71 サイラスの苦悩
ある日、サイラスに城へ呼び出されていた。
サイラスのプライベートルーム
ちょっとした軽食も用意されていた。
メイド達が退室した後
「呼び出して、悪い。
俺が、望む未来の国の事だ。
俺が目指すところに、王や貴族の様な奴は必要だと思うか?
根本から何もかも違う気がするんだ。
全てが歯痒い。」
サイラスの言いたい事は分かる。
サイラスが目指すのは民主主義国家なのだ。
民主主義だから、理想に近付ける訳でも無いが。
リーダーが変わるだけの様な気もするし。
王家で育ちながら、自分の利益や欲では無く
民を思える彼は素晴らしいと思う。
前世の記憶を頼りに歴史を見ても
民達が革命を起こすのだ、王みずから革命を起こすなんてあっただろうか?
どちらにしろ、一昼夜でやれる事では無い。
「サイラス。
また、真面目に考え過ぎだな。
国を変えるのは時間が掛かると言ったな。
今までの当たり前を変えるのは骨が折れるし
痛みを伴うだろう。
今、急いでどうなると思う?
貴族達からの反発が巨大化して
オマエの命は無いかもな。
どんな国にも、まとめ役となるトップは必要だ。
カリスマ、導き手が必要なんだ。
それで無くては無法地帯だ。
この国の国王政権は、独裁国家では無い。
この国の領土の7割を王が所有し
残りの3割を宮廷貴族が所有してる。
7割にまで領土を取り戻して、宮廷貴族の割合を3割に削ったからだ。
それは分かるな?
平民は、その領土に住まわせて貰ってると言う構図なんだ。
国とは、王と宮廷貴族の土地なんだ。
それ以外の貴族達は、王からのご褒美として領土を任せられた形になる。
初代の王が、力で国の領土を自分の物にした。
成り立ちの物語は、お伽噺のように綺麗な物語だが、初代は結局は独裁だったのだよ。
理想の為に、冷酷に手に入れたんだ。
そして、今現在。
父上は平安の為に動いてきたし動いてる。
父上の遣り方でだ。
まだまだ、手緩いかも知れないし
時には、汚い遣り方もしてきた。
王が民を思う国づくりは素晴らしいが
常に苦悩が付き纏う。
王になる前から、弱音を吐くな。
青臭い理想郷でもいい。
けど、急がず騒がずだ。
オマエは、せっかち過ぎだ。
何の為の、僕なんだい?
宮廷貴族達の力を削ぐ為に動いてる。
領土を任されたのに自分の至福を肥やす事しかしてない奴らもだ。
サイラスが居れば、王家が力を独占しないだろ?
それに神殿を王の管轄にしてる訳は
宗教に力を持たせない為だ。
王家が、民に還元するシステム作りが
オマエの仕事だよ。
影から流れを変えるのが僕の仕事だ。
国王の呼び名なんて
ただの名なんだ。
富が集まる場所は必ず出てくる。
その富を溜め込まず流す事が重要なんだ。
分かるよな?
変えるのが一番大変なのが、人の概念なんだ。
今まで当たり前としてきた概念を覆すことは
一筋縄ではいかないんだよ。
オマエは、知らないかもしれないが
父上が契約してる女神が言ってたぞ。
国王になったから契約するのでは無い。
女神が認めたから国王になれるのだと。
その意味が分かるな。
この国は女神に愛されし国なんだ。
初代国王が夢みた理想を成そうとする者が
この国を任せられるんだ。
サイラスが王になるのを楽しみにされていた。
オマエが目指す国を諦めるな。
そして急いで壊すな。」
ウィルの話を聞き
サイラスは、静かに視線を落としたまま沈黙した。
静寂が広がる。
耐えかねた様にウィルが
「サイラス」と名を呼ぶ。
「ノアにも、何をそんなに急ぐと嗜められてる。
すまない。
分かってるんだ。
けど、俺は自信が無いんだ。
理想ばかりで、兄上が結局は動いてくれるし
俺は、兄上には勝てなくて。
直ぐに結果が欲しくなる。
自信が無いのを誤魔化したい。
尊敬してた兄上を差し置いて王になる覚悟が
欲しかったのかも知れない。」
今日のサイラスは素直だ。
不安に押し潰されそうなのかもしれない。
そんなサイラスを見てウィルは
「もっと自分に自信を持って良い。
女神が認めてるんだよ。楽しみだってね。
僕を尊敬なんてしなくていいんだ。
オマエは僕よりも良い王になれるよ。
自分の理想の国を描けるんだから。
僕は、父上の理想を受け継ぐ事しか出来なかった。
それに、今の僕は
民の為に動いてる訳では無い。
サイラスの為だ。
本当は、自分の大切な人を守れれば
他の民など、どうなっても良い。
国を守る事が、大切な者を守る事に繋がるだけなんだよ。
そんな奴なんだ僕は。
サイラスは、僕を過大評価し過ぎだよ。」
そう言って微笑む。
何とも言えない顔のサイラスが
「民なんて、どうでもいい。なんてな
兄上の口から出るとは思わなかった。」
苦笑するサイラス。
話題を変える様に私は言う。
「さっ、お茶は冷めちゃったし小腹が空いたわ。
温かい紅茶を入れ直すから、食べましょう。
せっかく用意してあるのに勿体無いもの。
サイラス。貴方、最近ちゃんと寝てるの?
酷い顔してるわよ。
ハーブティーの方が良いかしら?
アリーが心配するわよ。
そう言えば、アリーは王妃教育で疲れて無いかしら?」
コイツは、空気読めよって顔しながら
「アリアナは、行き来が大変だろうから
城に部屋を用意したし、母上が教育と言う名で
仲良くやってくれてる。
大丈夫だ。
それより、義姉さんは御元気で何よりですね。
悩みも無さそうで良かったですよ。」
なんか棘ありまくりだわ。
「あら?
サイラスも嫌味が上手くなったのね?
ノア様のお陰かしら?
本当に可愛く無いですわね。」
と、私が微笑むと
「ちっ。
ローズマリー。
オマエはムカつくな。
兄上と一緒に来なくても良かったんだぞ。
次から来るな。」
苛立ちながらサイラスが言う。
「あらあら。
妬き持ちですの?
ウィルに甘えたかったのに私が邪魔だと?
申し訳無いけど、ウィルは私の旦那様なのよ。
いくら弟だとは言え、困りますわ。
私は、少しでも旦那様と一緒に居たいのですの。
ごめんなさいね。」
意地悪く言う私にサイラスはムッとする。
それを見てたウィルが笑い出す。
「僕の取り合いかい?嬉しいな〜。
2人共、大事だから困ったな。
嬉しい苦悩だね。
僕としては、毎度のこと取り合って欲しいけど。」
ウィルが、楽しんでいる。
私とサイラスは顔を見合わせて
苦笑いする。
「ローズマリー。
悪いけどハーブティーにしてくれるか?
最近、眠りが浅かったんだ。
自分の顔さえ見る余裕がなかった。
そんな、酷い顔してるか俺?」
バツの悪そうにサイラスが聞いてくる。
ハーブティーを、入れながら
「酷い顔ですよ。
すごく良い香りだわ〜
ブレンドのハーブみたいね。
さっ
これでも、飲んで。
無理すると、ウィルも心配しちゃうのよ。
サイラスには元気でいて貰わなきゃ。」
サイラスが、ハーブティーを飲むのを確認してから、さりげなくヒールの魔法をかけた。
成人してるとはいえ、まだ19歳なのだ。
誕生日がきて、やっと20歳だ。
国を背負う心持ちなんて
揺らぎと苦悩しか無いはずだ。
しかも正解などない。
皆んな平等など有り得ない。
全ての者が求めるモノなど用意出来やしない。
勝つ者が居るなら負ける者がいて当たり前で。
格差を無くす事は無理でも
格差を縮める事は出来る。
自分が目指す国が良い国に間違い無いと
思い込まなければ、進めないのだ。
少しの迷いが、全てを揺るがす。
正解か不正解かでは無いのだ。
自分の理想が正解だと決める覚悟なのだ。
まだ人生は長い。
迷いながら、進めば良いと思う。
その為に家族がいる。
一緒に迷い、一緒に考え、一緒に打開策を考え
共に、覚悟を支える。
「サイラス。
一人で、抱え込むなよ。
僕たちは、僕たちの遣り方でやって行こう。
ちゃんと、協力して支え合いながら進もう。
迷ったり焦ったりしたら素直に吐き出していい。
一人で我慢しなくていいよ。
素直じゃ無いからなオマエは。
僕には甘えていいよ。
僕はローズに甘えてるし。
誰でも甘えられる場所は必要だ。
サイラスは、惚れた女の前で
カッコ悪い自分は出せそうにないもんな。
仕方ないから僕が甘やかしてやるよ。」
ウィルが、楽しそうにサイラスに言う。
すると
「兄上。
なんか楽しんでませんか?
揶揄われてる様で、なんか嫌です。
ローズマリーの影響なのか
兄上は変わり過ぎです。
昔は、そんなんじゃ無かったのに。
急に甘やかしてくるなんて気持ち悪い。」
本当に嫌そうにサイラスが顔を顰める。
そんなサイラスにウィルは「酷いな」と言って
サイラスに抱き付いた。
「辞めろ」と言いながら嬉しそうに見えるサイラスがいた。
二人の仲が微笑ましくて
私も、たまには兄と兄妹の交流しようかな?と
思ったりするのだった。




