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【1】気づけば異世界へ





ごめんなさい…あなたの願いを叶えさせて…

あぁ、一人じゃ心細いわよね…この子も連れていって…

…本当にごめんなさい…









☆☆☆




「ん……夢?ここは………痛っ」


目が覚めて、記憶にない場所に慌てて起きようとしたら体が痛かった。周りを見渡すと木ばかり。どうやら硬い地面に寝ていたようだ。


「なんでこんなところに…」


思い出そうとしても思いだせない。痛みのある腰を擦るとなにやら違和感が。


「えっ??なんで???」


あんなに存在感があった脂肪の塊が消え、腰のくびれに添って腰を擦ることができるなんてありえない。


「うそ…」


信じられず腰を見ようとして気づいてしまった。手が袖から出ておらず、袖をめくると、手入れされることもなく荒れた手肌は輝くように白くとても細かった。サラッと垂れた髪もさっきまでの自分の髪にはなかった艶があり、顔を触ると手に触れる感触が信じられなかった。


「夢?」


「夢じゃないよ」


自分に起きていることが信じられず呆然としていると目の前にぽてっとした猫が現れた。


「うわっ」


「ごめんねぇ。びっくりさせちゃったね」


ペルシャ猫に似ているけど、猫は浮かない。けれど現れた猫は目の前に浮いている。真っ白なふわふわの毛、目はクリクリしていてとても可愛い。そう、とても可愛いのだが、アレルギー持ちのため慌てて後ろへ後ずさる。


「…え??喋った???え?浮いてる??」


「安心して。リリナにアレルギーなんてないから近づいても大丈夫。それに僕はリリナのために生まれた存在なんだ。リリナを傷つけるなんてことは絶対にないよ。だからお願い、僕に名前をつけて」


「どうして私の名前を?…アレルギーがないって?…私のために生まれた?」


分からないことだらけで、頭が混乱する。ただ、猫が可愛いすぎる。本当に可愛い。アレルギーさえなければ抱きしめるのに…まって!浮いて喋る猫なんて現実じゃありえないわよね!やっぱり夢の中?じゃあ抱きしめても大丈夫よね?


「ふふ、大丈夫だから

落ちついて。きちんと説明するから。まずは僕に名前をつけてくれると嬉しいな」


「私がつけてもいいの?」


「もちろん」


うん、とりあえず落ち着こう。そしてつけていいと言うなら遠慮なくつけさせて頂こう。どうせ夢だ。猫が喋って浮くなんて夢じゃないなら何だと言うのか。とにかく目の前の猫が可愛いすぎて抱きしめたい!


「名前、名前…ペルシャっぽい…う~ん、ペルシャ…ペルシャン…ルシャン…ルシャ…ルシャはどうかな?」


「ふふ、リリナは可愛いね。ありがとう。今から僕の名前はルシャだ。リリナのことはリリて呼んでもいい?」


「うん」


「よろしくね、リリ」


「こちらこそよろしくね、ルシャ」


嬉しそうに笑うルシャの笑顔にノックアウト寸前。あぁ、こんなに幸せな夢なら覚めないで。


「リリ、夢じゃないからね~」


ハッ!私の両頬にプニプニの肉球とふわふわの毛が!!


「ほら、苦しくならないでしょ?」


しばらくフリーズして気がついた。


「………うそ………」


いつもなら咳き込んでもおかしくない状況なのに、全然苦しくならない。


「信じられない!最高っ………」


実際に苦しくならない状況につい手が出てしまいふわふわのルシャを抱きしめる。


「ルシャ可愛い。ずっとこうやって動物とふれあいたかったの」


抱きしめたついでにルシャの匂いを嗅ぎつつ、顔を擦り寄せる。


「もうずっと夢の中にいたい」


あぁ、神様!あなたは本当にいらっしゃるのですね。こんなに至福な時間を与えて下さるなんて!今まであなたの存在を疑ってごめんなさい!ありがとうございます!ありがとうございます!


「夢じゃないったら」


「夢だよ。だってルシャに抱きついても苦しくならないし、体のお肉もなくなって肌も綺麗だし、髪の艶だって違うもの」


「夢じゃなくて、リリは地球とは違う世界に来たの」


「地球とは違う世界?」


「そう、異世界転移って言ったら分かるかな?」


「異世界転移って?あの小説とかで話題になってる異世界転移?」


「そう、リリは地球で猫を庇って死にそうになったから、異世界転移したの」


「猫を庇う………あっ!」


「思い出した?」


そうだ、思い出した!あの日、卒業後に住む予定の寮に1ヶ月前から入れるようになって管理人さんに挨拶に行ったんだ。そうしたら猫が車にひかれそうになっていて咄嗟に…


「…私死んだの?」


「死んではないけど、あのままだと死んでたかな」


「どういうこと?」


「あの時リリが助けた猫はこの世界の女神だったんだ。この世界の女神ミリストラーチェ様は地球の著しい発展に興味があって地球見学に行ったんだって。だけど、降り立つ場所を間違ってしまって道路の真ん中に降りちゃって、一瞬のことで反応に遅れちゃったって。その一瞬でリリに助けてもらったけどリリはトラックに跳ねられて…。地球では医療でしか治療できないでしょう?そのまま地球にいると治療が間に合わなくて死んじゃうから地球の神と話し合って、転移させることにしたんだって。神様都合の転移には3つまでオマケをつけることができるから」


「オマケ?」


「そう。その人の心の中にある願いを叶えることができる。でも、人間は強欲だからね、普段は害のなさそうに見えても心の中は違う。だから、余程のことがない限り転移なんてさせないんだけど…リリの心の中には人を貶める願いがなかったから…だからリリは特別」


「特別…」


「どんなに酷いことをされてもリリの心は綺麗なままだったから…」


酷いこと、か……


8年前のあの日から私の人生は変わった。



☆☆☆


「パパー!ママー!こっちむいてー」


フォトグラファーの父と専業主婦の母に愛され、私はとても幸せな毎日を過ごしていた。


夏休みのこの日、オープンしたばかりの大人気キャラクターのテーマパークに家族で遊びに来ていた。父が撮る写真はいつも母や私の写真ばかり。父と母が二人で写真を撮ったのは私が産まれる前までしかなかった。そこで、もうすぐ結婚記念日の両親へ、この日の2人の写真を贈ろうと決めた。父に借りたインスタントカメラでたくさん撮って、貯めたお小遣いで買った額に入れてデコレーションして結婚記念日の贈り物にしようと。



「ふふ、眠っちゃったわ」


「あぁ、随分はしゃいでたからね。それにしても今日はたくさん写真を撮られたなぁ」


「そうね、私たちの幸せな姿がたくさんうつってたわね」


「将来はフォトグラファーかな」


「パパのお嫁さんって言ってたわよ」


「それは嬉しいなぁ」


「あら、私は仲間外れね」


「いじけないでよ、僕のお嫁さん」


「愛してるわ、私の旦那様」









キーーーーーーーーーッ!ガシャン!!!!!








居眠り運転の車に衝突され、父と母は帰らぬ人となった。腕や足に傷はあったものの奇跡的に私が助かったのは、咄嗟に母が私の頭を抱きしめて守ってくれたのだろうとお医者さんが叔母に話していたのを聞いた。


それから、私は叔母の家で暮らすことになった。世間体を気にする叔母は、食事も与えてくれ、学校にも行かせてくれていた為、外から見れば、孤独となった私に愛を与えてくれる優しい叔母に見えただろう。


ただ実際は酷いものだったと思う。食事は叔母家族が食べ終わったあとの残した物や余り物だったから、お味噌汁だけの時や焦げたお肉だけの時もあった。これだけ聞けばほんの少しの量を想像するかもしれないが、お味噌汁だけでもどんぶり茶碗3杯分くらい食べることもあったし、残り物が少ないときはそれに加えて賞味期限切れの天ぷらや納豆、お菓子やパンなどを食べさせられた。ちなみに飲み物は水道の水か炭酸の抜けたジュースだった。


たまに頂き物が食事に加わることもあったかな。誰も食べないからあなた食べといてと私に回ってくる事があったのだが、その中でも思い出したくないのは大量の苺大福が回ってきた時だ。さすがに早めに食べないと傷むし、かといって一度にそんなにたくさん食べれるわけもない。朝2個、学校から帰って2個、夜2個+残飯処理、これが3日続いた時はさすがに胃が悲鳴をあげた。


叔母の娘より私が可愛いいと言われることが気に入らなかった。ただそれだけの理由で私は必死に食べ続けなければいけなかった。その結果みるみるうちに脂肪とニキビというお友達ができた。


生活に必要な最低限の物も支給されていたし、屋根のついた家に住めて、お金の心配もしなくていいからだいぶ幸せな方だったと思う。まぁ、捨てるものが流れてきただけって感じだったけど。いらなくなった食べ物や、叔母の娘の不要になった服や下着、捨てるだけの残り湯で体とお風呂を洗ったりも毎日の習慣だった。ある意味ecoだよね。


最初は自分の意志を伝えたりもしたよ。特に食事面。もう食べられないって。10歳の子どもにあの量はないよね。でも、それが間違いだったと気づいたのは3度目に拒否した時だった。


1度目は、贅沢だとか、どんな教育をしたんだとか口での攻撃だけだった。2度目は、椅子から引きずり下ろされてお腹を蹴られた。3度目は怖くても言わなきゃいけなくて恐る恐る口にした。アレルギーがあるから食べられないと…叔母は手掴みで海老をとると私の口に押し付けた。その勢いで椅子ごと倒れ、頭に痛みを感じたけど急いで口の中から海老を吐きだした。咳き込みながら涙目で叔母を見上げるとその手には私の宝物があった。あの時撮った父と母の写真。唯一この家に持ち込めた私の宝物。


「かえ…して」


そう訴える私の目の前で叔母は1枚1枚破り捨てた。父と母を侮辱しながら。二度と逆らうなと言い、破られる前の最後の1枚を目の前に落とされ踏みつけられた時の悲しみを今も忘れられない。写真を胸に抱き、声を押し殺して泣いたあの日のことを。


それからは必死だった。外では校則をきちんと守った優秀な姪として、家の中では言われるままに動く駒として、とにかく叔母の機嫌を損ねないように言われたことをしっかり守った。


叔母の娘より容姿がいいという理由であの仕打ちがあったのに、成績がいいことは気にならないのかと不思議だったが、学年が違うこと、叔母の娘もそれなりにできたこと、周囲にお褒めの言葉を頂いたことで気を良くし、免除されたようだった。おかげで、超難関の某有名公立高校に行け、無駄なお金を払うこともなく、叔母の献身的な支えがあったからだと周りに言いふらした結果、叔母は鼻高々になり、とてもご満足頂けたらしい。


え?叔母家族を憎まないのかって?う~ん…怒りはするけど憎みはしないかな。憎んだところで何かが変わるわけでもないし、結果的に無事に高校まで行けたし、それに父みたいに人の幸せな写真を撮るのが夢だったからね。自分が幸せでないと。あとは母親譲りのポジティブさかな。母のいつも明るく前向きな考え方が大好きだった。私の中にいつも父と母がいてくれたから…だから私の心が綺麗って言ってもらえたのかな…パパ、ママ、ありがとう。

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