26 この世界の人間として生きる覚悟
目覚めたのは、明け方だった。
まだ薄暗く、シンと鎮まりきった寝室。
外では、微かに鳥の囀りが聞こえた。
サイドテーブルに置かれた水差しからグラスに水を注ぐ。
やたら喉が渇き、あっという間に飲み干した。
ふとソファーに視線をやると、小さな狼姿で寝ているガロがいて
なんだか安心した。
なんと、説明したらいいのか言葉が上手く見つからないが
精神世界の旅をしてた間
私は、普通より柔軟だった気がして
考えが寛大みたいな何とも言えない感覚だった。
とにかく不思議な感覚だ。
ガロに視線を向けながら、そんな事を考えていると
ガロが捲りと起き出した。
人型に戻りながら問いかけてくる
『起きたのか。早かったな。
気分は、どうだ。』
少し身体の感覚を意識してから
「とってもスッキリしてるわ。
いつもより、気分が良いみたい。」
そう言うと
『そうか。
多次元の中で、オマエの意識が広がったのかもな
いっときかも知れないが、枠にハマった思考が外れてるんだろう。
現実を生きてれば、枠や型に嵌るものだ。
相反する矛盾に苦悩したりな。
アイツら2人の精神世界に触れて
自分と他人の自我の境界線が曖昧になった
だからこそ、広がったみたいな感じだな。
今の、オマエなら
この話しを何となく理解できるだろ?』
何となく理解出来た。
不思議な感覚を言葉にしたら、そんな感じなのだろう。
相反する思いとか、相反する物事や
相反する矛盾を、わざわざ悩まないとでも言うのか…
何か、言葉にすると良く分からなくなっちゃうけど、おかしな感覚だ。
思考が追い付かない。
難しい顔をしていたのか
『まぁ〜、考えるだけ無駄だ。
何となく分かっていればそれでいい。
俺の本来の居場所は、そんな空間だ。
この世界に、人間と長く居ると、その感覚が薄れていく。
俺でさえ、そうなのだ。
オマエも、その感覚が直ぐに薄れる。
この世界での、オマエの自我が喜ぶ生き方をしろ。
俺も、人間の感覚を楽しむ。
前は、恐れや苦しみ不安から逃げ出したくなったが
それさえも、オマエとなら楽しめそうだ。』
確かに、この世界で人として生きるには
自分なりの定義が必要で、どうなりたいかとか
これがしたいとか…
でも、ガロの本来の居場所は
それが曖昧で、定義を必要としない
ただ自由で、ただ存在するだけ
その時、その時で自分が見たいように
感じたいように決めるだけ。
全てが自由だけど、ただ流れるだけ
そんな感じだろうか?
言葉にしようと思っても、何か違う気がしてしまう。
不思議な領域なのだ。
どちらが良いか、人それぞれになるだろうけど
ガロのいる領域の感覚で、地上を生きたら
感動とか達成感とか、感情が乏しくなりそうな気がした。
「なんか、考えたら良く分からなくなってきたけど。
喜怒哀楽の感情を、思いっきり楽しもうと思う。
なんか、感情の揺れを感じるのが人間の醍醐味だと思えるから。
なんて、今だから言える気がするけどね。
その内、この感覚が薄れたら辛い〜と嫌だ〜とか苦しい〜とか泣き言いいそうだけど…
ガロと一緒に楽しもうと思う。」
と笑顔を向けると
ガロが『楽しみだ』と笑った。
「ねぇ。ガロ。
忘れないうちに、言っておくね。
精霊と人間である、ガロと私も
私と他人も
こんなにも見ている世界が、感じてる世界が
違うなんて思ってなかったの。私
だから、思い込みや決めつけるのは
辞めたいの。
だから、いっぱい話そう。
今、どうしたいとか
今、どう思ってるとか
そんな話し。」
そう言いながら、
私は、この世界で人間として生きる覚悟を決めたのだった。
誰に決められた訳でもない。
私が決める人生を楽しみたい。
『あぁ。そうだな。』
そう言って
ガロが優しく微笑んでくれた。




