表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
桑の実  作者: やきぶたたまこめし
19/28

犯人


       ✾


「千春ちゃん。どうしたんだろうねぇ、あんなに急いで…」

 薄井がそう言うと、宮本は少し口角を上げ、言った。

「そうですねぇ~!本当に。あんなにいきなり出て行ったりして、思い出したことでもあったんですかね?」

 薄井と宮本は、千春の居なくなった面会室で、コップを洗っていた。

 夕方近くなってきた病院内は、外来の患者で少し混雑していた。

 4時近くになると、仕事や学校終わりの人が大勢診察に来ていて、昼頃よりも込み合うことが多かった。

「さあ。何も言わずに行っちゃったし……。何か思い出したなら、言ってくれればよかったのにねぇ…」

 この部屋は、元は診察室(しんさつしつ)として使われていたため、3(じょう)くらいの広さがあった。そのせいか、小さな会議や話し合いの場として使われることもあり、所有権は院長にあるものの、病院側の関係者なら、誰でも使うことが出来た。

 また、この部屋は、水道が(つな)がっていて、冷蔵庫も設置してあった。小さいサイズではあるものの、水道と電気が繋がっているというのは大きく、この部屋は医者や看護師の休憩所として使われていた。

「あの…、それより薄井先生。もう一度、防犯カメラの映像見返してみません?」

 宮本は洗い終わったコップを手に取り、キッチンペーパーで水滴を拭き取りながら言った。

「え、ああ。外来までまだ少し時間もあるし、いいけど……どうして?」

 薄井は灰色の机を(だい)布巾(ふきん)で拭き終え、宮本のほうを振り向いた。

「ああ、あの……。私、まだあの映像、しっかり見れてなくて…。もう一度ちゃんと、見ておきたいな~、って思って。…見る人が多い方が、見落としも少ないかもしれないし、薄井先生も一緒にどうですか?」

「うん、もちろん!いいよっ」

 薄井はそう言って、顔の前で親指を立て、「グッジョブ」ポーズをして見せた。

「アハハ!薄井先生、まるで子供みたいですねっ」

「え!?そうかな~?なんかよく言われるんだよね。僕も一応、成人した大人なんだけどねぇ…」

 宮本はコップを引き出しにしまうと、パソコンを開き、操作した。

「…薄井先生。見れるようにしたんで、こっちに来てください。」

 薄井が布巾を置いてこちらに向かってくると、宮本はキーボードのエンターキーを押した。

 

 暗闇の続く周囲に、蛍光緑のランプが照らす廊下が映る。

 先ほどと同じように廊下の先から人影が歩いてきて、「夏乃(なつの) (みどり)」と札の垂れた病室の前で立ち止まる。

「カチッ…」

 そこで宮本は、映像を止めた。

「…どうかした?」

 薄井が不思議そうに(たず)ねると、宮本が画面を指さして言った。

「その…。ここ…。犯人の胸元に、何か光るものが見えませんか?」

 宮本が指さしたところを、画面に近寄り、マジマジと見つめる薄井。

「ほら…!ここです!ブローチみたいなものが、付いてませんか?」

「……あっ!ホントだ!なんか光ってる!」

 薄井が画面から離れると、宮本は犯人の胸元の映像を拡大した。

「……花…ですかね?スミレ?紫色のビーズが付いてる。」

「よく見えるねぇ~!僕は目が悪いから、分からないや。」

 気の抜けたような声色の薄井に、宮本は少しイラっとする。

 こんなに大事なことなのに。なんで、こんなに呑気(のんき)でいられるの?―と…。

「………あの…。私の見間違いかもしれないですし、こんなブローチなんて、誰でも持ってる―、とは思うんですが……。こんな感じのスミレの花のブローチ…。――翠ちゃんのお母さんが、持ってませんでした―?」

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ