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桑の実  作者: やきぶたたまこめし
28/28


       ✾

 

 鉄のような血の匂いが、鼻をツンと()すように触れる。

 なんだか、お姉ちゃんの匂いもするような気がするのは、なぜだろうか?

「ぺちゃ…」

 どろっとした血の上を、裸足(はだし)で数歩歩くと、母の遺体(いたい)の前に立った。

「パシャ…」

 鉄が床に(こす)れるような音がした後、私はその場に座り込んだ。

 姉の写真が、勉強机の横に落ちてあった。

 すっかり赤黒く染まった写真を手に取り、撫でるように触れた。

「ぽつん…」

 静寂(せいじゃく)の流れる部屋の中に、その音だけが鳴り響いた。

 透明なその何かは、血の海に小さく零れ落ち、波紋(はもん)のように海を揺らした。

「ごめん…なさい……」

 そう小さく(つぶや)くと、ギラギラ光る物体の、木の取っ手を握った。

「ぐちゃっ」

 よく、ホラーゲームで聞くような、何かを握りつぶしたみたいな生々しい音が、耳に少しだけ届いた。

 それと同時に、赤黒くどろっとした血が、首筋から噴き出た。

「パシャンッ…!」

 ナイフが手から離れると、私の身体は、血の海に沈むように倒れていった。

 即死(そくし)――だと、思っていた。

 でも、ほんの少しだけ。

 (わず)かに、意識が残っていた。

 

 「千春が、私の分まで幸せになってよ」

 

 そんな声が、走馬灯(そうまとう)のようにどこからともなく聞こえた、気がした。

 

 「忘れないよ。千春や家族との大切な思い出。忘れられるわけないじゃん」

 

 「ありがとね、千春。」

 

 「それでも、私は、私でよかった、って思ってるよ。もしこの病気に私がなったおかげで、千春が病気にならずに済んだなら、自分が病気なことが、少し誇らしく思えるくらい」

 

 「私ね。千春が生きる意味なの。千春やみんなが居てくれるから、生きよう、って思える。どんなに苦しくても、病気と闘おう、って思える。……だからさ、千春。『私だったら』なんて悲しいこと、言わないでよ…。……私は、千春がいるから生きてられるんだから。」

 

 最後に、お姉ちゃんの笑顔の写真が、(ひとみ)の奥に映った。

 目の端から、冷たくなった(ほほ)に小さく(しずく)が伝った感覚が、残った――気がした。



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