられ屋敷に向かった。

 ライオスはもちろん一緒ではない。

 ミモザは帰りの馬車の中で前世の事を思い出したことはすぐに忘れようと思った。

 それにしても騎士だったセルカークが診療師になっているなんて、この世も終りね。

 診療師とかこつけて女を口説いてたりして…

 どうやっても前世の夫が女たらしだったことが脳にこびりついているらしい。

 でも、いくら前世を思い出したところでシルヴィはもう死んでいるのだ。

 おまけにろくな人生ではなかったんだし。

 あいつと関わるのは二度とごめん。

 それに生まれ変わったミモザはネルジェロス子爵家に生まれて育ち今ここにミモザが存在しているのだ。

 死んだシルヴィに戻ることはない。

 いくらセルカークと出会ったからと言って何も心配することはない。

 それに21年もたっていればまた結婚しているかもしれない。

 診療所を開いているなんてきっと幸せな人生を送っているのだろう。

 そう思うとなぜか現世の自分がみじめに思えた。









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