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桑の実  作者: やきぶたたまこめし
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思い出



「シャッ……!ザザザザ…」

 私は、気分を変えるため、藍色のカーテンを勢いよく開けた。

 刺すような夏の日差しが、眩しく照らし出してくる。

 やがて、光に目が慣れると、透明な窓からの景色が、目に飛び込んできた。

「カチャ………」

 開く式の窓を、少しだけ開けた。

 冷房の効いた冷たい部屋の中に、「もわん」と、生温い夏色の風が駆け込んでくる。

 淡い空色の中に、余計な色が一つも混ざっていない白い入道雲が、そっと(そび)え立っていた。

 その下に、古びたビルと、真新しいモダンな住宅が並んで建っていた。

 透き通るような青が、少しだけ眩しすぎて、私はそっと、部屋の窓を閉めた。


「ガサガサ…ガタガタ…」

 本棚が終わったから、次は、クローゼットと引き出しか。

 そう思って、クローゼットのある方へ目を向けると、そこに赤色の何かが落ちている―

「あ……、これ……。」

 夢で見た通りの、朱色の―、アルバム。

 お姉ちゃん。やっぱり、こんなもの残してたんだ。

 なんだか、夢と同じで怖いはずなのに、少し嬉しい気もした。

 お姉ちゃんが大切にしていた物を、手に取れたことが、嬉しい。

 「パラパラ」と、アルバムの写真を、一つ一つ見ていく。

「あ、これ…!あの時のだ!」

 姉と病室で見た、花火大会の時の写真があった。

 真っ暗な病室の窓に映る七色の花火と、その前で楽しそうに笑う、姉。そして、照れたように(ほほ)を紅潮させた、私がいる。

 その他にも、姉との思い出が、時間を切り取るように目の前に映し出される。


―忘れないよ。千春や家族との大切な思い出。忘れられるわけないじゃん。


「ポタ………」

「あ……」

 気付けば、写真の上に小さな水溜まりが出来ている。

「あっ!やばっ!シミになっちゃう!」

 慌ててハンカチで拭こうとする。

「ポロポロポロ……」

 でも、駄目だ。

 拭いても拭いても、また溢れてきて、止まらない。

 (まぶた)の裏が熱くなって、視界が(にじ)んでいく。

「フフ……アハハハ……!」

 可笑しくないのに、笑ってしまった。

 笑おうとも思ってないはずなのに、胸の奥から笑いが込み上げてきた。

 なんだか…。ずっと、思ってた。

 お姉ちゃんの死を悲しむときは、笑っていたい、って。

 泣きながらでもいいから、ちゃんと、笑ってたい、って。

 その方が、私たちによく似合ってるように思えるから。

 その方が、お姉ちゃんも天国で、一緒に泣いて、笑っていられる気がするから―…。

「ワハハハ…!」

 私は、ハンカチで目に溜まった涙を拭くと、また片づけを始めた。

 外で、「ピチピチ…」って、小鳥の鳴く声が聞こえた。


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