79 主の思惑と配下の戸惑
アルベルトとエリアーナが帰ってきた。
根掘り葉掘り聞きたい気持ちを抑え、普段通りの生活をした。
ウィルは、兄と一緒に新たに新設した校舎で
これからの流れや教師や職員に教育理念の共有などの仕事で外に出ていた。
私は私で、子供達の教育と称して馬に乗ったり剣術を教えたりして遊んでいた。
二人は、別々に自分の仕事へ向かう。
見た目からは、いつもと変わらない様に見えたが一泊して帰って来たのだ。
何もない訳が無い。
夕方になって、ウィルが帰ってきた。
書斎に入り、お茶を飲みながら学校の進み具合などを聞いた。
「ところで、あの二人は?
何か、関係性に変化はあった?」
ウィルが期待がこもった眼差しで聞いてくる。
「残念ながら、普段と変わらないわ。
一泊したんだから、何も無い訳ないじゃない?
なのに、変化がないのよ。
エリまで普通なのよ〜。
逆に、おかしいじゃない。
きっと、ベルナルドが普通に過ごせとか言ったのよ。
私たちに、楽しませてやるもんかって。
こうなったら、直にストレートに聞いてやろうかしら。」
そう言う私にウィルが
「ベルナルドは、顔に出ないもんな〜。
エリアーナまで、普通なのか。
そうだね。
直接、聞こうか。ベルナルドに。
エリアーナの気持ちは、もう分かってる訳だし
ベルナルドが、どう思ってるのかだからね。
そうと決まれば
ローズ。ベルナルド呼んできて。」
書斎を出て廊下を歩いていたら、丁度いいタイミングでベルナルドに出くわす。
「あっベルナルド。
今から呼びに行こうと思ったのよ。」
そう言うと
「丁度いい。俺も話があって来た所だ。
どうせ、昨日の事なんだろ?」
その通りです。
と、言わんばかりに笑顔で答えて一緒に書斎へ戻る。
ベルナルドをソファーに座らせて、お茶を出して向き合う様に座ると
「2人の意図が見えない。
エリアーナに夢を見せる為に俺を使ってんのか?
それとも、他に何かあるのか。
俺に何を求めてる。」
渋い顔で聞いてくるベルナルドに
「そりゃ、エリを応援したい気持ちもあるけど
ベルナルドだって、私達にとって大切な家族よ。
ベルナルドに、その気がないなら無理にエリに構わなくて良いわよ。
でも、少しでも気があるなら相手にして欲しいわね。」
そう私が言うと、黙ってしまった。
何か考えてるのだろうか?
ウィルに視線を向けると
「なぁ〜、ベルナルド。
少し僕の話に付き合ってくれるかい?
昔の僕は、きっとベルナルドと同じだったんだ。
だから、君も僕を自分と重ねたんじゃないのかい?
同じ匂いがするって。
感情というものを切り離した存在だ。
自分であって自分ではない。
どこか遠くから自分という人形を動かしてる。
今までの僕等なら、それで良かったのかも知れない。
僕はね、ローズに感情の開放をされてから世界が変わったんだ。
あの頃の僕が普通だと思っていたものが、全て普通じゃなくて、今まで何て損してたのかなってさ。
毎日が新鮮で、毎日が好奇心を刺激する。
そして、僕だけの家族が欲しくなった。
昔の僕にとって、人は駒に過ぎなかった。
僕にとって、有益かそうでないか。
嫌なものは排除すればいい。そう思ってた。
けどね、今は人が僕と言う人間は、どんな人間なのかを教えてくれる存在になった。
感情というものの動きで僕は自分を知れる。
感情を感じるのは、時にキツイ。
何も感じない方が良い時もあるかも知れない。
だけど、初めて感じる感覚が僕は愛しい。
ベルナルド。君にも感じて欲しいと思ってしまうんだ。
君を家族にすると決めたのは僕だ。
僕は、君を気に入ってる。
だから、大切な家族として君に愛を知って欲しい。
自分という存在を愛せる人になって欲しい。
でも、決めるのはベルナルド、君だ。
そんなものは望まないと言うなら
変わらなくていい。
強要はしない。
けどな、守りたいものが出来るから弱くなる訳じゃないんだ。
僕は守りたいものが出来たから強くなれたよ。
僕はね、番犬達みんなに人間でいて欲しい。
人形でも駒でも玩具でも道具でもない。
ちゃんと一人の人間として接したい。
そんなんじゃ、裏切られたりするかも知れないけどね。
でも、いいんだ。
影には影なりの愛がある。
時には残酷な愛でも、そこに愛を持って欲しい。
とても、残酷で酷なことを僕は言ってるんだと思う。
感情に蓋をしてた方が平穏だ。
感情を感じる事が地獄かも知れない。
けどね、喜びもひとしおだ。
苦しい程に喜怒哀楽の全てを
僕は大切な家族と共有したい。
狂気だと思うかい?」
ベルナルドにとって、その提案は
まさに狂気かも知れない。
初めて感じる悦びも初めて感じる恐怖も
味わい尽くして全てを共受しようと言ってるのだ。
「ウィリアムの想いは理解した。
けどな、俺は番犬として育てられた。
他を知らない。
感情なんて言われても、本気で良く分からない。
オマエよりも重症だ。
主な癖に、俺に普通に接しろとか、オマエたち2人はめちゃくちゃだ。
番犬って何なんだって感じだよ。
俺にとっての番犬の概念が覆ってるよ。
頭と心と体が、チグハグになる。
どうしたらいいのか分からねぇ。
ウィリアムだけに支える様になって
俺は、分からない事だらけだよ。
こんな良い歳して笑えるぜ。
衝動的に動くとか初めてだぜ。
オマエら2人のせいだ。
仕事に支障が出ても知らねぇからな。
主の命令に、背くことさえ出てもいいのか。」
呆れた様なぶっきらぼうな態度でベルナルドが言う。
戸惑いが大きいのだろう。
「なるほど。
ベルナルド、衝動的に動いたのか?
オマエが?
それは興味をそそるねぇ。
詳しく聞かせてくれないかい?」
ウィルが楽しそうに聞く。
ベルナルドは、淡々と話す。
昨日の事を淡々と。
エリアーナの仕草や雰囲気にドキッとした話や身体が勝手に動いてキスした事などをだ。
呆れてしまった。
「ベルナルド。
貴方に、恥ずかしいとか聞かれたくないとか
秘密にしたいとかの概念は無いのかしら?
そういう所が、人間らしくないのよ。
呆れるわ。」
そんな私の言葉を聞いてウィルが笑いながら
「ベルナルドにとって、報告なんだろうね。
仕事と同じように。
お陰で、詳しく分かったじゃないか。
ベルナルド。
それは、初めて覚えた恋って事なんじゃないか?
何とも思ってない女なら、君は昨日、エリアーナを抱いてたんじゃないのか?
簡単に何も考えずにね。
なのに、君は抱かなかった。
けど、エリアーナに恥をかかせないように
性欲を我慢して露天風呂に入ってやったんだろ?
しかも一緒のベットに寝て。
大事にしたかったんだろ?
エリアーナのこと。
嬉しいね。ベルナルドが普通の人間の様に心を動かすなんて。
もう、戻れないよ。
葛藤する君を見られるのか〜。
楽しみだよ。
ベルナルドが悩んだり苦しむとか
ワクワクするね。」
ウィルの本音が出ちゃったよ。と思ってると
「ウィリアム、ローズマリー。
それが、一番の目的か。
俺で、楽しんで喜ぶ為かよ。
お前達は、何でも楽しむんだな。
孤児たちを育てるのも
エリアーナを引き取るのも
全てを楽しんでる。
初めて、手を汚すのも躊躇わなかった。
俺達に、命令だけすればいいのに
一緒に手を下すとは驚いたしな。
何もかも、お前達は規格外だ。
お陰様で、俺は毎日が楽しいよ。
お前達が次に何をするのか視えないからな。
興味が尽きない。
俺は、ウィリアム、オマエに捕まったんだな。
自分で主を決めたと思ったのによ。
俺の事を変えていくのを後悔しても知らねぇぞ。
これからは、休暇はとる。
エリアーナと一緒にしてくれ。」
何かを諦めたみたいな顔でベルナルドが言う。
でも、エリアーナと一緒にって…
「ちょっと待ってよ。
2人の事は応援するけど、休みを一緒にするのは
たまににしてよね〜。
毎回、二人揃って休まれたら私とウィルが大変なのよ。
ちゃんと下を育ててからにしてよね。
ベルナルドが完璧過ぎて、貴方が居ないと色々めんどくさいのよ。
エリは私の面倒見てくれるんだから
二人で一緒に居ないとか、ちょっと困るわ〜。」
そんな私を呆れた顔で見ながら
ベルナルドが言う。
「どっちなんだよ。
応援するなら、もう少し自分の事は自分でやれ。
ウィリアムもローズマリーも、他の家族に頼り過ぎだぞ。
お坊ちゃん、お嬢ちゃんは、これだからな。
やってもらって当然だと思ってやがる。
嫌なら、屋敷の使用人の数を馬鹿みたいに増やせ
他の貴族みたいにな。」
いつもの、ベルナルドだ。
仕事としては、完璧にこなすが
普段の接し方は、使用人では無いし配下でもない。
「ローズ。
ベルナルドは冷たいからな。
2人でカバーしながら頑張ろう。
増やすのは嫌だ。
少人数で、家族で居たいからね。
君の世話は僕がするよ。」
苦笑いになる。
ウィルは、そんなに出来ないだろと突っ込みたくなる。
そしてベルナルドは
「休みは取っても仕事は、ちゃんとこなすよ。」
そう言って出て行った。




