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兄 妹

☆★☆ 相良春斗(さがらはると) ☆★☆



 僕の妹は可愛い。多分、僕が今までに見た中でも一番可愛い。


 もちろん僕の主観も含まれているだろうけれど、客観的に見ても相当可愛いと思える。


 そんな僕の妹との兄妹関係なんだが、実はここ1年ばかり(こじ)れている。拗れまくっていると言ってもいい。


 ただ、確実に僕は妹に嫌われている。思い当たるエピソードもいくつかあって、多分どれもこれも、妹を困らせて、不快にさせてしまっていた事だろう。


 始まりは僕が中学3年、妹が中学1年の一学期の始め。


「1年にすげぇ可愛い子がいる!」


 と大騒ぎになった事がきっかけだった。


 3年生ともあろう上級生が、1年の教室にぞろぞろと近付いては覗き込んで


「あれだあれだ、あの子だあの子」


 と指を指された女子は、やはりと言うかなんというか、僕の妹だった。


 自分の妹が『可愛い』と言われて、当時の僕は有頂天になっていたのだろう。


「あの子って、僕の妹だよ」


 どうせいつかはバレる事だし、今ここで黙っていたら後日バレた時に責められることは想像に(かた)くなかったから、いっそのこと堂々と明かした。


 不可抗力だろ?


 後でその件を知った妹は、僕に向かってたった一言


「きもっ」


 と言って顔を(しか)めた。


 だったらどうすれば良かったって言うんだよ!?



☆★☆ ☆★☆



 僕が妹に嫌われるエピソードは他にもまだある。


 あの後僕は、多くのクラスメイトに


「お前と妹って全然似てねぇな」

「血が繋がって無いんじゃね?」

「あんな可愛い義妹(←決めつけ)と一緒に住んでるブサメンってどんなラブコメ主人公なんだよ?」

「妹を俺らに紹介しろよ」

「放課後妹ちゃんを誘っていいか?」


 いじられ、揶揄(からか)われるようになった。


 紹介しろとか、誘っていいか? なんて僕に聞かないでくれ。お前らに少しでも甲斐性があるのなら、僕なんかを通さないで自力で声を掛けて来いよ!


 大声でそう叫びたかったが、本当にそんな行動をされたら絶対に嫌だ! と思ったから、僕はただ


「無理。お前らに紹介できるほど僕は妹とは仲良くないし、お前らと妹が仲良く出来るなんて想像もつかない」


 そんな風に返した。


 このやり取りが決め手となって、僕は一部の男子クラスメイトからいじめを受けるようになった。


「ブサメンのくせに妹が可愛いからって調子に乗りやがってッ!」

「お前のせいで妹が怪我をすることになったな、はい決定~」

「犯される理由? ブサメンの妹なんだからさ、何されたって仕方ないじゃん」


 盛りの付いた猿共めッ


 この日、僕は5人の猿共と喧嘩をした。正直、殺すつもりで()った。


 でも、負けた。


 この暴力事件は、翌日の全校朝会で全校生徒に知らされ、名前こそ伏せられてはいたものの、知らない者は誰一人いないほどの有名な事件として扱われた。


 僕は全治5日。出校停止措置一週間。


 あいつらは打撲とかすり傷のみ。出校停止措置一ヶ月。


 担任、学年主任、生徒指導、教頭、校長らによる事情聴衆の結果、一応僕の正義は認められたが、内申点に傷がついたことは変えられなかった。


 この喧嘩(じけん)の理由を僕は、妹には一切話していないし、今後も話すつもりは無い。


 キモい兄が、悪目立ちするような喧嘩をして、負けた。


 万が一にも喧嘩の理由を知られたら、妹は更にドン引きする事だろう。


 僕の可愛い妹を、盛りの付いた猿達から守りたかった。そのために暴力を振るった。しかも負けた。


 両親からは、叱られこそしなかったが、かなり気を遣わせてしまった事はわかった。


「男を見せたな」と、父は困った表情で僕の肩を叩き


「5対1じゃあ仕方ないわよ~」と、母は戸惑った表情で僕の顔の傷に薬を塗ってくれた。


 僕はこの日から、父にも母にも、妹にも、挨拶以外は一切話し掛けることなく受験勉強に励み、猿共では到底入る事の出来そうもない、公立では一番の進学校を目指して勉強に励んだ。


 そしてこの春、僕は市内では一番の進学校に合格した。


 内申点のマイナスを補って余りある得点を目指した僕は、主席こそ逃したものの、どうやらかなりの成績で合格したようだとは、始業式の後で僕のクラスの担任になった先生にこっそりと教えてもらった。


「内申点でのマイナスが無かったら、本当はキミが一番だったんだよ。これからはもう内申の影響は絶対に無い。だから安心して励め」


 普通の学生だったら嬉しいとか喜ぶとかする言葉だったんだろうけれど、僕にとって、担任の先生のこの言葉で動かされるような感情は、すでに持ち合わせてはいなかった。


 あの事件からずっと続いていた当時の僕の心の中は


(あの猿共を物理的に抹消する方法と、社会的に抹殺する方法、そして精神的に抹殺する方法及び、嫌われてしまっているとはいえ最愛の妹を守り切る為の知恵と力を身に付ける)


 この事しか考えていなかった。


 自分自身の為の感情など、とっくの昔に忘れ去った。


 次は勝つ。必ず殺す。


 覚悟を決めたブサメンは、周囲に殺意を撒き散らす『強面』に進化していた。



☆★☆ 相良澪(さがらみお) ☆★☆



 中学に入学して割とすぐのある日の放課後、3年の男子が私のクラスを覗きに来たと教室中がざわついた。


 その中に『おにい』(←兄の意)の姿もあったから、家に帰った後で何しに来たのか聞いた。


『凄く可愛い子』


 そんな風に思われていたなんてビックリしたし嬉しく思ったけれど


「僕の妹だよ」と、おにいのクラスメイトに話したと言う事を聞いてちょっとだけ嫌な気持ちになって、つい、シスコンかよ


「きもっ」


 と、言ってしまった。


 心底キモイと思ったわけじゃない。


 去年、まだ小6だった頃に「妹が可愛くて仕方がない」と言い切ってにやけている男子のクラスメイトがいて、私以外の女子達から「きも~」と、微笑ましい表情で揶揄われていた事を思い出しての呟きだった。


 でも、その直後、おにいの表情が変わった。


 あ、やばい? と、一瞬思ったけれど、うちのクラスでは微笑ましいちょいイジリで済んでいたからそんなに気にすることでもないかと、そのままにしていたのがいけなかった。


 その後、3年の男子は一度も教室を覗きに来ることは無くなって、平和に中学生活を過ごしていたのだけれど


 おにいが大怪我をして帰って来た。


 おにいは何も言わなかったけれど、誰かに殴られたような怪我だった。


 夜には高熱を出してうなされてて、凄く苦しそうで、意識もなさそうで


 結局、夜間救急外来で受診することになった。


 私は家で留守番と言うか、寝てるようにとお母さんに言われて、素直に寝てしまったのだけれど、次の日の全校朝会で、校長先生が


「一人の男子生徒を集団で暴行した事件」についての説明があった。


 暴力は犯罪だとか、いじめは罪悪だとか、中学生や未成年でも矯正や償いはしなければならないだとか、なんだかんだ言っていたけれど、私に分かることは一つしかなかった。


 いじめ、あるいは集団暴行を受けたのが『おにい』だと言う事。


 その日の夕方、両親が学校に呼ばれた。


 帰って来たのは深夜だった。


 昨日から病院にいたおにいと一緒に帰ってきて、おにいはすぐに2階の部屋に連れられて行って寝かされた。


 もう夜の12時を過ぎていたけれど、私はお父さんとお母さんに何があったのか聞いた。


 話したがらなかったけれど


「話してくれなければ話してくれるまで起きてる! 学校にも行かない! それでもいいなら黙ってればいいよッ!!」


 私は譲らなかった。


 仕方なさそうに諦めたお父さんとお母さんは、おにいが校長先生たちに話した内容を、ゆっくりと話してくれた。しっかりと、ハッキリと、私の質問にも丁寧に答えてくれた。


「私を、守るために、おにいが……」


 私は、私を可愛いと言ったおにいに『きもっ』って言った。


 3年だけじゃなく、結構な男子に注目されている事で、私は得意になっていた。


 中学にもなれば、性的な悪戯は悪戯の域を超えて、犯罪にまで発展すると理解した。


 そしておにいは、私がそんな被害者にならないように全力で…… 自分を捨ててまで…… 私なんかの為に……


 今にして思えば、おにいは真面目な性格だった。超がつくくらいの生真面目な性格だ。


 知っていた。分かっていた。思い知っていた。


 おにいはいつでも私を優先してくれていた。立ててくれていた。


 シスコン? きもい?


 そんなこと無いッ!


 おにいは、私なんかには出来過ぎた兄だ!


 可愛いって何? 凄いの? 私がなにか頑張った結果?


 違う…… 違うだろうがッ!


 私なんかを守るために、勝ち目のない……


 おにいの言葉を借りるならば、盛りの付いた猿共との、命をかけた戦いを、おにいにさせるくらいの価値が、私には本当にあるのかよぅ!? いや、無い。絶対に無いッ!


 出校停止措置期間を過ぎて、おにいはいつも通りに学校に通った。


 でも、家では


 おにいは誰にも話かけなくなった。


 私を含めた家族はみんな、おにいに話しかけられなくなった。


「受験勉強をする。誰も邪魔するな」


 事件後から高校の合格発表までの間に、おにいの声を聞いたのはこれが最初で最後。


 無事、第一志望の高校に合格したおにいは今、私の事をどう思っているんだろう?


 嫌いになったかなぁ? それとももう、関心すら無くなっちゃった?


 分からない。


 分からないのが辛い。


 知りたい。


 知ってもらいたい、私の気持ち。


 おにい…… 大好き。


 前みたいに仲良くなりたい。


 今のままじゃ、切っ掛けも取っ掛かりも無い。


 だから


「お父さんお母さん」


 理不尽でも、目を逸らすことが出来ないくらいの我儘を言おう。


「仔犬が欲しい…… 仔犬を飼いたい」


 私一人では手に負えない責任を。


「絶対に仔犬を飼いたいッ!」


 おにいと和解して


「お願いしますッ!」


 同じ目標に向かって


「おにいと仲直りするきっかけに」


 おにいと協力し合うことで


「利用するだけじゃなくって、仔犬も幸せにするから」


 過去の仲良し兄妹に戻るのではなくって


「仔犬を可愛がりながら」


 手詰まりな現状を打破する


「おにいを、私の、本当の優しいおにいに」


 最強の一手として


「取り返したいんです!」







 私のこの願いは







 やがて







 叶う。







 

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