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18離縁後


 ミモザはセルカークと一緒に診療所に帰って来た。

 セルカークは仕事があり夕食などはテルヒが全て持って来てくれた。

 彼はミモザの部屋に近づくことはなかった。

 ミモザは離縁が成立したので今夜あたりセルカークが何か言ってくるかと構えていたがそんな勘繰りは徒労に終わった。

 翌朝は昨日と同じく朝食を作って持って来てくれた。

 昨日と同じメニューだ。パンとオムレツとスープ。

 ミモザは一晩中うつらうつらしていたが、朝は早くから目が覚めていた。

 セルカークは昨日と同じくきちんと声をかけて入って来た。

 そして脚まで診てくれた。

 「かなり良くなっている。少し動かしてもいいかも知れないな」

 ミモザは調子が狂ったがそれでも世話になっているので何かしたかった。

 「でしたら診療所のお手伝いをしてもいいですか?私、薬の調合も出来ますし…」

 「調合が出来るのか?」

 「はい、キャメリオット家の領地では薬草栽培が盛んで国内外に薬草や薬をたくさん卸していますので、私も王都の店の手伝いに行ってそこで習ったんです」

 キャメリオット公爵家は薬草や薬の販売をしていてかなりの資産があるのだ。

 「貴族の奥様がそんな事を?」

 「義理母様に言わせれば子を産まないなら手伝いをするのが当たり前だと言われましたから」

 口角を上げて気にしていないと笑って見せる。

 (ライオスからも相手にされなかったし、夜会やお茶会に参加することもなかったから余計疎ましく思われたのだろうと思っていたけど今となっては有難かったかも知れないわ)

 セルカークはどう答えていいんだ?みたいな困惑した顔をしたがすぐに茶化した。

 「公爵家も先見の明があったんだな。嫁が離縁した後困らないようにしたってわけだ」

 「ええ、私もそう思います」

 ミモザは今度こそ笑った。

 「おっと、冷めてしまう。早く食べて…手伝いはいつでもいいから」

 セルカークはそう言っておりていった。


 ミモザは朝食を食べ終わると立って歩いてみた。痛みはほとんどなかった。

 トレイを持ってキッチンにおりて食器を片付けると診療室に行った。

 セルカークは診察中で中年の男性を診ていた。

 「先生。何かお手伝いはありませんか?」

 セルカークが診察の手を止めて考え込む。

 「そうだな。じゃあ、咳止めの煎じ薬を作れるか?」

 「はい、オオバコとヨモギの組み合わせでいいですか?」

 「ああ、それでいい」

 「はい、すぐに」

 「薬草はそれぞれ棚に薬草があってラベルが貼ってあるからわかるだろうが、わからなければ聞いてくれ」

 「わかりました」

 ミモザは薬室に入るとすぐに棚を確認してオオバコとヨモギを見つけた。

 ラベルと確認してそれでももう一度セルカークにそれを見せる。

 「これで間違いありませんか?」

 セルカークは一度立ち上がってラベルを確認してくれた。

 「ああ、これでいい。それを一つまみずつ煎じてくれ」

 「はい。すぐに」

 ミモザは習った通りふたつの薬草を煎じて煮だす。


 患者はコホンコホンと咳き込んでいて、この人の薬だとわかった。

 「ミモザさん出来上がったか?」

 セルカークの声はすぐ隣の部屋にも良く聞こえたがミモザさんと呼ばれるとは思っていなかった。

 「…はい」返事が遅れた。

 セルカークは男から空き瓶を預かるとそれを一度消毒するように言った。そして瓶に煎じ薬を入れるようにとも。

 そして男に煎じ薬を渡すと男は帰って行った。

 セルカークがミモザに言う。

 「ミモザさん助かったよ。脚は大丈夫そうか?」

 「はい、先生。ミモザさんって呼ぶなんて」

 「でも、もう離縁したんだ。夫人はおかしいだろう?他に呼んでほしい呼び方があるとか?」

 「いえ、特には…」

 ミモザも困ったがそれ以外に呼び方もないかと思った。だが、少し恥ずかしい。

 ミモザはそれから傷薬など頼まれた薬を作った。午後にはテルヒが来てミモザはもう休むように言われた。


 そうやって3日が過ぎてラウラがミモザの荷物を持ってやって来た。

 ミモザは部屋に通して話を聞く。

 「若奥様、すみません。大奥様が荷物を片付けろとおっしゃって、取りあえず持ち出せたのはこれくらいなんですが」

 「ラウラごめんなさい。あなたには知らせたかったんだけど屋敷には出入りしないと言ったから…ライオスとは離縁になったの。それで義理母様はどう?」

 「はい、かなりご立腹な様子ですがライオス様がその話は蒸し返すなとかなりお怒りになっていて…」

 「まあ、口うるさく言われたくないのよ。それでヴィオラさんと再婚するんでしょう?」

 「いえ、このままだとヴィオラさんは追い出されるかもしれません。若奥様の事も連れ戻そうとはなさっていません。早速大奥様は次の縁談の話を考えていらっしゃるみたいですし、ヴィオラさんがいると今度こそうまく行かないかもしれませんから…それより若奥様。大旦那様と何かあったのですか?」

 「ラウラ。若奥様はもうやめて。ミモザでいいわよ。大旦那様がどうかしたの?」

 「いえ、大旦那様と大奥様が激しく言い争っていらして、あなたがミモザに惑わされるなんて一体どうするつもりよ!とか言われて、大旦那様が心配するな。ミモザが勝手に言っている事。誰が信用するか!と叫ばれて…すみませんこんな話。でも使用人はミモザ様のよくわかっていますからあの方たちがまた何かしなければと心配なんです」

 「ラウラありがとう。心配ないから。あなたはいつも私に優しくしてくれたわ。本当にありがとう。急にこんなことになってきちんとお礼も言えなくてごめんなさい。みんなにもよくお礼を言っておいてね」

 「そんな。でも、これでミモザ様が幸せになれるといいですね。あっ、そうでした。ご実家からお手紙が届いておりましたので持ってまいりました」

 「まあ、ありがとう」

 「では、私はこれで…あまり遅くなるとまた叱られますので…どうかお元気で」

 「ええ、ラウラも元気でね」

 ラウラは名残惜しそうに帰って行った。


 ミモザは実家ネルジェロス子爵家の父からの手紙を開封した。

 ~この度の事キャメリオット公爵家から聞いた。

 ミモザ一体何を考えているんだ。離縁なんて勝手なことをしてうちのメンツは丸つぶれだ。

 離縁してもお前を受け入れる余裕はない。それに勝手なことをしたんだ、

 お前はネルジェロス子爵家の籍から出てもらう。ネルジェロス子爵家の名を名乗ることは生涯許さん。

 これからは平民として好きにやって行け。

 もう二度と顔を見るつもりはない。

                            セオ・ネルジェロス~


 (ああ…やっぱり。お母様ごめんなさい。心配かけて。でも私は大丈夫だからね)

 ミモザは手紙を握りしめてそう呟いた。






 

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