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自己紹介とペットショップ

☆★☆ 連絡先交換 ☆★☆



「春斗、さっきの挙動不審な件だけどよ、お前何がしたかったんだ?」


 僕と近藤鉄也くんと最上茜さんの3人が、並んで校門から出た矢先、鉄也くんが僕に尋ねた。


「いやあ~、ホント恥ずかしい話なんだけどさ、友達と一緒に下校するのって、小学校の低学年以来だったから、どうやって合流したらいいのかとか、何て話し掛けたらいいのかとか、色々迷っているうちに変な動きをしちゃったってわけなんだ」


 2人を僕の家に案内するわけだから、僕が先頭を歩いている。


 だから2人からは今、僕の表情を見られていない。と言うのがせめてもの救いだ。


「春斗くんってホント面白いね」


 クスクスと最上さんも笑う。


「ボッチ歴も長くなると色々ありそうだもんな」


 何故か独り納得する鉄也くん。


「ふむ、その件は納得した、じゃあ次、連絡先交換しようぜ春斗~」


 そう言って鉄也くんは自分のスマホを出して操作して、QRコードを見せて来た。


「うわ、なんか緊張するな……」


 気後れしている僕を鉄也くんは笑う。


「ハハッ。そんな緊張も多分今日限りさ、泥沼のどん底で這いつくばっていたお前はもう、前に進むか上に上がるしかないんだからよ」


 あっ! その言葉!?


 僕は咄嗟(とっさ)に口ずさんだ。


「『相良ナイ(さがらない)』」


「ん? なんだ? どうした?」


「妹が付けた犬の名前」


「わかるけど、それがどうしたんだ?」


「相良ナイと言うのは『下がらない』つまり『進むか上がるかするしかない』って意味で、妹が僕の為に付けてくれた仔犬の名前だったんだ」


「…………」


 鉄也くんは小さく「相良妹すげえな」と呟いて天を仰いだ。


 それっきり鉄也くんは沈黙してしまったが


「へー、春斗くんの妹って、きっと本当にお兄ちゃんの事が大切なのね~。早く会ってみたいなー」


 代わりに最上さんが反応してくれた。


 相良春斗と近藤鉄也の連絡先の交換が完了した。


「私とも交換しよ?」


 最上さんもスマホを取り出してQRコードを差し出して来た。


 僕は素直に「ありがとう」なんて言って交換しようとしたんだけれど、鉄也くんは


「おまえ普段、男子とは連絡先は交換しないって言ってるのに…… 良いのか? 俺は別に無理強いはしねえぜ」


 最上さんにそう言って顔を(しか)めた。


「ただの男子とは絶対に交換しないよ? だって面倒な事になるからね」


 ああ…そうか、この最上さんはきっとモテる人なんだ。だから男子には連絡先を知らせない。


「そうだよね、なんとなく理解した」


 スマホを引っ込めた僕を見て最上さんは


「チョチョッ、春斗くんスマホ出しなさいよ、あんたたちはただの男子だとは思ってないから」


「俺ら普通に男子なんですけど~?」


 鉄也くんがちょっと意地悪な表情になってる。なんとなくいたずらっ子みたい。


「もうっ、面倒な事言い出すのね、この意地悪くんはー」


 最上さんが口を尖らせて抗議しているようにも聞こえるセリフなんだけれど、怒ってはいないみたいでむしろ可愛らしいまである。


「へっへっへー」


「私はあんたたちは『猿とは違う』って思ってる。ちゃんとした人間の男子。目つきもいやらしくないし、普通に話が通じる楽しい男子だと思ってるの」


「まあまあの高評価あざっす」


 鉄也くんは納得したみたいだけれど、僕は『猿とは違う』って部分が引っ掛かった。


「ところで『猿とはちがう』ってどういう事?」


「私の事を良く知りもしないのに『好きだ』とか『付き合って欲しい』とかしか言えない盛りの付いた男子共とはさ、あなたたちは全然違うって事」


 過去になんかあったのかな?


「とにかく、貴重な『普通の男子』のお友達として、連絡先の交換よろしくね」


 そういうことならと、僕たちは、最上茜さんとも連絡先を交換した。



☆★☆ 散歩のスケジュール ☆★☆



「ナイくんの散歩って、時間決めてんの?」


 下校中、我が家まではもうあと4~5分だ。


「一応、学校がある日の放課後は帰宅後割とすぐって事にしていて、休日はだいたい午後の3時半頃~4時半くらいの間って決めてるよ」


「なるほどなー、偶然を装って遭遇するにはその間に散歩コースに出現すればいいのか~」


 鉄也くんは偶然遭遇するシチュエーション、好きそうだな。


「でもせっかく連絡先交換したんだし、普通に連絡したらいいんじゃない?」


「そうね、私だったら一応連絡を入れるよ?」


「お前が散歩してるってんならそうだけどよ、妹ちゃんがメインで俺の妹も一緒かもしれないって考えればよ、連絡なんかしたら拒絶100%じゃん? 偶然だと舌打ちくらいで済むだろうからモフれる可能性大! なんてな」


「モフるって…… 鉄也くんってもしかしたら『ケモナー』なの?」


 大事な事だ、ちゃんと訊いておこう。


「そうだ。結構高レベルであると自負しているまである」


 胸を張って認める近藤鉄也くんは『ケモナー』。しっかりと記憶した。



☆★☆ 本当に偶然 ☆★☆



 僕の家があと少しまで近づいてきた。


 そんな折、道の向こう側から2人の女子中学生が歩いてきているのが見えた。


「本当にこれは偶然なんだが…… 向こう側から俺の妹が向かってきている」


「時間的には必然かもしれないけどね、一緒に歩いているのは僕の妹だよ」


 今日はダッシュで帰らずに、3人で並んで歩いてたし、連絡先の交換もしたしで結構ゆっくりなペースで帰って来たからな、あり得る事だとは思っていた。


 そんな中、


「あー、おにいー、ここで一緒になるなんて珍しいねー」


 僕を見つけて駆け寄ってくる、我が妹の笑顔が眩しい。


 もし澪が犬だったなら、尻尾をブンブンと振り回しているだろうことは想像に難くない。


 ただ、妹よ…… 今日は2人もゲストがいるんだ。


 おにいはめっちゃ恥ずかしいぞッ!



☆★☆ 自己紹介1 ☆★☆



「は、春斗先輩初めましてッ、一度は直接お会いしたいと思っていました、近藤鈴(こんどうすず)ですッ!」


 鉄也くんの妹さんの鈴ちゃんが、真っ先に挨拶してくれた。


 ハキハキとして、とても気持ちの良い感じがした。


「僕の事は知ってるみたいだけれど、敢えて言うね、澪の兄の相良春斗(さがらはると)です。よろしくね」


 鉄也くんの話によると、この鈴ちゃんは僕に憧れているらしい。多分噂の虚像の方にだろうけれど。


「はいッ、よろしきゅおみゃまいしまふッ!」


 ん? ハッキリとは聞き取れなかったけれど、ここは『よろしく』って感じのニュアンスで間違いはないだろう。だから突っ込みは無しだ。


「ぶわーっはっはっは~」


 でも、鉄也くんが大爆笑して、僕の気遣いを台無しにしたけどね。



☆★☆ 自己紹介2 ☆★☆



「私も初めまして、お兄さんたちとはクラスメイトの最上茜(もがみあかね)です。春斗くんとは昨日初めて会話した程度の仲でしか無いんですが、どうしてもナイちゃんに会ってみたくて付いてきちゃいました。よろしくね」


「俺も昨日初めて会話した程度の仲の近藤鉄也(こんどうてつや)だ。でも妹の鈴から澪ちゃんの事は毎日のように聞かされているから全然他人のような気は『ドゴッ』」


「グハッ」


「ウザ兄黙れ!」


 鉄也くんの自己紹介は、妹の暴力によって強制終了させられた。


 ちょっとだけ兄妹間の上下関係が(うかが)われて、鉄也くんに同情してしまったのは内緒だ。


「鈴ちゃんにはいつも守られて助けられています、相良澪(さがらみお)です。鉄也先輩の昼休みのラインのやりとりにはついつい笑っちゃいました」


「あれっ? 笑える所とかあったっけ?」


 鉄也くんはとぼけているのか本気なのか、その表情からは読み取ることがなかなか出来ない。


 ポーカーフェイスと言うか演技派と言うか、なかなかの役者ぶりだ。


 でも、これが案外天然で『素』かもしれないと思わせるような所もあって、なかなかに侮れない。


「自分の妹に『自慢してやる』とか『ばーか』とか平気で言える所です。私もいつか、おにいとそんな冗談を言い合えるようになりたいなって本気で羨ましかったです」


 妹の澪のこのセリフを聞いた近藤兄妹は、揃って固まってしまった。


 多分、おそらく、想像上の、架空の、空想でしか無いのだけれど、あれはきっと


「え? 俺、鈴には冗談なんて言った事ないぜ?」

「ボケ兄には冗談は通じない。ハッキリと言って分からせてるだけだ」


 独特な愛情表現なのだろうと思う。


 澪よ、近藤兄妹の真似は、僕たち兄妹には無理だと思うよ?



☆★☆ 平常運転 ☆★☆



「ただいまー」


 軽い自己紹介を終えた僕たちは、まず澪と僕とで玄関に入る。


 なにやら妹の澪のテンションが、普段よりかなり高い。


 仲良しの親友『近藤鈴』ちゃんを招いた事と、偶然僕たちと一緒になった事、さらにはボッチな僕がお友達を連れてきたこと等で、どうやら気分が上がってしまったようだ。


「ワフンッ」


 なんだか力が抜けているようなひと鳴きだけをして、ナイが玄関まで僕たちを出迎えに来た。


 喜んで飛びつくような事も無く、僕たち5人を不思議そうに見まわしてから豪快に背伸びをするナイ。


 思いのほか平常運転だ。


 さてはナイ、今起きたな?



☆★☆ お触り可だ ☆★☆



 ナイは、突然のゲストが3人もいると言うのに、全く人見知りをしなかった。


 靴を脱いで家に上がった僕と澪の匂いを確かめた後は、鈴ちゃん、最上さん、鉄也くんの順に匂いを確かめて『あがって』とでも言わんばかりの態度で、振り向きながら居間に歩いて行くナイ。


「お邪魔しま、す?」


 3人が戸惑うのも無理はない。僕も戸惑っている。


 仔犬が、他人を警戒しない理由。今のところ僕たちにはわからない。


「これは……」


 鉄也くんの視線が、ナイに釘付けだ。


「触らせてくれる犬だ!」


「エロ兄、欲情するな、相手はまだ子供だこのロリコン」


 大人の犬なら良いのだろうか? 僕が近藤兄妹の関係を理解するには、まだまだ時間がかかりそうだ。



☆★☆ リードどこ? ☆★☆



「散歩用に着替えしてくるからみんなここで待っててね」


 妹の澪が、そう言って2階に上がっていった。


『散歩』と聞き分けたナイが玄関に走って行って数秒。


「キュウーンキュンキュゥーン……」


 悲し気に鳴き始めた。


 どうしたのかとこっそり4人で覗いてみたら


 どうやらいつもの場所にリードが無いらしい。


 このままでは『散歩』に連れて行ってもらえないとでも思っているのだろうか?


 リードは今、実はナイの『秘密基地』(疑似ゲージ)に置いているのだ。


 何時(いつ)気が付くのかと興味を覚えた僕は、何も喋らずに、ナイと戸惑うゲストたちを観察するのだった。



☆★☆ そっくり兄妹 ☆★☆



 妹の澪がジャージに着替えて来たので、今度は僕が着替えの為に2階に行く。


 すると、


 チャクチャクチャクチャクッと、足音を響かせて僕の後を付いて来るナイ。


 階段も必死で登ってくる。


 僕の事は良いからリードを探せよ。とは思うのだが、ナイが可愛い。


「ぶぅ~~~~~っ! 私の後は付いて来なかったくせにおにいの後は付けるなんて、ナイのばかー」


 妹の澪がへそを曲げたが。


「ぎゃっはっはっは」

「あはははははッ」


 近藤兄妹にはバカウケしていた。


 うん、やっぱりこの兄妹、性格はそっくりだ。


「春斗くんって、随分とナイちゃんに慕われてるのね?」


 最上さんのこの感想こそが、普通なんだろうと僕なんかは思うよ。



☆★☆ 階段と写真 ☆★☆



 着替えを終えて1階に戻ろうとした僕だが、ナイはまだ階段を降りられないのか気になったので、一人で降りてみた。


 階段の上から見える玄関先には、既にリードとお散歩バッグを準備し終えた澪と、3人のゲストが待機している。


「ナイ、そろそろ階段降りられる?」


 下から声を掛けた僕だが、ナイはやっぱり自力では階段を降りられなかった。


「キューン……」


 近藤兄妹と最上さん、3人揃ってスマホを構えていた。


 なるほど、動画撮影か。


 いままでは落としたり邪魔になったりするのを嫌って持ち歩かなかったけれど、僕も動画や写真を撮ろうと思って、今日からはスマホを持ち歩くことにした。


 そう思い立って、部屋に戻ってスマホを取りに行く事に。


 もう一度階段を登ったら、助けに来てくれたと勘違いしたナイが大喜びして抱き着いてきた。



☆★☆ ペットショップ ☆★☆



 ナイと5人の仲間たちはぞろぞろと歩く。


 途中、いつものペットショップの前を通る。


 そのペットショップ前で鉄也くんの足が止まった。


「鉄也くんどうしたの?」


「先行ってろ、ちょっと野暮用だ」


 そう言われて先に行く僕たちではない。


「寄り道か~たまにはいいね」


 リードを握って先頭を歩いていた妹の澪も、ペットショップに寄り道するのに賛成した。


 僕たち5人とナイは店内に入る。もちろんここはペット入店可のお店である。


 店主の忠臣さんに『ごめんください』と挨拶して鉄也くんは真っ先にオモチャのコーナーを探す。


 それに僕が付き添う形で付いて行く。


 女子3人が忠臣さんと何か話していたようだったが、忠臣さんが一時、奥へと引っ込んでしまった。


 鉄也くんは『3枚入りミニフライングディスク900円』と『噛む綱引きシリーズ(綱型)580円』を手に取って女子3人と合流する。


「これでナイくんのハートを鷲づかみだぜ」


 なるほど、値段も手ごろだし僕も買おう。


 僕は『エサ皿にもなるシリコン製フリスビー1300円』と『噛む綱引きシリーズ(ワニ型)580円』を買う事にした。


 こうして支払いの為に忠臣さんを待っていると、彼は一頭のコーギーを連れて店内に戻って来た。


「待たせたな、相良の澪ちゃん」


 忠臣さんが連れて来たコーギーは…… 間違いない。


 ナイのお母さん犬だ!






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