30 新たなる希望(ウィリアム視点)
ローズマリー。
僕の友人であるリュカの妹。
とても不思議な女の子だ。
幼い頃から、どこか子供らしくないのに
どこまでも奔放な子供。
会えば、当たり障りなく楽しい時間を過ごすけど
他の女性のような視線で、態度で接してこない。
距離のある存在だった気がする。
そんな彼女と、こうして本音で話すのは
途轍もなく不思議な時間だ。
これまで、僕に興味が無いと思ってたのに
こんなにも僕を見てたのかと思った。
王という資質が欠けているのさえ
彼女には見破られていたのかと。
確かに、僕は理想論ばかりだった気がする。
たった一人と、その他大勢。
どちらも救うなんて本気で言ってた。
たった一人を救えないなら、国なんて守れないなんて理想ばかり思い描き
本当に、何も分かってなかったと思う。
例えば、有事の際、全ての人が救えるのか?
そんなの無理だ。
より多くの命を守る選択をするべきなんだ。
そんなの、僕には無理だ。
より多くの命を助ける為に
自分が助けたいと心から思う者を見捨てるなんて
とても、出来ないんだ。
覚悟が足りない。
彼女の言う通りで
何も言えなくなってしまった。
暫くの沈黙が続く。
ローズマリーも、沈黙を破らない。
だけど、その沈黙が不思議と心地良かった。
「ローズマリー。
君が思う通りの人物だよ、僕は。
王位継承権を継ぐ者として
それが当たり前で
国を守るとは、国王とはって事を
ちゃんと分かって無かったんだよね。
王になる為の教育は受けていても
知識だけで、本当の意味で覚悟は無かったのだと思うよ。
それに、優しいんじゃないんだ。
あの一件で自分を少し理解したよ。
僕の本心は、国の為より
自分が大事だと思うモノを守りたい。
それが国の為にはならなくても…
ココだけの秘密だよ。」
そう言う僕に
ローズマリーは、クスクスと笑う。
「そうですわね。
問題発言ですものね。
秘密に致します。
きっと、誰もが思う本心じゃないですか?
自分の想いや願望を叶える為には
他の誰かがどうなろうと…
そんな思いを誰しも心に秘めてますわ。
それを理性で抑えて、自分の立場に適した自分を演じてるので御座います。
まぁ〜、欲望のままに行動する者もいますけどね。
ウィリアム様は
そんな思いを踏まえて、これからの事を
もう描いてるのではありませんの?」
そう問われた。
お見通しって事か。
確かに、僕は自分の立場で出来る範囲の
これからの希望する道がある。
「そうだね。
以前、川の氾濫で大きなダメージを負った町があったのは知ってるかい?
小さな町だが、未だに町の民は貧困に喘いでる。
復興が進まないんだ。
人々が、食べるだけで精一杯。
国に税を献上するなど出来る訳も無いのだ。
元々、その地を治めていた男爵は廃嫡したよ。
それ以来、税の免除などの対策をしながら
王の管轄になってる町だが、川に防波堤を作ったりインフラ復旧は進んでるが
町の民の1人1人の生活の方はね…。
父上も頭を悩ませててね。
王位継承権を辞退して、
適当な爵位を貰って、その領地運営をしたいと思ってるんだよ。
利益になる農作業に畜産業の立て直し
その他、何か考えなくてはならないし
問題は山積みだ。他の貴族がやりたがらないのは無理もない話だ。
その分、やり甲斐はあると思うんだ。
また、理想論だと言われそうだけどね。
でも、それが僕だ。」
そう語った僕にローズマリーは微笑みながら
「ウィリアム様らしいと思いますわよ。
理想でも良いではありませんか。
そんな人も居なければ、国は発展しません。
国王は、国王の在り方があって
それを支える貴族は、色んな考えを持って居なければなりません。
切り捨ててばかりでは、ただの独裁国家ですわよ」
そう言う彼女を見つめながら
僕は、初めて
女性と、同じ目線で共に歩みたいと思った。
女性とは、守る対象だと思っていた。
今まで、好意を抱く相手は僕が守りたいと思っていた。
だけど、ローズマリーは違う。
この想いは何なのか?
尊敬なのか。
友愛なのか。
それとも…。
ウィリアムは、自分に初めて芽生えた想いが
何なのか戸惑うのだった。




