23 リュカの精神世界
仄暗い空間にプカプカ浮かぶ様にリュカは居た。
「お兄様」
語りかける様に呼びかけた。
「マリーか…
僕は、もう疲れたよ…
このまま、この闇に溶けたい」
消えいるような力ない声が聞こえた。
「ねぇ〜、お兄様。
私ね、あの日 お兄様が彼女の名前を呼びながら
泣き叫んでカッコ悪く駄々を捏ねてる姿をみて
ちょっと、ドン引きしたんだけどね
凄く、人間味を感じたの。
学園へ行く前までの、お兄様って
本当に、優しくて頼りになって人当たりが良くて
お兄様が、お母様に怒られてるのとか見た事無いし
完璧過ぎて逆に嫌味な感じだったわ。」
私が過去を思い出しながらクスクス笑ってしまう。
「マリー…
オマエ何しに来たんだ。
私に文句でも、言いに来たのか?」
呆れた声が聞こえるのに
プカプカ浮いたままだ。
「文句、言われた方が気が楽?
お兄様が、やらかした事を責めて欲しい?」
そう聞くが
何も答えなかった。
「学園内での出来事は、ちゃんと覚えてるんでしょ?
今の気持ち聞いてもいい?」
少し沈黙が続いたが
そのうち、リュカが語り出す。
「覚えてる。情報として。
ずっと頭の中にモヤがかかってる様で
今、思えば理性が効かない感じといったらいいのかな?
冷静になって思えば、あの時の私は
生まれて初めて、感情に素直だったと思う。」
そう話すと、さっきまでプカプカ浮かんでた兄が
私の隣に座っていた。
私も寄り添って座った。
「それってエリアーナさんも、ちゃんと好きだったという事?」
と聞く
「いや、彼女の事は違う気がする。
初対面の時の彼女への印象は、最悪だった。
なんと言うか…演技してると言うか
入学式で倒れた彼女をウィルが抱き抱えて運んで行くから後を追ったんだ。
保健室のベットに寝かせたら、直ぐに起きてね
なんかワザとなのかと思ったんだ。
その後は関わらないと思ってた。
どのくらい経ったか記憶が曖昧だけど
彼女の方からウィルに話しかけてきて
入学式での事でお礼がしたいと言われて…
その後の事が、思い出せないんだ。
それからだ。
彼女の事が急に愛おしく思えてきたのは。
その時、おかしいと思うべきだったな…」
哀しそうに言う兄は、綺麗な顔がそう思わせるのか消えてしまいそうに儚く見えた。
「彼女への気持ちはマヤカシって事ね。
感情に素直って言うから、ちょっと気になったの
お兄様は、真面目過ぎなのよ。
確かに嫡男だし期待もあるしね
責任があるのは分かっているわ。
でも、もう少し本心を出して欲しいわ。
せめて家族の前では素直な気持ちを出して欲しい
私なんて出し過ぎて、お母様の説教が怖いわ。」
聞いてた兄が苦笑いしている。
「なぁ〜マリー。
俺さ、本当は弱くて情けないヤツでさ。
でも、マリーが生まれて、お兄ちゃんになって
守らなきゃって思ってさ。
なのに、マリーが3歳のとき神様の加護があって精霊王まで連れて帰ってきて…
もっと、頑張らなきゃって。
周りも期待してたし、女の子からは完璧な男性像で見られてて
そうで有らなきゃなんて思ってたんだ。
本当の自分は違うのに…
俺、マリーが羨ましかった。
天才だし、自由だし。眩しかった。
そんな思いに蓋して、自分も完璧なフリして演じてただけなのかもな。」
ちょっと、びっくりした。
私が羨ましかったですって⁈
驚いた顔で
「お兄様が、私を?羨ましかった?
意外なんだけど。
だって私、ジャジャ馬令嬢なんて言われてるよ
そのせいで、お兄様に、迷惑かけてると思ってたわ。
それなのに、お兄様は優しく可愛がってくれるし
魔法だって魔術だって、お兄様は凄いわ。
私はガロがアシストしてくれてるだけよ。
剣術の腕前だってあって戦闘になったら
私は負けるわ。
お兄様の努力の賜物でしょ?
お兄様は、努力の天才だわ。
私は、神とガロが凄いだけなのよ。
弱くて情けないなんて
皆んなそうよ。」
そう言って、兄に向かって微笑む。
「ありがとう。
ここから出るのが、怖いんだ。
逃げたい…
情けないだろ」
俯いてしまった兄を抱き締めて
「情けなくていいよ。
どんな、お兄様だって良いよ。
お兄様、帰ってきてよ…
迷惑かけちゃった人や傷つけた人には
謝りに行けばいいじゃん。
私も一緒に謝るから。ねっ?
そうだ、ルナ様だって
お兄様を待ってるの。
お父様もお母様も使用人達だって心配してる。
お兄様が、カッコ悪くても情けなくても
お兄様を愛してる人が、いっぱい居るわ。
私もよ。
だから目覚めて。」
縋るように、お願いする。
「マリー、分かったよ。
でも何でルナ嬢の名前が出てくるの?」
予想外の名前を聞いた兄からの質問に
「ルナ様はね、お兄様が寝てる間に
お兄様の学園内の様子を聞きに行ったのよ。
それでね、お兄様に酷く傷つけられた事も聞いたわ。
私だったら、好きな人に暴言吐かれたりしたら立ち直れないわ。
でもね、ルナ様は言ってたわ。
それでも、お兄様を慕ってるって
お兄様の為に力になりたいって
幼い頃、お兄様と初めて会った時の話も聞いたの
ダンスレッスンを抜け出しちゃったルナ様と
一緒に謝ったんでしょ?
次は自分の番だって言ってたわよ。」
と、教えてあげた。
驚いた兄は
「あっ、あの女の子ってルナ嬢だったのか。
幼い時に、迷子の子と謝りに行ったのは覚えてたけど
ルナ嬢だとは、分かって無かった。
そんな事を覚えてたんだな。
合わせる顔ないのにな…」
と、少し申し訳ない顔で言うから
「でも、起きたら居るわよ。
ちゃんと謝るのよ。」
悪戯っ子のように笑う私に兄は
「嘘だろっ!」と叫んだ。
それまで、私達を見守っていたガロが言う。
『おいっ、終わったか?
王子のとこも行くんだ。
そろそろリュカは起きろ。』
それを聞いたお兄様が
「ウィルに俺も起きるから
一緒に罰を受けようって言って。
マリー。ウィルを頼んだよ。
それで、どう起きればいいのかな?」
と困ったように聞く兄に
ガロが手をかざす。
すると、何処からか
お父様とルナ様の声が聴こえてきた。
(リュカ様… リュカ… リュカ様…)
『ほら、呼んでる。声の方に意識を向けろ』
声の方向を見ながら兄は目を閉じた。
すると段々と姿が薄くなり消えていった。
「これで、目覚めたのね」
と私が笑顔で言うと、ガロが頷いた。
『さぁ、あとは王子だ。大丈夫か?』
私が大丈夫と答えると
エスコートされて、また次元を移動した。




