65 光と闇
ウィルはサイラスの執務室に来ていた。
サイラスとノアに向かい合い、今後の国の在り方を示せと淡々と言葉を紡いだ。
サイラスは考えて答える。
「前にも言いました。
皆が、夢を描ける国にしたいと。
陳述書を毎日の様に読んでいたら
やはり、国の意向を領主で止めてしまってると分かるよ。
予算の分配が下まで回らない。
こんなんで、民は夢を描けるはずもない。
上手く回してる領土もあるが、全てでは無い。
商会も、そうだ。
一部の商人だけが利益を独占する。
小さな商店は利益が少ない。
普通の平民が苦水を飲まされて
貴族が、その財力を広くバラ撒かない。
きっと、何もかもがおかしいんだ。
何から手を付ければ良い。
それさえ分からないままだ。
兄上。
俺は賢く無いらしい。」
肩を落とすサイラスに、ウィルは微笑み言葉を返す。
「サイラス。
言葉使いが、綺麗になったな。
ノアのおかげかな?
オマエが描く国は分かった。
そんなに急には変えられない。
焦らなくていい。
どんな理想も、実現する為には時間が掛かるものだ。
それに、まだオマエは王では無いしな。
王太子として出来る事をしなさい。
僕が影から出来る事をする。
サイラスは本来、優しい子だ。
戦闘になれば冷酷な癖に、国の為になると途端に優しさが出るのだな。
冷酷な仕事はノアに投げろ。
その為の、側近だ。
オマエの描く理想の為に
学園の在り方も変えなくてはな。
未来を描くのは子供の時にするものだ。
子供時代に諦めたら、もう夢なんて描けはしないからな。
サイラス。
今は目の前の仕事だけ、オマエなりの正義でこなせ。
そう言えば、アリアナ嬢と良い感じらしいね。
そろそろ婚約でも申し込めば良いじゃないか?
アリアナ嬢も早めに王妃教育をしたいんじゃないのかい?」
ウィルの、その言葉にノアがヤレヤレと肩を竦め
サイラスは、顔を赤らめた。
「兄上。
なぜ、それを?
アリアナ嬢の気持ちを聞かねば…
俺から言ったら強要してるみたいだし
だから…なんと言うか…。」
しどろもどろになって行く言葉を遮りウィルが言う。
「まったく、アリアナ嬢に伝える時も
そんなカッコ悪く言うつもりかい?
男らしく、好きだと言えば良いだけだろう。
誰に似たんだろうね?
照れると怒るし
恥ずかしいと黙る。
情け無い。
サイラス、いい加減に直しなよ。
その性格。
可愛いけど、アリアナ嬢に嫌われるよ。」
呆れた顔で言うウィルにサイラスが
「うっせ〜ぞ。
俺だって、ちゃんとカッコ良くやれる!
バカにすんなっ!」
思わず素が出たサイラスにノアが怖い顔で注意する。
「サイラスっ!言葉使いっ。
何度、言えば分かるのです。
普段から、感情的になるなと申してますよ。
腹立たしくとも、一呼吸してから言葉を選びなさいと。」
神経質な顔で眼鏡を上げる。
ノア・アンダーソン。
長い黒髪を束ね、眼鏡のレンズの奥の濃い紫の瞳が鋭く光る。
頭脳明晰で計算高く神経質な彼は遊び心は皆無だが、時折 優しさは見せる。
最強のツンデレかも知れない。
そんな彼にウィルが
「おい、ノア。
サイラスに厳しいのも、程々にね。
僕と違って傷付きやすい繊細さんなんだからね。
もう少し、優しく扱ってね。
僕の可愛い弟なんだから。
あんまり、酷いと
面倒くさい仕事を全部、押し付けるからね?」
そう笑顔で、それでいて目は笑ってないウィルがノアを諭す。
「ウィリアム様は、何を申しても響きませんでしたので。
サイラスは素直に吸収して下さるので優秀で御座いますよ。
厳しいのは愛があるからで御座いますので悪しからず。」
ノアも笑顔で答える。それは楽しそうに。
「兄上。
そろそろ帰ってくれ。
用は済んだのだろう?
そろそろ、アリアナと茶の約束の時間だ。」
兄より、好きな女が優先だと言わんばかりの態度にウィルは少し寂しさを覚えるが
渋々、分かったと伝えて部屋を出た。
そして、そのまま王の元へ向かう。
「父上。ちょっと宜しいですか?」
ドアをノックしながら声を掛ける。
すると、扉が開く。
ノアの父親の宰相アレッサンドが「どうぞ」と促す。
書類に目を向ける父の机を挟んで目の前に立ち
「父上。
最終手段に出たのですね。
どう、処理を?
僕は、父上の仕事は手伝いませんよ。
僕は僕のやり方で、サイラスが望む国の為に動く。
それは、今からですよ。
これからは、指図は聞かない。
息子に受け継ぐ為に頑張ってると言うなら
黙認して下さいますよね?」
そう問うウィルに王は書類に目を通しながら
「好きにしろ」
一言だけ告げた。
その言葉を聞いたウィルは深く礼をし
新居に転移したのだった。
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屋敷を後にし、新居に戻ると
まだ、ウィルが帰って無かったのでサロンで紅茶を飲む事にした。
日が燦々と注ぐ部屋は、観葉植物や花が溢れていて心地良かった。
寛いでいるとウィルが帰ってきた。
サロンに入ってきたウィルに
「おかえりなさい」と言うと
「なんか、自分の家に帰ってきた〜て思えて幸せだな。
これから、ここが僕の家だね。
なんだか城とは感じ方が違うよ。
心から、落ち着く。
僕は今日から、ここに住むよ。
ローズは、式の後からでいいよ。
それまで、スペンサー家を堪能して。
あれから、君を独り占めしてたしね。
寝るだけみたいになってただろ?
生まれ育った家だ。
家族との時間を過ごしてきて。
ローズマリー・スペンサーとしてね。
ずっと一緒に居たから、寂しい気もするけど
式まで我慢するよ。」
そう言いながら、隣に座り
私の肩に頭を寄せてくるウィルに
「どうかした?」
と聞くと
「僕の変化に気付いてくれるんだね。
親離れしてきたよ。
僕は、王子から卒業だ。
これからはサイラスの影だ。
父の指図は受けない。
けどね。
やっぱり僕も一人の子供なんだね。
少し寂しさを感じるよ。
昔の僕は、どんな国を目指したんだろう?
父が示す国を守る事しか考えて無かった気がするんだ。
父の背中を追ってただけだ。
ほんと、保守的だよ。
サイラスは、皆が夢を描ける国だと言った。
僕も自由になれる事を望んでた事に気付いた。
改革しないとな。
サイラスが光なら僕は闇だ。
闇は、消せやしない。
誰の中にも存在する。
サイラスが理想を光のままで進める様に
闇も綺麗な闇にしないとな。
親に甘えてるのも終わりだ。
ローズも最後に甘えて来なさい。」
そう言い終える頃にはウィルの顔がスッキリしていた。
この世界は、いつまでも子供で居られない。
一つ一つの選択に覚悟を持っている。
前世の私だった世界は、20代でも何の覚悟も無く生きていた。
この世界へ、前世の記憶無しで生まれて居たら
私は、こんなに大人に慣れていたのだろうか?
ウィルに抱き付きながら
「これからは私が、いっぱいウィルを甘やかしてあげるからね。
ウィルは私を甘やかすのよ。」
そう言って笑った。




