悪夢
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「はっ…!」
気が付けば、ベットの上にいた。
自分の部屋の、いつもの布団の中。
「夢…、か…。」
全身が汗でぐっしょりと濡れていて、まだ震えが収まらない。
薄暗く、目が慣れない真っ暗闇の中で、私は両手を強く握り締めた。
まだ鮮明に記憶に残っていて、まるで現実で起こったような緊迫感が、辺りに流れている。
クーラーの効いた涼しい部屋の空気が、冷汗のせいで酷く冷たく感じた。
姉の死んだショックで、あんな夢を見てしまったのだろうか―?
でも、所詮はただの夢だ。
気にしなくても大丈夫。
あんなの―ただの、夢。
そう自分に言い聞かせて、恐怖で強張る心をなんとか鎮める。
私は、起き上がるため、身体を起こそうとした。
「っ……!」
両肩に、傷みが走る。
ズキズキと、何かが痛む。
肩なんて、怪我してたっけ?
そう思って、パジャマの中を確認してみる。
「え……」
そこには、手形のような痣が、くっきりと残っていた。
赤紫の5本指の痣の跡が、火傷のように腫れ上がっている。
「なんで……?」
こんなところ、痣なんてなかったし、怪我をした記憶もない。寝ている時、どこかにぶつけたのだろうか―?
でも、寝ているときに、手形がつくことなんて、ある?
さっきの夢を思い出す。
「ここ……―」
さっきの夢で、丁度掴まれたところだ。
お姉ちゃんが、すごい勢いで掴んできた………
「うそ…なんで…?」
血のように真っ赤な痣は、肩全体を覆うようにして、熱を帯びていた。
「っ…!」
なんだか怖くなって、パジャマで見えないように隠した。
夢のはずなのに、なんで痣なんて…?
所詮は、夢、なのに。
現実で起こった、わけじゃないのに。
「カチ…カチ…カチ…」
ふと時計を見ると、まだ夜中の2時頃だった。
そう言えば、前に何かで聞いたことがある。
夜中の2時~3時は、「丑三つ時」っていって、奇妙な現象が起きやすい時間なんだとか…。確かに、この時間帯は静まり返っていて、不気味な雰囲気がある気がする。
なんだか―急に寒気がして、背中がゾッとする。
鳥肌が全身を駆け巡るように立っていき、背後に誰かがいるような、不安感に襲われる。
「ばっ…!」
思い切って振り向いても、誰もいなかった。
「はぁ…。良かった。」
やはり、さっきの夢のせいで、気にしすぎているようだ。
私は、もう一度眠ろうと、布団をかぶり、横になろうとした—―
「っ……!」
鼻と鼻が、くっつくぐらい。
それぐらい近い距離に―あいつがいた。
夢に出てきた―お姉ちゃんだ。
目が真っ白で、ニヤニヤと気持ちの悪い笑みを浮かべた、「お姉ちゃん」。
その人が、私の耳元まで近づいてきて、唐突に大声で笑いだした。
―わはははははははははははははははははははははははははははははははははははははは
全身が震えて、冷汗が異常なほど噴き出る。
思わず目を閉じると、開けた時にはもう―誰もいなかった。
やはり、まだ寝ぼけていて、こんな幻覚を、見てしまったんだ…。
夢なんだ、そう―これも、悪い、夢。
現実にこんなこと、起きるはずがないんだ。
そう自分に言い聞かせ、布団を頭の上まで被った。