第2章 あるいはそれは。
「はーい、いらっしゃーい。」
隣のアトリエの玄関チャイムを鳴らすと、中から住人が出てきた。私がこのエリアに来たときから親身にしてくれるいい人だ。
ある一点を除いては。
「あんたも物好きだな。」
「ゆっくりしていってくださいね。」
「今、お茶入れるよ。」
「あ、やるー!」
『男4人』の喋り方。
でも、そこにいるのは。
「ナニか、違和感デも?」
『彼女一人』。
せわしなく動く4人分の声。ここに来ると『一人』をやめられそうな気がしていつも居心地がいい。
カウンターの上に3つ。テーブルに2つティーカップを運んでから、いつも通りお菓子を添えてくれる。一度手土産にクッキーを持っていったが、彼女にやんわりと断られてしまった。それ以来は好意に甘えるようにしている。
キャンディーティーが好きなんだよね。と珍しい茶葉なのかどうかは知らないけど、透き通った水色が美しい。隣の席に座った彼女はそれを傾けてから、私に問いかけた。
「彼ピとはうまくやれてる?」
「そんなんじゃないって。あれは商品。」
「またまたぁ。調教進んでるんでしょ?」
「うまく行けば今度の品評会には出せるよ。」
「そしたらお別れかあ。」
品評会で高評価を得た商品は『ヒトケタ』と呼ばれる上層のエリア住民のもとへ引き取られる。私が開発してきた商品もそのために。
なのに、なんでかな。
お別れって言葉を聞いた瞬間にこんなに胸を締め付けられるのは。
「湿っぽい話になっちゃったね!そういえば最近うちのがね・・・」
アトリエの中には人一人貼り付けられそうなほど大きなキャンバスがある。
なんだかそこから目が離せなくなった。