78 その気持ちの正体
エリアーナは、悪い事をしてる訳でもないのに
コソコソと隠れていた。
ウィリアムと来ると聞いてたのに、ベルナルドが一人で急に別荘に入って来たからだ。
バレるっ。
そう思って、慌てて隠れたのだ。
ベルナルドは、何か考え事をして居るのか真顔で
腕を組んでいた。
少しすると、何かに反応したようにウロウロと屋敷の中を歩き始めた。
エリアーナは、どうして良いのか分からずに
隠れながらコソコソと移動して
ベルナルドに見つからないように細心の注意を払っていた。
しかし、ベルナルドは分かってるかのように
エリアーナが移動する度に、動き見つかりそうになる。
荷物を置いた部屋まで、なんとか辿りついたエリアーナは
覚悟を決めてベルナルドと対面しようと思ったが、いざ部屋に近付いてくる気配に逃げ出してしまう。
部屋の窓から、そっと外に出て窓を閉じる。
バルコニーから飛び移れそうな木に登ったのだ。
じっとしてると、部屋の中のベルナルドが荷物に目をやり考え込んでいる。
そして窓の方にやってきて外を眺める。
まずい。バレると思った瞬間に木から落ちそうになり思わず悲鳴を上げてしまったエリアーナ。
必死で、木に掴まろうとして居ると
ふわっとベルナルドに抱き抱えられていた。
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【ベルナルド視点】
悲鳴が聞こえて、窓を開ける。
エリアーナが木から落ちないようにアタフタしてるのが見えた瞬間、勝手に身体が動いていた。
駆け出して木に向かってジャンプしながらエリアーナを抱き寄せてた。
風魔法を足元に放ち、地面に叩き付けられるのを緩和したが
エリアーナと共に、尻餅をついていた。
「イタタ、大丈夫か?怪我はないか?」
俺が聞けば
「大丈夫です。ベルナルドさんのお陰で怪我はありません。」
と、少し顔を赤らめてエリアーナが答えた。
顔が赤いけど、大丈夫だろうか?
それにしても、何故ここに来るのか?
「エリアーナは、何でココにいる?」
そう聞くと
「あっ。あの。
奥様が、ご褒美だと…。
急に休暇をくれまして。」
そうか、何かの悪戯なのか?
ローズマリーは何が目的なんだ。
「エリアーナ。お前なんか聞いてるか?
ローズマリーは何か言ってたか?」
そう問うと、
エリアーナの顔が、どんどん赤くなる。
そして、想定外の言葉が聞こえてくる。
「想い出に残る一日を過ごせって
後から、ベルナルドさんが来るって言ってて
ベルナルドさんには内緒だから隠れてろとか
私へのプレゼントだとか…。
あの。その…。
私、ベルナルドさんが好きなんです。
だから、その
マリー様が、ベルナルドさんとの時間をプレゼントしてくれたって言うか
今日の、この時間をどう過ごすかは私次第だと言われました。
だから、ベルナルドさん。
一緒に過ごして下さいませんか?」
頭が働かない。
なんて言った?
俺が好きだって言ったのか?
「ダメですか?
ダメですよね。私なんか…。
ベルナルドさんに相手にしてもらえませんよね。」
呆然とエリアーナを見つめていた。
ダメかと聞くエリアーナの刹那そうな顔に
ドキっとした。
なんだ、これは。
ローズマリーに拾われた、哀れな女だと思ってた。
別に興味はない。
そもそも、女なんて性欲の捌け口だ。
わずわらしい。
縛られるのは嫌いだ。
俺を縛れるのは、俺が興味を持った主だけだ。
なのに、ウィリアムが俺を家族と呼んだ。
番犬は皆、家族だと。
俺みたいに、幼い頃から仕込む為に魔力量が高い子供を孤児院から連れてきた。
ウィリアムもローズマリーも自分の子供の様に可愛がる。
俺が、子供の面倒を見れば、もっと人間として扱えと言う。
俺の中で、何かが変わって行く。
人を育てるとはなんだ?
表向きの愛想しか知らない。
感情とはなんだ?
好きとか嫌いとかは分かるけど。
俺の中に育つものの正体は何なんだ?
「悪い。エリアーナ。
恋愛とか良く分からない。
俺は、主に支える事しか興味が無い。
けど、お前は家族だ。
ウィリアムが、そう言ってる。
家族は大事だって。
だから、一緒に過ごすのはいいが
エリアーナの気持ちに応えられるかは
正直、分からない。
俺さ、自分が分からないんだよな。
人間として何か欠けてる。
お前の希望は叶えられるが、それだけだ。
傷付ける事しか出来ないかもしれない。
そんな男なんだ。
お前が思う俺はただの人形みたいなものだ。
自分の感情が分からないからな。」
本心だった。
人を愛するとか俺には分からない。
「あの。
私も、良く分かりません。
こんな気持ちは初めてで。
ベルナルドさんの気遣いとか優しいのだって
私にだけじゃないのも分かってます。
ベルナルドさんって、いつも変わらないから
変わらな過ぎるから。
心も読めません。
けど、堪らなく気になるし
堪らなく好きだし
堪らなく触れたくなります。
私の一方的な気持ちです。
ベルナルドさんが許してくれるなら
側に居るだけでいいんです。
今日、私と一緒に泊まってくれますか?」
瞳を潤ませ泣きそうな顔で気持ちを伝えてくるエリアーナ。
その姿に、思わず手が伸びていた。
その、泣きそうな顔に触れたくなった。
頬に触る。
衝動的だった。
キスしてる自分がいた。
俺が、この女を求めたのか?
何やってんだ俺は…。
ポカンとしてるエリアーナに
「悪い。身体が勝手に動いた。
いきなり、嫌だったよな。すまない。」
そう言うと慌てた様に
「嫌じゃないです!嬉しいです。」
そう言ってモジモジし始めた。
無性に抱き締めたくなった自分の思いに
自分で驚いた。
半ばパニックだ。
頭を抱えたくなる。
今日の俺はおかしい。
気を取り直して
「とりあえず飯でも食うか。
用意してあったろ?酒は飲めるか?
腹を満たそう。」
そう言って立ち上がり、エリアーナに手を差し出す。
俺の手を取って立ち上がると、別荘の中に戻った。
座っててくれと、俺を座らせ
彼女は、料理を温め直したり手際良く動く。
世話を焼かれるなんて初めてかもしれない。
ワインを開けながら、適当でいいと俺も手伝う。
テーブルの準備を終えて、二人で席につく。
ワインで乾杯して、食事をした。
たわいない話をした。
穏やかな時間だった。
こんな風に仕事以外で時間を過ごした事なんてあったのだろうか?
「ベルナルドさん。
聞いてもいいですか?
あの、さっき勝手に身体が動いたって言いましたよね?
それって、私のこと嫌いではないって事ですよね?
触れたいって思ってくれたんですよね?」
急に聞かれて言葉に詰まる。
俺だって分からねーのに。
「ごめん。
正直、分からないんだ。
好きとか嫌いとかで考えた事もなかったし。
ただ、衝動的に触れたくなったのは事実だ。
けど、それが何でかは分からない。
そんな事を言ったらエリアーナを傷付けるな」
そう言うと
「傷付けるなんて…。
そんな事ないです。嬉しいです。
触れたいって思ってくれたんだもん。
私も、ベルナルドさんに触れたいです。
あの、こんな事を言ったら嫌われるかもだけど
食事の後、一緒に露天風呂に入りませんか?
もちろん、水着で。」
案外、この女は大胆なのか?
「おい。俺も男だぞ。
好きでもなくても抱けるぞ。
しかも、性欲もある。
俺は水着なんて持ってきてねーぞ。」
そう言うとエリアーナは
急に、真っ赤になってワインをガブ飲みし始めた。
おかしくて笑ってしまう。
恥ずかしがり屋なのか大胆なのか分からない奴だ。
「あっ、あの。
それでも良いと思ってしまうのはダメですか?」
大胆な方だった。
ちょっと呆れて
「あのな。
抱くのは簡単だけどな。
俺が触れたいと思ったのが、ただの性欲でも
本当に良いのかよ。
本気で言ってんのか?」
俺も男だ。エリアーナは可愛い顔をしてる。
若いし。
「それでも良いと思う私は、馬鹿ですかね?」
ションボリした顔で、こっちを見る彼女は
とても、そそられる。
それと同時に
簡単に抱いてはいけないと思った。
徐に立ち上がり、エリアーナの元に行く。
椅子ごと、こちらに向かせて
濃厚なキスをする。
そして俺は言う。
「俺が、こんな気持ちじゃ簡単に抱けない。
あんまり俺を誘惑するな。
もっと、自分を大事にしろよ。
水着を買ってくる。
露天風呂くらいは一緒に入ってやるよ」
こんな状況で、抱かない俺はどうかしてる。
この気持ちの正体が分かるまで
コイツは抱いてはいけないと何故か思ったのだ。




