12もう勝手な夫の言い分には負けません
ラウラが昼食を買って来て一緒に食べる。
簡単なサンドイッチと紅茶は茶葉を買って来てもらった。
皿やカップは借りて使う。
食べ終えるとラウラを帰らせることにした。
しばらくこちらで療養が必要になったと知らせるためもあるしラウラにも仕事があるからだ。
夕方テルヒが声をかけてくれて夕食の準備をして帰って行った。
夕食のメニューはサケのソテーとコーン、それにポテトに人参のスープだった。
味はとても美味しくミモザはすっかり平らげた。
食べ終えるとどたどた階段を上がる音が聞こえた。
いきなり扉が開いて夫であるライオスが入って来た。
「ミモザどういうことだ?なぜこんな所にいる?答えろ!」
「旦那様、申し訳ございません。昨日の怪我が少し悪いらしくて療養のためここに置いて抱くことになりました」
「貴族がこんな所で療養だと?ふざけるな!さあ、帰るぞ。馬車を待たせてある。今帰れば母も機嫌を直す」
ライオスはミモザを無理やり起こすと連れ出そうと身体を強く引っ張る。
ミモザはぐっと力を入れてそれを庇む。
「いいから大人しく帰るんだ。今なら誰も怒ったりしない。まったく俺を困らせる気か?」
ライオスは相当頭に来ているらしく。何度も舌打ちを繰り返す。
「いやです。申し訳ありませんが私はもう義理母様のご機嫌を取るつもりはありません。ご機嫌はあなたの愛人のヴィオラさんにでも取った貰えばいいのです。私はあなた達の犠牲になる気もありません。跡取りはヴィオラさんが産めばいい事です。あなたの愛するヴィオラさんが!そのほうがあなたにも都合がいいではありませんか。帰って下さい。あなたの顔など見たくもありません」
「そんなわがままが通用するとでも?」
ライオスの整った眉がいぶかしげに上がる。目は険しい様相を呈して唇はわなわな震えている。
こぶしを握り締め手を出しそうななるのを必死でこらえているようにも見える。
(ふん!殴れるものなら殴って見なさいよ)と言いかけたがそれはやめた。
「わがままではありません。私はけが人です。それもあなたの父親のせいです」
「今度は父のせいか?」
「まったくお前と言う女は。もういい!お前とは離縁する。二度と帰って来るな!」
「ええ、帰りません!」
「その代わりこの離縁はお前の有責だからな。お前の勝手なわがままで俺は迷惑をこうむるんだ。慰謝料は払ってもらうからな。覚えていろ!」
「旦那様は自分が愛人を持ち私とは一切の関係を持たず跡取りを強要されている私に責任があると?」
「ああ、そうだ。公爵家の跡取りを産むのはお前の仕事だろ!」
「それはあなたとの間の子供だと私は思いますが、あなたはそれは望まれないのですから私に責任はありません。それに迷惑をこうむっているのは私の方です。離縁と言われるなら慰謝料を払っていただくのは私です」
「なっ!クッソ。覚えていろ。二度と屋敷に入れないからな。お前など二度と見たくもない」
義理母と同じように人を脅して来る。(今さらそんな脅しが通用すると思ってるの?)
ミモザは黙っていた。するとよけい気を悪くしたらしい。
「大体お前なんか興奮もしないんだ。ったく。よくそれで俺の妻だと言えるな。」(あら、私だってあなたの妻でいたくありませんが)
「今言われた事は確かですね?」
「もちろんだ!」
「では、あなたがそう言われた事ここに書いて下さい。私は二度と騙されたくないんです」
「ああ、いいだろう」
興奮したライオスは苛立たし気に紙に書く。
○ミモザを二度とキャメリオット公爵家の屋敷に入れない。
○二度とミモザと関わらない。
○ミモザに性的興奮しないので妻と思っていない。
以上の事ライオス・キャメリオットは確約する。
ライオスは書いた紙をベッドにひらりと投げつける。ミモザはその紙を見る。
「これは誓約書と認識していいんですね?」
「当たり前だ。これでやっとせいせいする。帰ったら母にも報告しておく。もう取り返しはつかないんだからな」
「結構です!」
「ふん!せっかく迎えに来てやったのに可愛げのない女だ。勝手にしろ!言っておくがこれで離縁できると思うな。書類の上ではお前はずっと俺の妻だ。それで満足だろう?屋敷にも戻らず好きにすればいい。お前が出て行ってくれてせいせいするよ」
ライオスはなんだかんだと言いながら帰って行った。
まるで負け犬の遠吠えってやつ。
きっと離縁するとなると義理母にひどく叱られるのが嫌なのだろう。義理母がぐちぐち言い出すとそれはもうしつこいのだから…
でも、言いたいことを言ってすっとした。
生きて来て今が一番スッキリしたかもしれない。
こうなったら一刻の猶予もない。明日にでも王宮に行って離縁の手続きをしなくては。
ライオス甘いわよ。
妻を家に入れないなんてありえないから。
妻と関わらないっていうのもあり得ないから。
こっちには切り札もあるって言うのに。
もちろん慰謝料を貰うのは私に決まっている。




