20クリスト・キャメリオット公爵の言い分
「まず、国王陛下、この度は私の不手際でこのようなお手間をおかけしますことを深くお詫び申し上げます。それでは私の話を聞いてください」
クリストの態度は白々しいほど落ち着いていて余裕さえ感じる。
ミモザはそんな元義理父の態度に腹立たしさを覚えるがここは審議の場、余計なことを言っては心象が悪くなるとぐっとこらえる。
「あの日がミモザが…失礼息子の元妻がけがをしたと聞いて見舞いの花を持って部屋に行きました。確かに息子は愛人と関係を持っていて彼女との関係がありませんでした。それで妻とも話をして何とか跡取りをと考えたのが私が変わりに閨の相手をするというものでした。何ともおかしなことを言われるかもしれませんがそれほど我が妻は跡取りの事に悩んでおりました。と言うより取りつかれていると言った方がいいほどでした。それでミモザと話をしてその行為をする事に彼女も同意しました。確かにいつもそれだけの行為をしていました。しかしあの夜彼女はよほど気持ちが落ち込んでいたのだと思います。花を持って行った私を見て彼女は嬉しそうにほほ笑みました。そして今夜は優しくしてほしいと甘い言葉をかけて来ました」
「そんなの嘘です!彼は嘘を言ってます。真実を話してください。そんな嘘言うなんてひどい!」
ミモザは驚いて言葉を発した。
「ミモザさん発言を許可してはいません。今はこちらの話を聞きとりしているんです。静かに出来ないならこの場から出て頂きますがどうされますか?」
すぐにリックがそう言った。
「わかりました」
ミモザは黙るしかなかった。セルカークも心配そうに首を横に振る。
「話を続けて下さい」とリック。
「はい。彼女は自分で寝間着のボタンを外しました。私はそんな事をしてはいけないと言いました。でも、女性にも欲情する時期があると聞いた事があったので彼女もその時期だったのかと思いました。息子には放っておかれ悲しい思いをされているという罪悪感はわたしにもありましたし、胸をはだけられ身体を擦りつけられると…私もまだ男としての機能は持ち合わせていますので、つい彼女の誘惑に負けてしまい彼女の身体に触れました。欲情して女性器に触れたのも事実です。手をガウンの紐で縛ったのは彼女がそうして欲しいと言ったからです。決して私はそんな事をするつもりではなかったんです。口をふさいだのは彼女があまりに声を上げるので断って口に布切れを入れました。それは悪かったと思います。私が彼女の女性器に自分の性器を投入したのも無理やりではなく彼女に求められたからです。それに目的は互いにはっきりしていましたので私はその行為をやめるつもりはありませんでした。ですが無理やりではなくすべて合意の上彼女の求めに従って行ったものであります」
「そんなのうそよ」ミモザが小さな声で力なく言った。
リックはその声が聞こえなかったように次の質問をした。
「それではその日の昼間彼女の触れようとした事実はどうですか?」
「それも彼女の誤解です。書類を渡そうとして彼女の腰のあたりに手が当たってしまいました。それを彼女は大げさに触れたと言って部屋を飛び出したのです。まったくのでたらめです」
「そうですか。では、診療師の診断書の事ですが、合意の上でそのようなことが起きるのでしょうか?」リックが聞く。
「それは私にはわかりません。ですが彼女がリリーに責められると思ってわざと自分で傷をつけたのかもしれません」
「わざとですか…わかりました。どうぞご着席ください。では診療師セルカーク・ペルサキスの意見はいかがでしょう。ペルサキス様立ってお話をお願いします」
リックは専門的なことを聞こうとセルカークに尋ねた。
セルカークは眉を寄せてクリストの話を聞いていたが、あまりに胸糞が悪いと言わんばかりに椅子をガタンと言わせて立ち上がった。
「私は15年診療師をしております。その間には娼館や出会い宿などで何度も女性器を見て来ました。乱暴された女性。合意ではあったが無理やりひどいことをされた女性などです。今回のミモザさんの傷を見てすぐにこれは暴行による傷だとわかりました。傷は縦に幾筋も裂傷がありこれを自分でつけることは不可能だと断言できます。公爵の話を聞くと、とてもこのような事態になることはないと思います。それと昼間の彼女はほんとに怯えていました。私は翌日眼鏡を届けたのは彼女が心配だったからです。そこで彼女から保護を求められました。診療所に連れ帰り初めて事態がそう言う状況だったと知りました。国王陛下どうか公平な判断をお願いします」
「わかりました。ありがとうございました。ご着席ください」
国王は顔色一つ変えずにやり取りを聞いていた。
「国王陛下。いかがでしょうか?」
「うむ。話は聞いた。これまでもそう言う関係にあった以上今回の事は合意の上の行為としか言いようがない。彼女がこれが初めてと言う事ならば耐えがたきことかもしれん。だが、今までもそのような行為を受け入れて来たということは耐え難くはない事と言う見解になろう。息子の妻の純潔を奪ったとでもいうなら私も許しがたいと思う。だが、ミモザ。今回の事はもう水に流せ。キャメリオット公爵。そうは言っても息子は愛人がおりミモザには不自由な思いをさせたのだ。離縁はしたが慰謝料はなかったと聞いた。それでは彼女もこれからの身のたてようがあるまい。どうだ?」
国王はクリストに相談を持ち掛ける。
「ええ、もとより彼女には援助をするつもりでございました。それ相応の金額を支援いたします」
「そうか。ミモザそれでいいであろう?どうだ?」
国王は自信たっぷりにうんうんと頷いてミモザを見た。微笑みさえ浮かべて…
ミモザは固まった。
どう答えればいい?国王がそう判断した。と言うことはもういくら申し立てをしても審判は覆ることはない?
もし反論すればどうなるのだろう。
ここで素直にこの条件を受け入れればすべて丸く収まることは明白だけど。
まさか国王に喧嘩を売るわけにはいかない…
でも…でも…私は被害者なのに!
ぐっと噛みしめたミモザの唇からは血がにじんだ。
心の中にも悔しい悔しいと血が滾っている。




