72 命を狙う者達
その知らせが入ったのは、兄の結婚式の前日だった。
サイラスの命が狙われたと…。
未遂に終わったらしいが、城に鼠が紛れたという事だ。
「ローズ。
紛れ込んだ鼠は何匹いるんだろうね。
鼠を睨みを利かせて恐怖で従わせてる悪い猫は誰だろうね?
君は、どう思う?」
少し怖い顔で聞いてくるウィル。
可愛い弟の命が狙われたのだ、怒り心頭なのだろう。
「そうね。
直接、仕掛けてきた者は捕らえたのでしょ?
尋問で、吐くんじゃないの?」
と、軽く答えたら
「失敗したら、どの道 殺されると覚悟してたんだろうな。
仕込んでた毒で自ら命を絶ったらしい。
サイラスの命を狙う者と言ったら宮廷貴族かな?
バレない程度に削いでたのにね。
随分と前から仕込まれてたのかも知れない。
サイラスの方向性が漏れてるって事だ。
サイラス周りの使用人を厳選しなきゃな。
父上の城の管理はどうなってるんだか。
自分の周りだけって事か。
僕の仕事だろって事かな?
僕の、落ち度だよ。
使用人も昔からの者ばかりだから甘くみてた。
それに、魔導師も近くに置くべきだった。
今回は、レオに感謝だな。
外の事ばかりで、城の事を疎かにした。
ノアとレオだけに頼り過ぎたな。
ここまで来たら、いっそのこと
一気に、潰してしまおうか?
王を恐れるのは貴族だけだ、民には関係ないだろ?
宮廷貴族が全滅しても。
サイラスの命を狙った報いを受けて貰おうじゃないか。」
完全に、キレている。
きっと、こんな時のウィルは魔王なのだろう。
「怒ってるわね。
予定では、時間をかけて力を削ぐって事だったけど、いつかは謀られたと気付く。
早かったって事よね。
敵も馬鹿じゃ無いからね。
ウィルが、一気に潰すと言うなら
サイラスの為にもなるし
ぶっ潰せば良いと思うわよ。
あの人達が、民の害でしか無いと思うし
一部だけじゃない?上級平民達だけよ
あの人達に恩恵を貰ってるのは。
国王の許可はいると思うけどね。
やるなら、家族で一気に
やっちゃいましょう。
手を汚す事は、覚悟してる。
迷わずやるわ。」
そう言い切ると
「男前だね。さすが僕の愛妻だね。
サイラスの、急ぐ気持ちを神が汲み取ったのかな?
これで、僕が動けば
サイラスが、望む国への道が早道になる。
僕たちは、まんまと動かされてる気分だ。
でも、僕の大事な者に手を出そうとした奴らは許しはしないよ。
父上に許可を貰ってくる。
一晩のうちに、全ての宮廷貴族の屋敷は火の海だ。
迷宮入りの火災事件だよ。
弱味を握られ従わされた鼠ちゃんは
どうしたものかな。
まぁ〜、捕らえてから考えますか?」
全てを焼き尽くす気か。
怒りの炎は、何も知らない者までも巻き込むだろう。
しかし、宮廷貴族という既存のものを
根刮ぎ消し去る方が早いのだ。
この事で、サイラスに非難されようと
ウィルの行動原理は、他人より家族の為なのだ。
家族を傷付けられたら怒り
家族を煩わせるなら消す事さえ厭わない。
その為に他人を巻き込もうが
他人を気遣ったりしない。
サイラスには、急ぐなと言ったのは
急ぐ遣り方ではサイラスが心を曇らせるからだ。
サイラスの命令の元での粛清になるからだ。
今回は、ウィルが勝手に動くのだ。
「一気に、焼き払うって事ね。跡形も無く。
ウィルが、国王に話を通してる間に
一発で、終わらせられる番犬を揃えるわ。
明日は、お兄様の結婚式よ。
終わってから動きましょ?
結婚式の日に騒ぎになったら可哀想だもの。
一生、恨まれそうだわ。」
兄の事は考えてと釘を刺す。
「分かってる。
リュカに迷惑はかけないよ。
リュカも大事な家族だ。
義兄さんの、結婚式に水を刺したりしないさ。」
そう言って、手を広げるウィル。
「きて。」
私が抱き付くと、息を吐き
「少し、平常心になった。
もっと、力強く抱き締めて、ローズ。」
強く抱き締めた。
暫く、そのまま抱き締め合った。
「ありがとう。
君が居てくれて良かった。
君にも背負わせる。
ごめんね。
平和的な遣り方で終わらせられない。
僕の不甲斐なさだ。」
久しぶりの弱音だ。
「貴方と共に生きると決めた時から
共に堕ちるなら堕ちると覚悟したの。
それに、サイラスは私の家族でもあるのよ。
可愛い義弟に先に仕掛けたのは向こうだわ。
きっちりと、お返ししなきゃ。
向こうは失敗したけど、こっちは失敗しないものね。」
そう言って笑うと
「何でもないって風に言うのは僕の為だろう?
君は、優しいね。
ローズ。割り切れなくなったら
ちゃんと言うんだよ。
時には、僕を非難するんだ。
分かったね。」
真剣な顔で、ウィルが言う。
「分かってる。
けどね、私はウィルを愛しちゃってるの。
どうしようもなくね。
私の行動原理は、全て貴方が起点なの。
それが、私の幸せよ。
私が貴方の想いを叶えたい。
だから、貴方は私を愛してくれればそれでいい。」
ウィルは、無言のまま私の唇を奪った。
とても優しいキスだった。
唇を離して、優しく私を見つめ
「絶え間なく愛を贈るよ。
全て僕が起点ってのは言い過ぎだと思うけど
そう言う事にしておくね。」
確かに、盛った。
てへっと笑って誤魔化す。
そして、ウィルはベルナルドを呼ぶ。
「悪い。小曽泥みたいな事させるけど
ここの屋敷の資金の場所の確認と拝借してきてくれるか?
資金源は、有り難く頂こう。
あと、10人くらい。火属性持ちの手練れを揃えといて。
一発で消し飛ばす。」
そう言いながらメモを書いて渡す。
細かい詳細も聞かずに、メモを手に取り消えて行くベルナルド。
「ローズは、明日の結婚式に向けての準備をお願い。
これから、父上の所とノアの所に行ってくる。
遅くならずに帰るから、夕飯は一緒に食べるよ。」
抱き寄せられ、軽くキスすると
転移して行った。
事前準備は、私は用無しね。と思ったが
ウィルの優しさなのだろう。
兄と義姉の結婚式は、神殿での式と
自宅での披露宴パーティーだ。
サプライズに、披露宴パーティー中に寝室の飾り付けをする事になっている。
そこにセッテングするものを、こっちで用意して
バレないようにしなくてはならない。
その準備をしなくてはならないのだ。
勿論、セクシーなナイトウエアとかキャンドルとかロマンチックに揃えなくては。
ベルナルドが使えないから
エリと頑張って揃えよう。
気合いを入れ直し、エリの元へ向かう。
「エリ〜。
ベルナルドの代わりに手伝って〜。
街に出るわよ。
支度して。
子供達も一緒に行くわよ。
リク〜
カイ〜
クウ〜
着替えて〜。」
慌ただしく、準備を整え街に繰り出すのだった。




