58 私も立派な番犬ですわね
スペンサー侯爵家の一室。
私とウィル、父とベルナルドが顔を揃えた。
「マリー、いきなりビックリさせたな。
色々、聞きたい事もあるだろうな?」
そう父に問いかけられる。
「お父様、色々と思う事はありますが…
お父様が影だと言うことを知ってる家の者は?」
そう問うと
「それか、マリーとリュカ以外は皆、知ってる。
使用人のほとんどが番犬だ。
家に居る使用人は身内が居ない者ばかりだと知ってるだろう?
雇われたら死ぬまで、この家に仕える。
何故だと思う?番犬として育てると決めた時から死ぬまで私の分身だからだ。
そいつの、一生を負う覚悟で迎える。
使い捨てはしない。
大事な家族だからな。
ただ、家に居る番犬は護衛が主な仕事でな
裏の仕事は、ほとんどしない。
番犬は、至る所にいる。
主な仕事は情報集めだ。
何気無い噂話も把握する、何に繋がるか分からないからな。
指示が無い限り、普通に生活しながら情報だけを集めてる。
ベルナルドみたいな多才な奴は
その中でも、特別だ。
特別な奴らが、主に下を管理してる。
ハンデルンをお前たちに任せた理由の一つは収入源だ。
何かあれば金が掛かるし番犬養うのも金は掛かる。
収入源は、あればあるだけ良いだろ。
リュカだけには後で言うが、ルナ嬢には言うなよ。
俺が引退してリュカに当主を譲れば
ウィリアム。お前が影だ。
スペンサー家は影で無くなる。
だから、ルナ嬢は知らなくていい。
分かるな。」
それはそうだ。
ルナ嬢に背負わせなくていい。
「はい。それは分かります。
お母様が昔から、社交をあちこち飛び回ってるのも情報集めって事ですのね。」
領地の為の社交だと思って居たが
それだけじゃないに決まってるわね。
「そうだ。
まぁ〜適材適所だ。マリーが無理に社交しなくて良い。」
って事は、母も番犬。
そして私も番犬じゃん。
母に隠れて、何をやってもバレたのは情報集めの賜物だったのか?
「義父上。
で、引退前に僕に、どこまでやらせるのですか?
ローズには、あまり危ない事はさせたくないですけど。」
と、ウィルが言う。
「私もマリーを危なくさせる訳ないだろ。
その為に、使用人を護衛にしてたんだ。
とりあえず隠れ反王族派が居る。
あの一件でも、捉えきれなかった。
現国王の改革が気に入らない前国王派だ。
前国王の時代は汚職塗れの貴族が甘い汁をたらふく飲めた時代だ。
だから、あんな国同士の摩擦が出来た。
負の遺産だよ。
自分が王である内に排除する。が現国王が王位を継いだ時から言ってる言葉だ。
なかなか尻尾を出さない。
強かな奴らだ。
仕方ないから、商会を潰して資金源を絶ってやろうかと思ってな。
仕掛けてくるかもしれないから
捕まえやすい。
正当な方法がそれだ。
最終的には、不慮の事故に見せかけた暗殺か。
時と場合で臨機応変だ。
嫌な仕事だ。
でも、誰かはやらなきゃならない。
裏でコッソリな。
これは、私の仕事だ。
ウィリアムは、何かあった時まで何もしなくて良い。
王を心から守りたいと思わなきゃ出来ない仕事だ
ウィリアムを選んだのはサイラスを1番想ってるのがウィリアム、お前だからだ。
私から言えるのは
国の未来は王が決める。
影は、王が望む未来の為に動く。
サイラスが国を壊したいと言ったら壊せ。
国王が作ってきた今の国が
サイラスの望む国と違うなら迷わず壊せ。
それが番犬の総意だ。
あと、今の番犬を引き継ぐのもいいが
そろそろ年配者が多くなる。
自分の番犬は自分で育てろ。
ベルナルドに拾ってきてもらえ。
それとも、自分で見つけるか?
それも自分で決めろ。
ルールはない。
私のやり方を全て取り入れろなんて言わない。
自分のやり方で、影で支えろ。
どれだけ手を汚すかはサイラス次第だ。
ウィリアムが本格的に動くのはサイラスが危なくなった時、そして王になったらだ。」
ウィルは、溜息をつきながら
「義父上、ベルナルドは今から貰って良いですか?
あとは、父上が引退するまでに自分で決めます。
あと、家の使用人にエリアーナとアンをローズの為に引き取りたい。
アンは旦那と子供が居ると聞いてるがどうだろう?」
それに対し父は
「ベルナルド、持ってくの?
途中まで共有で良いかな?
今、居なくなるのはキツイぞ。
それとエリアーナは最初からマリーの持ち物だ。
アンか、本人の意思で決めさせていいか?」
ベルナルドはやっぱり優秀ですもんね。
離したくないわよね〜。
「もちろん、アンの意見を聞いて。
私も無理に連れてく気はないの。」
私が言うと、続けてウィルが
「ベルナルドの共有はいいですよ。
ベルナルド。お前の意見は?」
ベルナルドが答える。
「ハンデルンの時に、坊ちゃんとお嬢さんの仕事ぶりは確認してる。
あの時から、俺はアンタに従うと決めてるぜ。
でも、人気者の俺は離してくれないみたいだから
悪いが、少しの間は共有だ。
でも、指示はこなすよ。主様。」
この人は、本当に掴みどころの無い人だ。
「だ、そうだ。
アンの事は、後日伝える。
で、家を建てるとか。
費用は国王と私と半々で出す。
結婚祝いだ。
どうせ、ベルナルド頼りなんだろ?
家の方の事は早く終わらせる。
チンタラしてたらウィリアムが怖いからな。
使用人も、とりあえずは
ベルナルドに揃えさせる。
ウィリアム、ローズマリー。
2人には嫌な役回りさせるな。
せめてもの罪滅ぼしだ。
影が手を汚す事のない世の中にしたいもんだ。」
まさか、お父様もウィルと私が
その役割を負うとは思ってなかったのだろう。
「分かりました。
家の事は、お言葉に甘えます。
ベルナルド、早急に取り掛かれよ。
式の前までに終わらなかったら
殺すからな。」
ウィルが怖いこと言うとベルナルドは
「はいはい。
仰せのままに。」
と涼しい顔して答える。
その後、ベルナルドに家のイメージを伝えたりして解散した。
庭の東屋で、お茶をする事にする。
アンに、セッティングしてもらい
ウィルと2人で寛ぐ。
「ウィル。今の気持ちは?」
唐突に私が聞けば
「気持ちねぇ〜。
国ってなんなんだろうね。
確かに、王の理想は
その時代その時代で変わるんだろう。
その度に振り回されるのは民だ。
きっと父上は良い王なのだろうね。
サイラスは、どんな国を描くのかな?
僕は、サイラスの為に動くけど
サイラスが国を壊せと言う時
君が、嫌だと言うなら壊さないよ。
君の想いが僕の総意だ。
忘れないで、君が嫌なら僕を止めて。」
そう言うと、目を閉じて天を仰いだ。
その姿をただ見つめていた。
暫くすると
「気持ちいいね。
こんな、穏やかな時間が続けばいいのに。
暫く、学園の引き継ぎなんかが続く。
ローズも一緒に手伝ってくれる?
合間に、式の衣装を決めよう。
もう、1日だって離れたくない。
早く、家が出来ればいいのに。」
急に甘え出した。
まだ目を閉じて天を仰いだままのウィルに
近付き、包み込む様に抱き締めた。
「ねぇ〜ローズ。
なんか言ってよ。
さっきから、僕ばっかり話してる。」
なんか言って欲しいのか。
「だって、気持ちを聞いたのに…。
なんとも言えない気持ちなんだよね。
意地悪な質問したよね。
ごめん。
私が、一緒に背負うから
もしも、手を汚すなら一緒に汚そう。
誰かに指示してやらせるなら
一緒に指示する。
一人で抱えないでいいよ。
堕ちるなら一緒に堕ちよう。」
私が話すと
「そう言ってくれると思って甘えた。
ズルい男だな。
ローズ。君の居ない人生が描けないんだ。
今の僕は君との人生しか描けない。
君に、こんな重荷を背負わせて
精霊王に殺されるかな?
魂って、どう曇るの?」
そんな事、気にしてるんだ。
馬鹿ね…。
「甘えたら良いじゃない。
またガロの事?魂の輝きが曇るのは
何をしたかじゃないのよ。
私が私を責めたり、後悔したりする事が
魂の輝きを曇らせるのよ。
私が望み、私が納得してるなら魂の輝きはそのままよ。
それに、ガロにウィルは殺させない。
と言うか、殺さないのよ。
私が哀しむから殺さない。
もし、殺したら私は魂の輝きを消すもの。」
そう言う私を見上げて立ち上がる。
黙って手を掴まれて転移した。
ウィルの部屋だった。
そのまま、ベットに倒されて
上から見下ろすウィルに
「我慢出来ない」と言われた。




