82 国王の決断
王立アルティア総合学校が開校して一年。
軌道修正も終わり、慌ただしい日々も落ち着いた頃。
国王に呼び出された。
呼び出されるのは何年ぶりだろう?
私とウィルが揃って王のプライベートサロンに行くと父も一緒にいた。
ウィルが最初に話し出す。
「なんですか?父上達。
ここに呼び出すとは、親子の会話ですか?」
そう言うと国王が「そうだ」と言う。
私が防音結界を張る。
「気が聞くな、マリー。
お前達に、話したいのは隠居の事だ。
サイラスに譲ろうかと思っておる。」
国王の言葉に私とウィルは
ポカンとしてしまう。
まだ早いだろって思うからだ。
「ちょっと、待ってください。
隠居って、まだ50歳ですよね。
早過ぎませんか?
サイラスも心の準備があるでしょ?」
そうウィルが声を上げれば国王は
「疲れた。
私は、20になる歳に国王になった。
城の中に居たもの達が全滅に近かったからな。
弟も妹も殺された。
国王になるしか無かった。
無我夢中だったよ。
建て直すのに、考えてる暇もない程にな。
ジョンを含め、側近達には感謝してる。
母さんにも苦労を掛けたと思ってる。
そして、お前もサイラスも蔑ろにしたかもな。
お前達が、未来を見据えて
この国を新たにしようと頑張ってる。
私の役目は終わったんじゃなかろうか。
早いかもしれんが、母さんと2人で
のんびり隠居生活したいなと思ってな。
ジョンも影を引退したいそうだ。
ウィリアムが居れば良いだろ?
許してくれないか。
私が、さっさと退場するのを。
サイラスには怒られるかな?
24歳で国王にするのは酷か?」
本心なのだろう。
本当に疲れてしまったのだろう。
道を見失ったのかもしれない。
そんな想いを聞いたウィルは
「父上の気持ちは分かりました。
けど、僕の一存では決められない。
サイラスの気持ちも聞かなくては。
ただ、一人の貴方の息子として言わせて下さい。
いきなり国を背負って、ここまでやってきた父上を男として尊敬します。
そして、すいませんでした。
父上の期待には応えられず、投げ出して
好き放題しといて、サイラスの為に
父上を差し置いて動いて来た。
父上から、国王としての原動力を奪ったのは僕ですよね?
僕は、父上が母上との今まで作れなかった時間を長く作らせてあげたいですよ。
自由を満喫して欲しい。
僕は、父上を差し置いて、さっさと自由になった身です。
父上の望みを叶える位はしないとですよね。
ただ、サイラスの心の準備が整うまでは
待って頂けませんか?
そう長くない内に、僕が説得します。」
ウィルは、そう言って頭を下げた。
「ウィリアム。
お前には、生まれた時から苦労を掛けてる
謝るな。王家に産んでしまって苦労を掛ける。
これからだって、お前は色んな苦労も背負うだろう。
私は、お前に何もしてやれて無い気がするよ。
マリーが居てくれるから、お前は苦労とも思わないか?
サイラスを愛してるから支える事も苦では無いか?
サイラスの準備が整うまでは責務を果たす。
サイラスには、お前から言ってくれるか?
ウィリアムの言葉しか素直に聞かん。
私より、お前を信頼してるようだ。
まったく、駄目な父親だ。
悪いなウィリアム。」
その言葉にウィルは笑顔で答える。
「父上、息子の為に国をここまで建て直したのは貴方ですよ。
負の遺産は、全て排除したんでしょ?
終わったのですね。全て。
父上が僕と似ていると気付いていました。
これからの未来の国の事より、民の為より息子に託す国の為に頑張ったのですよね?
託されますよ。
サイラスが、きっと良い未来を民の為の未来を見据えて国を背負いますよ。
僕が影から支えます。
僕は苦労だとは思ってません。
僕は、民の為ではなく、サイラスの描く未来の為に動いてるだけです。
国が平穏になるのは僕の家族の平穏に繋がるだけの話ですからね。
僕達は大丈夫です。
父上は、これから父上が大事な者の為だけに過ごして下さい。」
それを聞いた国王は、静かに涙を流した。
そして、私は父を見据えて言葉を伝える。
「お父様も、引退するのですね。
今まで、お疲れ様でした。
お母様を早く重荷から解放してあげて下さい。
お父様の為に、心を砕いたと思いますわよ。
ゆっくり領地運営しながら余生を満喫して下さいね。
国王様が、サイラスに王冠を譲るまでは宮廷魔導師としては隠居出来ませんが
影は、今日から引退しても良いですよ。」
そう笑顔で言うと、父も笑顔で答えた。
「マリー。ありがとう。
辛くなったら、いつでも帰っておいで。
それと、何かあったら助けを求めていいからな。
父親として、オマエの代わりに手を汚す事は出来るぞ。」
苦笑いになってしまう。
親子で、御役目のバトンタッチだ。
サイラスは居ないが。
こうやって、置いてけぼりにされるサイラスが少し可哀想だが、国王はやはりウィリアムに頼ってしまうのだろう。
サイラスをウィルの頼みで自由にさせてからサイラスを、どう扱っていいのか分からないのかもしれない。
また、サイラスが怒りそうで気が重い気もする。
父達との話を終えて、そのままサイラスの所に向かった。
執務室に居たので、話があるから家まで付き合えとノアとレオも連れて転移した。
自宅のサロンに、お茶を用意して話す事にした。
「悪いな、仕事中に。
大事な話だ。この家の周りは結界で守られてるし使用人は全て番犬だ。
城で話すよりいいだろ。
先程、父上が隠居すると言ってきた。
サイラス、覚悟は出来てるか?
ノアとレオは、どうだ?サイラスが国王になる不安はあるか?」
そう静かに話すウィルに3人ともが驚愕の表情だ。
そりゃそうだろう、いきなり過ぎる。
最初に口を開いたのはサイラスだった。
「おいっ。
またなのか?俺は事後報告しか聞けないのか。
蚊帳の外かよ!
父親の決断も、本人じゃなくて兄貴からなのか?
俺の事を何だと思ってやがる。
そう言う所が気に入らない。
結局、父上は兄貴が頼りなんだ。
俺は二の次だ!
兄貴が影で俺を支えるから呑気に隠居なんかするんだろ?
兄貴が居なかったら死ぬまで国王だったろうよ。
気に入らねぇ〜ぞ!」
やっぱりの反応でしたか。
しかし、今回の反応にはノアも嫌味も言わず黙ってる。
レオは、サイラスのように怒りが顔に出てる。
「サイラスが怒るのも無理はないな。
父上の口から聞きたかったんだろうしな。
父上も不器用なんだよ。
サイラスを愛してない訳じゃ無いんだ。
全て、僕のせいだよ。
僕がサイラスが可愛過ぎて自由にさせてくれと頼んだから父上は、オマエに関われなかった。
だから、オマエを愛してるのに接し方が分からなくなった。
僕がサイラスの描く未来の国の為に父上を差し置いて動いて来た。
だから、息子に託す国の為に動いてた父上の道を奪ってしまった。
父上は、オマエに面と向かって怒られたく無いんだよ。
これ以上、嫌われたくないんだ。
僕のせいなのにな。
サイラス、ごめんな。
父上からの愛情を感じるのを結果的に奪ったのは俺だよな。
俺が、全部悪い。
怒るのは俺だけにしてくれ。
父上は、国を守って来たんだよ。
家族も殺されて悲しむ暇もなくな。
もう、楽にさせてやらないか?
家族を殺されて怒り哀しむ中で急に国を背負った父上の重積を考えてやれ。
怒りが収まらないなら俺を殴れ。
受け止めるよ。俺が全部。」
そう言うウィルを、見据えてたサイラスが怒りなのか哀しみなのか分からない顔で拳を握る手をプルプル振るわせていた。
そして、涙を流しながらウィルに殴りかかった。
「クソっ!クソっ!クソっ!…」
拳が顔に3発入ったと思ったら、ウィルに抱き付きながら大声で泣いた。
ウィルは、口から血を流してたが黙ってされるがままだった。
「兄貴…。
俺、やっぱガキだよな。
怒りを抑えきれない。
父上の事なんて考えてやれなかった。
愛が欲しいと一方的に求めるだけで、相手の事なんて考えてやれない。
歴史の知識しか頭にない。
深く考えたら分かるのに分かろうとしてなかった。
やっぱり俺は馬鹿でガキだ。
兄貴に言われなきゃ分からない。
八つ当たりで殴って、ごめん。
分かってて受け止めてくれて、有難う。
俺、もっと強くなりてぇよ。
こんなガキが国王になっていいのか?
なぁ、兄貴。」
確かに、24歳にもなってガキだ。
いつだってウィルに甘えてる。
けど、結果的に甘やかしたのはウィルだ。
受け入れて受け止める責任はある。
「サイラス。
いつでも受け止める。
怒りが抑えられないなら俺を殴ればいい。
言ってるだろ。
心を閉じるなって。
俺の前では、ガキのままでいい。
表で、完璧なら良いんだ。
溜まったものは、俺に吐き出せ。
オマエの影に俺はずっと居てやる。
オマエは良い国王になれる。
誰よりも。
俺や父上よりな。」
そう言って自分の胸に顔を埋めて泣くサイラスの頭を撫でてやるウィル。
どこまでも甘やかす気だ。
それが、ウィルの愛し方なのだ。
その為に至らない所が出たら自分がカバーすれば良いと思ってる。
私なんかより、ずっと広い心で包む愛を持ってる。




