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1ここは悪夢の世界


 「やめてくださいお義理父様!ここは王宮なんです。そんな不適切な行動は慎んでください!」

 そう言ったのはミモザだった。

 今目の前にいるのは彼女の夫の父クリストだ。

 ミモザの職場は王宮内の政務棟にある宰相執務室で王宮の二階に部屋がある。

 学院をトップクラスの成績でで卒業して政務院で働き始めて3年になる。

 あんなに苦労して勉強した知識はほとんど活かされる事なくもっぱらの仕事は書類の仕上げや整理だった。

 ミモザの配属は宰相の執務室。彼女の肩書は政務補助員にだった。

 そして最悪な宰相の名前はクリスト。ミモザの愚夫ライオスの父でもあった。

 ミモザは1年前にライオスと結婚した。

 思えばそれが悪夢の始まりだった。


 彼は悪びれる様子もなくさらにミモザに近づきながら言う。

 「いいではないか。こういっては何だが、私たちは親子であって親子ではない特別な関係ではないか!」

 宰相のクリストは薄い唇にいやらしい笑みを浮かべる。

 ここは王宮内にある政務棟。いくら宰相の執務室とはいえ扉の向こうにはたくさんの人がいることは誰にでもわかる。

 ミモザが大声を出せないことをいい事に義理父がミモザの腰をぎゅっと引き寄せた。

 「さあ、いい子だ。なに、少しここに触れたいだけだ。屋敷ではあいつが部屋の外にいると思うと一切の情を挟めない。なあ、わかってくれるだろうミモザ。私だって興奮させるためにはそれなりの雰囲気が必要なんだ。ここでほんの少し弄らせてくれれば、今夜はすんなりいく。その方がお前もいいんじゃないのか?」


 義理父がなにを言いたいのかそれくらいの事はわかっている。

 あいつとは義理母のリリーの事であり、どうしてこんなことを要求して来るのかもわかっている。

 ミモザはキャメリオット公爵家の嫡男ライオスと結婚した。

 ライオスは父宰相の執務補佐官という肩書だが職場に来ることは滅多にない。

 子供はライオス一人だし彼と結婚したからにはミモザが子を孕まなければならなかった。

 公爵家の跡取りを。

 なのに…


 ミモザは思い出したくもない初夜の夜の事をまた思い出した。

 初夜の夜、ライオスは母親にひどく言われたのだろう。

 ミモザの頭の中にはあの夜の親子の会話が想像できた。

 脳内には義理母が言いそうな言葉が浮かんだ。

 ”いい?ライオス。これはあなたの義務なのよ!キャメリオット公爵家には跡取りがいるの。これはあなたの大切な仕事。嫌とは言わせませんよ。さあ、妻になったミモザと閨を共にするのです。さあ、あの女の中に子種を注ぐまでここから一歩も通しませんよ!”とか何とか言ったのだろう。

 ライオスはミモザと閨を共にした。

 いやいやながら部屋に入って来るなりベッドに押し倒され野獣のようなライオスにまるで犯されるように純潔を奪われた。

 一切の愛情はなかった。

 優しい言葉も慈しみの口付けも愛撫もなければ気遣いもない。

 ただ奪われて中に子種を注がれただけだった。

 真っ暗な部屋の中で。


 そしてライオスは言った。

 「義務は果たした。俺はお前みたいな眼鏡猿のような女は嫌いなんだ。お前の顔を見ているだけで気分が悪くなる。でも、母が義務を果たせって言うから…ったく。義務は果たしたからな。これで子が出来なかったらお前のせいだ。ふん」と。そう言うなりさっさと彼は部屋を出て行った。

 それ以来ライオスはミモザと距離を置いたままだ。

 ミモザの心と身体にはひどい傷が出来た。

 後で知った。

 彼がミモザを毛嫌いしたのは彼には結婚する前から付き合っている女がいたからだ。

 彼女の名前はヴィオラ。

 それならヴィオラと結婚すればよかったのだ。

 ところが母親がそれを許さなかったらしい。


 キャメリオット公爵家の一人娘だったリリーはクリストを婿として迎えた。

 このエルランド国はまぎれもない男尊女卑の国で、女は男の言うことを聞くのが当たり前。

 女が男に逆らうなどもってのほかと言う考えの国だった。

 だが、キャメリオット公爵家は違った。実権を握っているのは母親のリリーだった。

 もちろん表向きには義理父のクリストが威張っているようには見えるが内情は尻に敷かれた小汚い親父だった。

 そんなリリーはキャメリオット公爵家に侍女として働きに来てライオスと関係を持っている平民のヴィオラを毛嫌いしていていつもライオスと喧嘩をしている。

 ヴィオラを追い出せばライオスも出て行くというので彼女を追い出すことも出来ずにいる。

 ミモザはそんな事は結婚後に知った。

 でも、すべてはもう手遅れだった。

 ミモザの父であるネルジェロス子爵はキャメリオット公爵家の分家の分家ほどの遠い親戚で数年の天候不順で作物が不作で借金があり今年はもうどうにもならない所まで来ていた。

 そこにリリーから援助とミモザの縁談の話が舞い込んだのだ。

 父のセオは二つ返事で結婚を快諾。ミモザの意志など全く意味をなさなかった。

 まあ、そのおかげでネルジェロス家は何とか建て直しに成功したのだけれど…

 ミモザの世界は地獄に変わった。


 






 

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