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第3章 檻越し
お茶会から帰ると、行儀よく寝ている彼が檻の中にいた。
吠えることはない。私の帰宅音をよく理解しているからだ。
「ただいま。」
ようやく声をかけた私に、リーンと鳴いて体を起こす。
上目遣いが愛らしい。これはヒトケタにもよく売れるだろう。
でも今は、こいつにいくらの値がついてもどうでもよかった。
あれから調教は順調に進み、完璧なまでの『✕✕』が出来上がった。愛らしい仕草、鈴のような鳴き声、従順な姿勢。こいつをどう使おうとヒトケタの勝手なのに。
「お前はいい子に育ったなぁ。」
リーン、リーン。
「明日だってよ、品評会。」
リーン、リーン。
「私も明日までってことだ。」
リーン、リーン。
「大丈夫だって、お前は新しい飼い主のもとで幸せになれる。」
ピタッと鈴の音が止まる。
檻越しに無音が流れていた。