85 それぞれが出す答え
「ローズ。何か言って」
ウィルから口を開いたが、その問いかけに戸惑う。
「何かって?
仕組まれたって何を?
私には前世の記憶がある。
違う世界の前世の記憶。
ローズマリーとのギャップに戸惑う事もあった。
だけど、ウィルの言葉が私を救ってくれた。
また、違う前世の話をされたって
今の私はローズマリーだわ。
誰でもない。
そうでしょ?」
そう言うとウィルが
「そうだよ。
ローズマリーはローズマリーだ。
そして僕も初代じゃない。
ウィリアムだよ。
でもね、僕さ
女神アルティアの話を聞いて嬉しいと思った。
僕の魂は、君の魂を
いつかの前世でも愛してたんだって。
変かな?
堪らなく嬉しい。
ずっと遥か昔から、僕の魂に君が刻まれてる。
そして、精霊王とも因縁があった。
でも、ローズマリーは僕を選んでくれた。
それが全てだ。
何を仕組まれてたって
僕が君を求めてる、それだけだよ。」
そう言うとウィルは私を抱き締めた。
「うん。
私も、ただ貴方を求めてるわ。
ローズマリーとしてウィリアムを。
それだけでいい。
良く分からない事は考えたくないわ。」
思考を放棄した。
いつかの想い残しだとしても、今だけを感じたい。
お互いを求める様に抱き締め合う。
何度も唇を重ね合う。
何も言葉は要らなかった。
お互いの服を脱がせ合いながら
熱く深く重なった。
甘美な欲望に堕ちるように
溶けて消えてしまいそうになりながら
ただ温もりと快楽とを貪った。
何度も何度も…。
そして果てた。
夢を見た。
夢と言うより感情の残像。
夢の中の私は、愛の悦びと愛の哀しみと愛の怒り
色んな愛の坩堝に身を焦がしていた。
溢れる想いを溢さないように
必死に耐えていた
自分の心を殺すように
全ての感情に蓋をするように
憎悪に身を焦さぬように
漆黒の闇に堕ちていく。
光が差して手を伸ばす。
大きな温もりで包まれる。
切ないのに温かい、そして満たされる想いと刹那な想い。
何とも言えない相反する様な想い。
『私は、ただ兄様と生きて行ければ良かった…
何処で間違えたのかしら…
こんな筈じゃなかったのにな…
とても眠いわ…』
また漆黒の闇へと堕ちていく
溶けるように。
意識が浮上していく。
目を覚ますと、涙が溢れていた。
ウィリアムが心配そうに見つめていた。
「ローズ?起きたんだね。
眠りながら涙を流してたんだよ。
どんな夢を見てたの?」
腕枕をしながら頭を優しく撫で私の返事を待つウィルに
「見てたと言うか感じてたと言うか…
不思議な感覚だったわ。
色んな想いを溜め込んで溢れないように必死になって闇に堕ちていくような…
でも、光が差して包まれたのよ。
でも、不思議なの相反する想いからスッキリしない。なのに温かくて…
私、なにか間違えたみたい。
私じゃないんだけど…。
命の燈が消える前の感情の記憶なのかな…
上手く、言えてるかしら?
伝わらないわよね。」
良く分からない夢の感覚を伝える。
すると、ウィルが私の涙を指で掬いながら
「なんとなく分かる。
起きたら、君が涙を流してた。
すごく穏やかで綺麗な顔してるのに
涙を流してたんだ。
ずっと見てた。
そしたらね、何か視えてきて
きっと、遥か昔の想いなんだ。
理想と希望と絶望と刹那。
それが一つに重なって
僕にも上手く説明出来ない。
良くも悪くも心残りなのかもね。
遥か昔の…。
そしてね、魂の心残りが分かった気がするんだ。
僕は君が欲しかっただけなんだ。
君の為に国を創ると決めて、その為に君を傷付けたんだ。
僕が一番大切な君の為にと思ってしたこと全てが間違いだったと気付いてしまった。
無秩序だろうと何だろうと君が居る、それだけで良かったのにって…。
国の理想は弟のものだった。
弟のものだった理想を君の為に叶えたかった。
目的を見失ったんだね。
けど、今の僕は君を見つけた。
君だけ居ればいい。
今度は間違えない。
君を離さない。」
ドクンっと私の中で何かが波打った。
溢れ出るように涙が止まらなくなった。
次々に溢れてくる涙。
哀しい訳ではない、嬉しいのだ。
悦びなのだ。
「ウィル。
何だか私じゃない誰かが悦んでるみたい。
自分じゃ涙を抑えられそうにないわ。
困ったわね。」
そう涙を流しながら笑った。
ウィルがタオルを持ってくると出ていった。
ワゴンを押して戻ってくる。
ワゴンには、料理や飲み物、フルーツやデザート
沢山、乗っていた。
はいっ。とタオルを渡されて涙を抑える。
「どうしよう。
泣きたくないのに止まらないわ。
泣きながら食事する訳?
もぉ〜、どうしたら止まる訳?」
そう言う私に笑いながら
「僕の側に居れば、そのうち落ち着くよ。
今日は一日オフだ。
ベルナルドに伝言を頼んだよ。
リュカに今日は仕事休むって伝えろって。
後で、リュカに怒られるね。
でも、僕は理事長なんだから下にやらせるのは普通だよね?
僕に仕事をやらせ過ぎるんだ。
もう少し、職員を増やさなきゃね。
これからは、何処に行くのも何をするのも一緒だ。
君との時間だけを大切にするよ。
それが、僕が出した答えだ。
僕は、ローズマリーと出会えた事を奇跡だと決めた。
ずっと待ってたんだ、きっと君との再会を。
次こそは、君を離さない為に。
この国は、僕の夢じゃない
サイラスの夢なんだ。」
そう語るウィリアムは、とても素敵な笑顔で
綺麗で穏やかな顔だった。
「私はね、貴方と同じ時間を過ごしたい。
今度は、同じ速度で同じ小幅で共に歩みたい。
それと同時に、この国の未来を明るく照らしたい。
私ね、思ったの。
私たち、無意識に心残りの回収してるわよね。
貴方に再会して貴方と愛を育み、そしてサイラスの想いを叶える手伝いをしてる。
また、家族として同じ方向を向いてる。
記憶なんて無くても、魂はちゃんと知ってるのよね。
だから、これからも心のままに生きるわ。
それが、時に残酷でも。
次は迷わない、躊躇わない。
明るい未来になれば必ず影が生まれるわ。
影には影を。
それが私達の役割よ。
一緒に闇に紛れよう。
貴方が居れば、何処でも楽園よ。」
そう、私の答え。
仕組まれた運命だとしても
神の悪戯だとしても
奇跡なんだとしても
なんでもいい。
ローズマリーとしての幸せだもの。
「想いは一緒だね。
永遠に続く輪廻の中で
いつだって君を求めるよ。
いつだって君を見つける。
いつだって離さない。
僕と君の見えない首輪が主を見つける様に
互いに自ら囚われに行くんだ。
素敵でしょ?」
そう言うウィリアムに私は
「そうね。
私達の愛の想いは重いの。
綺麗でも純粋でもなくていい。
ただ求める。それだけでいいわ。」
そして静かに抱き合って唇を重ねる。
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【サイラス視点】
その頃、サイラスは中々、寝付けずに眠りについたからか、頭がぼーっとしていた。
目の前の書類を、ただ眺めながら
意識は上の空だった。
すると、目で見ているのか頭の中に直接、映し出されるのか分からないが映像が流れていくのだ。
ビックリする様な戸惑う様な、それでいて冷静な自分がいた。
遥か遠い昔の記憶なんだと、なんとなく思っていた。
女神アルティアや精霊王ガロが現れるからだ。
二人の男女と女神と精霊王。
それぞれが、契約を交わすなか
自分だろう奴が、尊敬と憧れと嫉妬で二人の男女を見ている。
憐れみや同情から精霊王と後に契約を交わしたように自分は思ってる様だ。
好きなのに、憎い
愛してるのに、反発する
何だか、やはり自分なのだと思った。
俺には理想の世があった。
兄に話したら、賛同してくれた。
妹まで一緒に叶えたいと言った。
俺たちは、全てを分かち合えると思ってた。
俺の夢を、共に共有してくれる家族。
幸せだったのに、俺は手放してしまった。
俺は綺麗事ばかりだった。
それなのに自分の正義での行いは棚に置いて
兄を責めてた様な気がする。
兄を庇う妹も憎らしかった。
その果てに、僕は大事なものを失ったと気付いた。
俺の後悔か…。
だから、俺は今ココにいるのか。
次こそ、俺は理想の国と家族を守る。
何も手放さない。
今度こそ、俺は全てを掴む。
それが俺の答えだ。
それにしても、この眼は何だ?
女神の加護の恩恵か?
「なぁ〜。ノア。
俺の眼、どうなってる?」
そう書類に目を通すノアに声を掛ける
なんだ、この忙しい時にって顔で此方に視線を向けたノアがビックリしている。
「サイラスっ!
なんだ、その眼は!
ウィリアムみたいに瞳に金色の輝きが浮かんでるぞ。
星屑の瞳だ。
女神アルティアの加護の恩恵なのか?
眼に異常は?
痛みはあるか?」
何やら瞳の色は変わらないが金色の星屑が加わったらしい。
なるほど、兄は女神の加護なしで開眼してたのか。
生まれた時から、あの瞳だ。
初代の生まれ変わり、魂なだけはある、か。
今度、兄に聞いてみよう。
この眼の使い道を。




