2あつ、あ”ぁ”ぁ”ぁ”思い出しました!
「いやです!そんな事情は知りません。それはお義理父様が何とかするべきこと。私だって被害者なんです。その汚い手を離して!もういや!」
ミモザはクリストの手を振り払って執務室を出て行く。
「待て!ミモザ。帰ってこい。そんな事をして今夜はどうなっても知らないからな!」
怒号が後ろから聞こえる。
でも、止まることなど出来るはずもなかった。
(もう、いや。こんな地獄。いっそ死んでしまいたい)
涙でかすんで前が見えないまま走り続けた。
そしてミモザは階段から転がり落ちた。
ミモザが階段から転がり落ちたちょうどその時一人の男が階段をあがっていた。
男がぐっとミモザの身体を掴んでくれたおかげで一番下まで転がり落ちずにすんだ。
「おい!大丈夫か?しっかりしろ」
ミモザはすぐに医務所に運ばれて手当てを受けた。
一時ほどしてやっと気づいたミモザだった。
「君。どこか痛むところは?」
心配そうにミモザの顔を見つめる優しそうな顔が霞んだ視界に入る。
ミモザはゆっくり目を開けてその顔を見た。
最初は意識が朦朧として顔がはっきり認識できなかった。でもじわじわ意識が戻って来て覗き込んでいる顔を見て…一瞬息が詰まった。
金色に輝く瞳。すっと通った鼻に形の良い唇。黒髪は短くきっちりと整えてある。
目尻に少ししわがあるが見間違うはずがない。
「ま、まさか。セルカークじゃ?」
にわかには信じられない驚きの声で名を呼んだ。
「えっ?俺の事を知ってるのか?」
「えっ?」
ミモザは口元に手を当てると霧の中に漂うような記憶を探った。
(どうしてセルカークがそんな事を言うの?あれ?ちょ、ちょっと待って!
セルカークは夫だった。私は彼の妻だった。彼と結婚していた。彼との子供を妊娠していた。でも彼は結婚も子供も望んではいなかった)
「ああ"……わ、私は誰?」
信じられない記憶が蘇りおかしな声が飛び出る。
「君、まさか記憶が?君の名前はミモザ・キャメリオットだと聞いた。宰相のキャメリオット公爵の嫡男の妻だとか…心配するな。連絡はついている。じきにご主人が迎えに来られるだろう」
ミモザは唖然としてその話を聞いていた。
(落ち着いて…私はミモザ・キャメリオットで間違いはない。だけどどうしてこいつと結婚してたって思うわけ?
いくら考えても脳内にはさっきから、自分がセルカークの妻シルヴィだった時の記憶がはっきり浮かんでくる。でもそのシルヴィは死んでいるはずなのに。
うそ!これって前世の記憶を思い出したって事?
じゃあ、私ミモザ・キャメリオットはシルヴィの生まれ変わりなの?
でもシルヴィが死んで何年くらい?
うそ。もう21年も経っている。
ああ…もうどうすればいいの?
それにしてもセルカークったらあれから21年も経っているのに相変らず美形なのね。前は髪を伸ばしてたのにこんなに短くしたのね。
相変らずいろんな女性とよろしくやってるのかしら?
ほんとにあなたって女と見ればすぐに関係を持ってたものねぇ…)
ミモザはベッドの上から心配そうに自分を見つめているセルカークを訝しげに見つめた。