29 王政権と貴族社会
鐘の塔は、長い長い螺旋階段の先に
鐘がぶら下がり、ちょっとした展望台みたいになっている。
一度も立ち入った事がない場所なので
転移は使えない。
登るのか〜と泣きそうになったが
気合いを入れて登り始めた。
やっと階段の終わりが見えてきた。
護衛らしき人影が見えるから、ウィリアムが居るのだろう。
ここまで、登り誰も居なかったら
ほんと、立ち直れない気がしてたから素直に嬉しくなる。
登り切り、護衛の騎士に挨拶して
座って王都を見渡しているウィリアムに声を掛けた。
「お久しぶりです。ウィリアム様。
御見舞いが遅れてしまって申し訳ありません。」
カーテシーをしながら、挨拶をする。
「久しいな。
堅苦しい挨拶は、いらないよ。
階段登って疲れただろ?ココに座れば」
そう言って、自分の横に促してくるウィリアム。
言われたまま横に腰掛けると
「こうして、何も考えずに風景を楽しむなんて
初めてかも知れないなと思ってた。
ちょっと前まで、王家の為とか国の為とか
そんな事ばっかり考えてたし
あれこれと忙しくしてたな〜とか思ったり。」
淡々と話始めたウィリアムの話を
ただ、黙って聞いた。
「僕はさ、生まれた時から
なんの疑問も持たず、ただ王子だった。
他の選択肢なんてないし
それが当たり前で
嫌だとか疑問なんて考えた事も無かったよ。
それがさ、彼女 エリアーナと出会って
いくら魅了で偽りだとしてもさ
一緒に過ごして、平民であるエリアーナが
王子は大変ですね。とか
自由が無いなんておかしい。とか
もっと、本当の自分で良い。とか…
そんな言葉に、初めて自分の本心は
別な所にあるのかと考える様になったんだ。
僕は、自由に恋をしたのかも知れないね。
エリアーナに恋をしてた訳じゃなく
自由に恋して
自由を奪われたくないって…
エリアーナが僕に取っての
自由の象徴だった気がするんだ。」
そう言うと、ウィリアムは黙り込んだ。
「ウィリアム様は、今も自由を求めてますの?
この国に、本当の意味での自由なんてあるのでしょうか?
王家、王族、貴族。
確かに、権力や財力はある。
贅沢と言う意味で自由ですが
この国を豊かにする守ると言う立場からみたら
自由ではありませんよね。
平民もそうです。
権力や財力は無い、上流階級の人から虐げられ
自由なんてないでしょう。
でも、ある意味で自由です。
自分で仕事をある程度、決められますし
魔法力が高ければ実力で高みを目指す事もできる。
全てが自由とはいきませんが
立場が違えど、自由になる部分はあるのですよ。
ウィリアム様が求める自由とは何ですの?」
そう私は問いかけた。
暫く考え込んだ様子のウィリアムだったが
「ローズマリー。
君は、本当に年下なのかい?
いつも、思ってたんだ。
君は、物事を本当に丁寧に見ているよね。
あらゆる角度で見て、あらゆる可能性を探る。
君は、男性に生まれた方が良かったんじゃないか?」
そう言ってクスクス笑ってから続けた。
「ローズマリー。
僕にも、分からないんだ。
王家に生まれてしまったのは変えようがない。
王位継承は辞退出来るが、
やはり王家の為、国の為に生きると言う事も変えられない。
今、僕が選べる自由なんて王位継承権の辞退だけだと思うんだ。
エリアーナを自由だと思ってたと言うことは
平民の考え方にあると思うんだ。
自由な考えとか発想とか。
でもさ、王子として生きてきて
今更、平民の様に生きていける訳がないと
僕だって分かるよ。
何も出来ないんだ、僕は。
使用人が全てしてくれる。
頼めば、何でも出てくる。
恵まれすぎな、環境で今まで生きてきて
全てを自分でやる平民になれないよ。
中途半端な理想だよね。
僕の自由への憧れは。
この城は、大きな檻だよ。
だけど、贅沢な檻だ。
今更、貧しくはなれない。
自由だとしても。」
苦笑いしながら
でも、どこか吹っ切れた様なウィリアムが
そこには居た。
「ウィリアム様。
そうですわね。王族も貴族も、
ある意味では、国の奴隷かも知れませんわね。
その代わり、贅沢が出来る。
私も、そうですね。
一度、貴族の生活をしたら平民には慣れません。
今日、食べる物にも困るなんて事もあるでしょうし…。
だからこそ、王族も貴族も
自分が平民になったら、これは大変だとか
困るとか、そんな目線で政務や領地運営しなくては成りませんのよね。
でも。
ウィリアム様。
責任は大きいですけど、
自由とは自分で作るものですわよ。
やる時はやる。
あとは自分が思う自由時間を楽しめば宜しいのでは有りませんか?」
「君は、前向きで良いな」
と言いながらウィリアムは笑う。
先程、第二王子にあった事を伝え、
私が思っている事を話した。
「私、前から実は思ってた事があって
次期国王はサイラス様の方が向いてると思うのですよね。
一件、ウィリアム様の方が優秀ですし賢いですから国王にと言う声が上がるのは妥当ですが
ウィリアム様は優し過ぎなのです。
その点、サイラス様は筋肉馬鹿で戦闘系です。
ちょっと賢さに欠けますし社交も苦手。
だけど、心の強さが有ります。
一人一人を見てません。
全体で物事を見てます。
だから一人の者に優しくしたりしませんし
誰かに頼めるなら頼んでしまいます。
大きな意味では愛情深い人だと思いますが
案外、冷たく冷酷な部分を持ってます。
戦闘系だからですかね。
切り捨てる事に躊躇はありませんよね。
躊躇したら負けますからね。
私、思うんですよ。
王とは、国全体を見通す人で
例えば、目の前に困った人がいて
ウィリアム様だったら助けるでしょう。
けど、困ってる人は他にも居ます。
王とは、一人一人助ける事はしません。
時には、見捨てる事もするでしょう。
その分、一人でも多くの人々が困らない様に
国を動かせる人だと思います。
躊躇なく冷酷な決断をするという事をやる
そんなウィリアム様を、私は想像できないんですよね。
違いますか?」
そう問う私に
驚いた顔で、私を見つめていたウィリアム様は
暫く、黙り込んで
王都を眺めていた。




