写真
✾
「あ、そうだ。千春ちゃん。これ…」
薄井が、お茶の横に、手のひらサイズのジップロックを置いた。
透明で中が透け透けのジップロックの中には、小さな紙切れが入っている。
「なんですか?これ…」
「最初に言った、死んだ後、お姉さんの部屋に残ってたっていう、紙切れ。」
ファミレスで薄井と話した時、そんなことを言っていた気がする。
いつも病室は綺麗に使っていたはずだし、死んだ日の昼に薄井がお姉ちゃんの部屋に行ったときは、こんなものなかった、って…
「袋から出してもいいですか?」
「うん」
私は、袋を手に取り、紙切れを出すと、そっとそれに触れた。
—―あれ?この質感。触ったことが…ある、気がする。
どこで、いつ触ったのだろう―?
私の行動範囲は狭いから、触ったところと言えば、家か、学校か、塾か、病院か、だと思う。
そうだとすると、一番紙を触る可能性があるのは、「学校」になって、必然的に、「ノート」とか、「教科書」とか、「プリント」とかになるけど―…、そういう「紙」とは、どこか、違う気がする。
もっとこう、日常的なものじゃなくて、いつもあまり手に取る機会がないのに、つい最近、触ったことのあるような……
ノートや教科書のようなザラザラした手触りじゃなくて、ツルツルサラサラしているような……
「千春ちゃん。どうかした?」
不思議そうに私を覗き込む薄井に、問いかけた。
「あの、これ。…お姉ちゃんの部屋の、どの辺に落ちてましたか—?」
「ん~…確かねぇ…、ベットの横くらいだったと思うよ。窓際の、棚がある辺り。」
「え…?棚のほうですか―?」
「うん。変だよねぇ…。犯人が落としていったなら、普通、ドアの前とか入ってすぐの辺りだと思ったんだけど……」
「そう……ですねぇ………」
確かに、犯人が落としていったのなら、少し、変だ。
姉の病室はベットと棚の間が狭く、そのすぐ横に窓もあるため、人が入るには狭すぎる。小さな子供や痩せ細った人なら通れたかもしれないけど、防犯カメラのシルエットからして、犯人はきっと、大人だ。
その隙間を簡単に通れるほど痩せ細ってもなさそうだったし、話をするにしても、手に掛けるとしても、そんな場所に入るのはリスクがありすぎるのではないか―?
もし入れたとしても抜けなくなって逃げ遅れたりすれば、見つかる可能性だって、あるのだから…。
でも―、ならどうしてそんなところに、こんなものが—――
私は、メモ用紙よりも小さいくらいのそれを、もう一度手に取った。
—―やぱっり、これ、どこかで……………
「ガタンッ!」
私が立ち上がると同時に、椅子が勢いよく後ろに飛ばされていった。
「すみませんっ!思い出したことがあるので、帰ります…っ!」
「えっ!千春ちゃん!?」
私は「それ」を持ったまま病院を出ると、自転車置き場に駆け込み、自転車に飛び乗った。
そして足が棒になりそうなほど急いで自転車を回し、家まではしる。
とにかく早く、確かめたかった。
今、すぐに確かめないといけないような、そんな気が、する。
「ガチャッ!」
玄関扉を開け、勢いよく家の中に駆け込むと、姉の部屋まで急ぐ。
「バサバサ…ガサガサ…ッ!」
私は、姉の部屋の中から、「あるもの」を探し出した。
真っ赤なアルバムを取り出し、最後のページを開く。
「パサ…」
2,3枚入れてある中の、最後の一つ—……
遺品整理で見た時は何もなかったはずの枠の中に、一つの写真が入っていた—―
『15歳 翠』
姉の誕生日の時の、優しい笑顔が切り取られた写真を取り出し、「それ」と重ね合わせてみる—―
ぴったりと、一致した。破けた切れ目も、重ね合わせると綺麗に合わさっている。
これは―写真の一部なのだ。
きっと、これを姉の病室に落としたのは、お姉ちゃんなんだと思う。
そう仮定すれば、落とされていた場所がおかしかったのも、説明がつく。
どうやって姉がこんなものを手にしたのか、どうして自分の病室に落としたのかもよくわからないけど、姉が落としたと考えないと、どうやっても説明がつかない。
私は、ふと。写真を裏返してみた。
呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪
「なに、これ……」
背中が、ゾッと音を立てた。
殴り書きで、一面が埋め尽くされるくらい、「呪」の文字が書かれてある。
誰かの字に似ているような、その文字から、言いようのないほどの怖さを感じて、驚きと恐怖で、一瞬脳が停止したみたいだ。
「なんで……」
お姉ちゃんのことを、誰かが呪いたいほど憎んでいた、ってこと―?
でも、誰が?
どうして?
現実的に考えれば、これを書いたのは、犯人、っていう可能性が高いけど…。
もし、本当にそうなら、犯人は――




