80 ベルナルドという男【ベルナルド視点】
俺は、生まれた時から名前がない。
記憶にある初めての名は【小僧】だ。
物心ついた時には、街のボロ屋に住んでいて
毎日、朝から男がやってきて勉強やら闘い方やら魔法やらを教わった。
食料や服、必要なものは男が持ってきた。
夜になれば帰っていく。
結界なのか外には出れない。
番犬の心得を叩き込まれた感じだ。
男は、無感情だった。優しさの欠片もない。
俺が喚こうが騒ごうが、ただ無言で叩きのめされた。
外の世界も知らない。
俺の全ては、その男だった。
いつからだろう?
考えるのを辞めて、与えられる事をこなすだけになったのは。
親なんて知らない。
家族ってなんだ。
あの男は誰だった?
もう、全てが遠い過去で
あまり覚えてない。
でも、恨んでもない。
今になれば感謝さえしている。
あの男に全て教わった。
今の俺を作ったのは名も知らぬ男だ。
最近、貧民街で死体が、あちこちで見つかる。
不可解だが、誰も騒がない。
王都の囲いの外で燃やされ捨て置かれる。
墓など無い。
誰も調べもしない。
それが現状だ。
親に捨てられ孤児院に引き取られるのは幸せな方だ。
捨てられて野垂れ死ぬなど普通なのだ。
底辺の世界は弱い者は抗う事を辞めたら、そこで終わりだ。
けれど、最近の死体は様子がおかしい。
何故か、そう思うのだ。
何かが、動いてる気がする。
ただの感だ。
なんの根拠もない。
俺が、個人的に仕込んだ情報屋に話を聞きに行く。
何か変わった事はなかったか。
何やら、ジョン様の番犬共が動いてるのは確かだが、明細は分からないとの事だ。
俺は、もうウィリアム側だ。
聞いても教えてくれない。
自分で、調べるしかねぇって事だ。
同業者だ、簡単には分からない。
これは、主に報告かな?
国王側と王太子側。
同じ方向を向いてるのか。
それとも…。
気付くのが遅くなってないだろうか?
早めに察知したのだろうか?
ジョン様の番犬は古株だ。
俺との場数が違う。
もしも、敵対したら俺はウィリアムを守れるか?
チキショウ。
何が起きてる。
屋敷に戻りウィリアムに報告する。
「報告、ありがとう。
父上達は何をしようとしてるのかな?
概ね、敵対では無いと思うけど
サイラスに明け渡す準備の一環か?
死体の関係性は?
僕には、何の報告も無いからね。
ベルナルド、オマエ向こうにいた時の番犬全てを把握してたかい?」
番犬全てなんて無理だ。
俺は俺が仕事しやすい者を自分で選んでた。
それに、あまり群れなかった。
知らない奴の方が多い。
「知らない奴の方が多いな。何故だ?
死体は番犬ってことか?」
俺が聞くと
「そうかも知れないなと思ってね。
一つの可能性の話だ。
父上達が、どこまでの遣り方をしてたか分からないが負の遺産だと思ってたとしたら?
僕やサイラスに知られたくない情報を消してるとしたら?
有り得ない話ではないよな。
随分と軽く見てるね番犬を。
要らなくなったら処分なんてね。
昔の僕だったら、やってたかもと思うと哀しいな。
ベルナルド。
ローズには言うなよ。
哀しむから。
自分の父親が番犬を大量に切り捨てたなんて知りたくないだろうしね。
何を、そんなに恐れてるのかな?
僕たちに知られずに消したい事って何だろう?
知らないままの方が幸せかな?
ベルナルドは、どう思う。」
ウィリアムは、そう言った。
敵対ではなく、負の遺産の消去か。
確かに、国王もジョン様も親バカだ。
負の遺産の方がシックリくる。
それを知る事が、主の為になる気もしない。
知らなくて良いことなんていくらでもある。
「わざわざ、掘ることも無いかもな。
ただ、俺は気にしないが
下っ端の番犬は共有してた者も居るが
始末されるかも知れねぇぞ。」
屋敷にいる者とハンデルンにいる者。
それと街に数人の者は、俺が昔から個人的に仕込んだ奴らだ。
向こうの番犬では無い。
ただ、情報源や操作などの者は向こう側の時からの共有だ。
始末されるかも知れないのだ。
「そうだろうな。
街に散らばってる奴らは、僕が新たに加えた者以外は向こう側だ。
何をしても文句は言えないな。
しかし、大量となると困ったな。
新たに加えるのは骨が折れる。
そんなに大量なのか?」
分からないのが正直なところだ。
「一気に見つかってる訳じゃない。
ただ、頻度が高いってだけだ。
これからも、続くのか。
直ぐに普通に戻るのかも分からない。
元々、貧民街は死体は普通に出る。
飢えや喧嘩や強奪の犠牲、日常的にな。
大量に始末したい理由が予想通りなら
情報操作もえげつなかったって事だ。
俺は、どっちかと言うと潜入の方が多かったから分からねぇけどな。
ウィリアム、オマエが番犬を粗末にする遣り方が嫌いだからな
知られたくないのは、自分達の遣り方なのかも知れないな。
従わせ方とかな。」
俺の育て方とかも、人道的とは言えない。
「僕にじゃなくて、サイラスに知られたくないのかな?
僕には、想像がつくからね。
ベルナルドだって、きっと酷い遣り方で育てられたんだろ?
人を、ただの道具にする遣り方なんて
自分を捨てさせるか、恐怖で従わせるか、弱味を握るかだろ?
僕は、そんな人間は増やしたくないな。
サイラスが、全ての民が夢を描ける世界って言うんだよ。
道具じゃ、夢は描けない。
影でも、夢は描けないとね。
その為に、父上達は始末する事を選んだのかな?
父上は、昔から子供に負の遺産を残さないって言ってたんだ。
父上は、どんな国にするかよりも
子供に残す為に仕事してるんだな。
何だか、僕に似てるのかもね。
大切な者の為に生きる選択をしてる。
黙って見ぬフリしなきゃだね。
サイラスに悟られない様に。
アイツは直ぐに、汚い仕事を自分に内緒にするって怒るからね。
僕は、番犬達に愛されなくちゃね。
愛で繋がる群れを作りたい。
国王の為でも国の為でもなく
僕の為に仕事をしてくれる番犬を育てたい。
ベルナルドは、僕を愛してくれるかい?
僕は君を、ちゃんと愛してるよ。
気持ち悪いとか言うなよな。」
ウィリアムが、言う愛とは何かは
まだ、ちゃんと理解は出来ない。
でも、俺はウィリアムの事を気に入っている。
コイツの為に何かをするのは好きだ。
「気持ち悪いって言っていいか?
それより、貧民街の死体の事は把握しなくていいか?
それとも、情報としてはいるか?
あまり、ウロウロすると向こうに気付かれるけどな。
ウィリアムにバレる事は織り込み済みかな?
サイラスの方にバレる事はないからな。
俺じゃなきゃ、普段の貧民街の日常だって思うだろうからな。」
そう言うとウィリアムは
「そうだな。
把握もしなくていい。
お前のくだらない仕事が増えるだけだ。
ベルナルドの無駄遣いだ。
心配して報告ありがとうな。
頼りにしてるよ。」
そう、微笑むウィリアムは
いつもより穏やかな顔だった。
「おい、ウィリアム。
俺は、オマエが結構、気に入ってる。
お前の為に仕事するのは好きだぞ。
けど、愛してるとか気持ち悪いから
サラッと言うなよな。
オマエ、恥ずかしい言葉を普通に言うよな。
自分で恥ずかしくないのか?」
照れ隠しだった。
ウィリアムにはバレてたらしく。
「ほぉ〜。
ベルナルドに恥ずかしいって概念が出来たんだ。
僕は素直だからね。
思った事は言葉にするよ。
言わなきゃ分からないじゃないか。
ベルナルドも僕を愛してるって言ってもいいよ。」
調子が狂う。
コイツもローズマリーも
少し可笑しい。
感情をストレートに言葉に出し過ぎだ。
そして、他者にも求めるのだ。
俺は、コイツらに洗脳されるのか?
俺の知らない世界は狂気に満ちてるのかも知れない。




