15離縁の手続きに
無事に王宮に着くと私たちは二階にある法務院を訪ねた。
もちろん階段は有無を言わず抱かれそうになったが、歩く練習だと断固拒否した。
一歩一歩ゆっくり杖を突いて階段を上がった。
セルカークはそれを心配そうに見ながら後ろからついて来た。
運のいい事二法務院の執務室は階段を上がって一番最初にある。歩く距離も少なく何より宰相の執務室には程遠い距離なのだ。
義理父は今頃出仕してもう執務室にいるかもしれない。ライオスもそろそろ顔を出すかもしれない。
でもそんな事で諦めるわけにはいかない。
まず最初に法務院の入り口で受付をしなければならない。
受付で女性から用紙を渡される。この人は法務補助員だろう。
「まず、こちらの用紙に要件をご記入下さい。その後必要書類を書いていただきます」
ミモザは離縁手続きと書いて必要書類を貰う。
書類には名前、住まい、理由を書いていく。
もちろん義理母から跡取りを切望されているとか、夫の愛人がいるからとか理由にはならない。そんな貴族はたくさんいるからだ。
もっと直接的な精神的苦痛や身体的な苦痛を受けている事でなければ受付さえしてもらえないだろう。
(ほんとに全部書くつもり?こんな醜態をたくさんの人が知るなんて…屈辱的だわ…)
ミモザの手が動かなくなる。
「大丈夫。ここは法務院。すべての者に守秘義務があるから君の事が誰かに漏れる心配はない」
セルカークがミモザの子悪露を読み取ったかのようにそう助言した。
はっとセルカークを見上げる。
(彼って背も高かったのよね。ほんとに憎たらしいけどいい男)
「ええ、そうね」
(何のためにここに来たのよ。まったく、しっかりしなさいよ私)
ミモザは気を取り直して義理父の暴力。義理母の強要の事。そして夫と閨の関係がない事を書いた。
それにセルカークとライオスに書いてもらった証明書も付けた。
「お願いします」
受付で書類を出す。受付の女性はちらりと書類を見る。
「離縁の手続きですね。こちらでお待ちください」
「はい」
あっけなくそう言われて拍子向けする。
「そちらの方もご一緒ですか?」
セルカークに問いかけた。
「そうだ」
ミモザは首を振る。
「先生、ここからはひとりで大丈夫です。きちんと話を聞いてもらえそうですから」
(だって、義理父にされた事とか話すかもしれない。もう帰ってほしい)
「いや、俺も一緒に…いいから心配するな。ひとりじゃ帰りだって困るだろ?」
「でも」
「ご本人がそう言われてますのでお連れ様は…」受付の女性が退室をと言いかける。
「そうだ。リック執務官はいるか。俺は身内なんだが呼んでもらえないか?」
女性の顔色が変わる。
「失礼ですがお名前を伺ってもよろしいでしょうか」
「失礼。セルカーク・ペルサキス。弟だ」
「すぐに呼んでまいります」
受付の女性はにこやかにほほ笑むとすぐにはそばを離れない。むしろセルカークに色目を使っているように見えた。
「まだ何か?」
セルカークはそんな女性をじろりと見る。
女性はすぐに部屋に中に入って行った。
ミモザは驚く。脳内でセルカークの行動分析を始めた。
(あれ?セルカークってそんな男じゃなかったわよね。こんな時は大抵女性の近くによって髪の毛のひと房でもすくってウインクのひとつもして女の気を引くの。そうやって自分の言うことを聞かせるのよ。そしてその後必ずデートの約束とかするのよ。おかしいわ。ああ‥まだ朝だもの。そんな話は出来ないか?いや、法務院の受付でから?ううん、さすがに離縁しようとしている女の前では都合が悪いと思ったから?まあ、そんな事私には関係ないし、どうでもいいわ)
「セルカークどうしたんだこんな所に来るなんて、まさかお前何かやらかしたのか?」
そう言って出て来たのはセルカークの兄リックらしい。
彼はセルカークと同じ黒髪だが瞳は蒼色だった。かなり年が離れているらしく中年のおじさんと言った感じだったがきちんとした身なり整えられた髪でかなりやり手の法務官ではと思えた。
「リックそれはないだろう?これでも医療師なんだ。それより彼女の話を聞いてもらいたいんだ。事は急を要する。とにかく中に入れてくれ」
セルカークはそう言ってミモザと一緒に中に入った。
呼ばれてもいないのに強引だとは思ったが受付して用紙を提出してもすぐに話を聞いてもらえるわけだはなかったらしいと後で知った。
だからセルカークは兄を呼んでくれと言ったらしいことも。