19残酷な審議
そして数日後呼び出し状が診療所に届いた。
脚はすっかり良くなっていた。
ミモザは王宮に出向く支度をして出かけようとしていた。
服装は仕事をしていた時着ていたドレスだった。
「やっぱり俺も一緒に行こう」セルカークがそう言った。
「いえ、これは私の問題ですから。これ以上先生に迷惑をおかけするわけには参りません」
セルカークの事は先生と呼んでいた。
「だが、相手は宰相。どんな手を使ってくるかわからないんだぞ。もし、言いくるめられたらどうする?あんな事はどうにでも解釈できるんだ。君が誘惑したとでも言えるし激しくしてと言われてついとか言われたらどう言い返す?」
セルカークの顔は真面目だ。
ミモザは途端にその行為を想像して赤くなる。
「そんな事。だって証明書だってあるんですよ」
「いや、やっぱり君だけじゃ無理だな。俺も行く」
セルカークはどんなに断っても付いて行くと言って聞かなかった。
ミモザは離縁してすぐの頃はセルカークを警戒していた。でも、彼は全くそんなそぶりは見せず一定の距離を置いてそれ以上は立ち入らなかった。
酒だって飲まないし夜遊びに出る事もなかった。
診療師として仕事をこなし夜には薬を調合したり時には掃除や洗濯もしていた。
まったく自分の知っていたセルカークとは変わっていた。
それに女性がいるようにも見えなかった。
だから最近ではすっかり彼は変わったのかもしれないとさえ思っていた。
でもやっぱり違うのかも…
そう思うとなぜか胸がキュンと締め付けられた。
(別にセルカークの事なんか好きでもない。好きなわけがない。なのにこんな時に優しくされれば誰だって…ああ、もぉ!)
ミモザは自分の気持ちに気づいて激しくそれを否定した。
***
ここは王宮内の国王の執務室の隣の部屋だ。
ミモザは近衛兵に案内されてここに来た。もちろんセルカークは付き添い人として一緒に来た。
そこに執務官のリックと元義理父のクリストが現れた。
ふたりは黙って部屋に入って来た。
ミモザはクリストから恐いくらい睨みつけられ背筋がぞくりとするが負けないように視線は外さなかった。
部屋には窓際に国王が座る執務机と思われる机があり、中央には両サイドに細長いテーブルがあって椅子が2脚ずつある。
そして執務机の隣にもう一つ机といすがあった。
リックが両サイドに別れて座るように指示をした。
リックは執務机の隣の机のある椅子に腰かけて話を書き留めれるよう支度をした。
廊下側で鳴く執務室側の扉が開いて国王陛下が入って来た。護衛騎士は部屋の外で控える。
国王はリックからすぐに始めれると聞いたらしく執務机の椅子の腰を下ろすと頷いた。
リック執務官が声を上げる。
「これからクリスト・キャメリオット公爵への訴えの案件について審議を始める。両者真実のみを話すと誓いなさい」
すぐにクリスト・キャメリオットが立ち上がり片手を上げて宣誓をする。
「わたくしクリスト・キャメリオットは真実のみを話すことを誓います」
リックがミモザを見る。
ミモザも慌てて立ち上がり同じく宣誓をした。
「わたくしミモザは真実のみを話すことを誓います」
「これより審議を始めます。まずはミモザさんから真実を話してください。どうぞ」平民となったミモザに姓はなかった。
「はい、私はクリスト・キャメリオット公爵から暴行を受けました。証明書は診療師のセルカーク・ペルサキス様に診察を受けて書いていただいたものです」
「それではもう少し具体的にその状況をお話しください」
リックの顔は眉ひとつ動かない。
ミモザはあの時の事をどう話せばいいか狼狽える。
セルカークが隣で「何をされたか話せばいい。君は被害者なんだ。何も恐れなくていい」と言ってくれた。
ミモザは大きく息を吸い込むと話を始めた。
「もとはと言えば義理母が言い出したことでした。夫が私を相手にせず愛人と関係を持っていて、でも跡取りはどうしても銀髪甥碧い瞳の孫が必要だと…それで義理父と無理やり行為を持たされました。でもいつもその時は義理母が部屋の外にいて本当にそれだけの行為と言うか…私はすっかり言いなりになっていたんです」
「では、どうして訴えようと?」
「義理父はその日の昼間もおかしかったんです。私は触られそうになって執務室から逃げ出して階段を落ちそうになってその時セルカーク先生に助けてもらったんです」
「セルカーク・ペルサキス答えなさい」
「はい、彼女が階段を落ちそうになったところを助けました」
「では、キャメリオット公爵がミモザさんを触ったところは見ていないんですね?」
「はい、見ていません。ではその続きを」リックはあくまで中立な立場を取る。
「その夜でした。義理母が私の部屋に来て言いました。ちょうど妊娠しやすい周期の時期でしたので今夜その行為をするように。自分は用があるからきちんとやりなさいと言われて義理母は出掛けました。その後で義理父が私の部屋にやって来ました。いつもは客間なのですが脚を怪我していて動けないからと義理父が部屋に入って来ました。いつもは話もなくただの行為だけなのに花を持って私の機嫌を取って触って来ました。嫌だと拒否したら口をふさがれて両手をガウンの紐でベッドの上の柵に縛り付けられました。そして無理やり触って来て…」
「嘘だ!こいつは全くのでたらめを」クリストが声を荒げる。
「静かに。今はミモザさんの聴取です。それで彼はどこを触りましたか?」
「む、胸です。それから脚の間に入って来て…あそこを…」
「あそことはどこですか?」リックの声は全く同様などしていない。
「ま、股の間です…もう嫌だ。こんな話まで…屈辱を受けたんです。無理やり…抵抗してもかなわなくて抑え込まれて…うっ、うぐぐぐ…」
あまりの屈辱にミモザの喉からは嗚咽が零れる。
「すみません。これは真実をはっきりさせるために必要な事ですので無理やり何をどこにと言うところをはっきり話してください」
「えっ?そ、そんな事…」
ミモザはうろたえた。でも諦めたように話を始めた。
「…私の女性器の中にクリスト・キャメリオットの男性器を無理やり…暴行されました。うっぅっぅっ…こんなの…」
ミモザは拳を握りしめ唇を噛みしめる。
「ミモザさんありがとうございました。座って下さい」
ミモザは頽れるように椅子に座り込む。セルカークがすぐ隣に椅子を寄せて「大丈夫か?辛いよな。でも、これであいつの正体を暴けるから…」
そう言いながら背中をそっとさすってくれる。
リックが声を上げた。
「ではクリスト・キャメリオット公爵。立って真実を話してください」
クリストが鬼のような形相で立ち上がった。