34話 大会
1週間後。
なんか縛られる俺の画像がめっちゃ伸びて、一気にフォロワーが2000人くらい増えた。
それからも誕生日にもらったものを着て投稿していたらフォロワーはどんどん増えていて、そろそろ3万人に到達しそうだ。
プレゼントは誕生日を境にかなり落ち着いた。送りたいものがある人はみんな誕生日に合わせたのかな。
不意に、ボロンとOwatterの通知音が鳴った。
俺は裏垢では通知をだいたい切っていて、服部とみーさん以外からはプッシュ通知が届かないようになっている。
そうでもしないとしょっちゅうボロンボロンいうことになるからね。
ってことは今のは......
『終わったよ!』
『お疲れ様。どうだった?』
『バッチリ!』
やはり、みーさんからのダイレクトメッセージだった。
今日は聖天冠高校の入学試験の日だったのだ。
どうやら、バッチリできたらしい。
まあもともと大丈夫だろうと思っていたが、みーさんがそこまで手応えを感じているなら、もう間違いないんだろうな。
『やったね!なら、これからはどうするの?』
『もちろん、いっぱい超乱闘する!』
おお。久しぶりにみーさんと超乱闘ができる!
『それでね、よかったらまた一緒に出かけない?』
うあ!?デートのお誘い!?
『もちろん。どこに行くの?』
『うんとね、じゃあ、超乱闘の大会とかどうかな?スノウちゃんと一緒に出てみたい!』
『おお。いいね』
超乱闘のオフ大会か!それは楽しそうだ。
よし、これから猛特訓だ。
ーーーーーーーーーー
というわけで3週間後。
今日、みーさんと超乱闘のオフ大会に出掛ける。
どうやらみーさんは聖天冠高校に無事合格していたようで、大会に向けて練習に全力を注ぎ込んだらしい。
現在、時刻は13時。俺は透明化の魔法を使いながら、待ち合わせ場所の駅に向かって高速で車道を走っている。
名付けて透明化ダッシュ。
車より速く走れるし、信号は無視して車線を飛び越えるので、実は電車で移動するより速かったりする。
そして透明化の魔法には思わぬ恩恵があった。
光を消すということで、日光による被害が軽減したのだ。
完全に消えるわけではないのは、おそらく赤外線や紫外線は消してないからかな。
あと、瞳孔だけは光を通すので、サングラスをしてないとめっちゃ痛くなる。
今度、可視光以外も消せるバージョンができないかどうかユーリアに相談しようと思う。
今言っても、『シガイセン?何ですかそれ?』って言われる気がするしね。ユーリアが知識をつけるのを待つ。
駅近くまで来たら、人が見ていないところで透明化を解き、日傘を差して、既に駅前で待っていたみーさんに後ろから近づいていく。
「わっ」
「きゃっ!?」
いたずら成功。かわいい反応だ。
「す、スノウちゃん、脅かさないでよぉ」
「ごめん、待った?」
「ううん、私も今来たとこだよ」
キターー!デート定番の挨拶!
よもやかわいい女の子とこれができる日がこようとは。
「や、やっぱりその格好なんだね」
今日はあいにくの晴れ。
俺は例のごとく、いつもの水色のパーカーのフードを深く被り、マスクと手袋と日傘、加えてサングラスという超不審者モードになっていた。
まあ、大会の会場は普通に屋内なので、そっちでは不審者モードは解除できる。
「じゃ、行こっか」
「うん」
ーーーーーーーーーー
着いた。
県内の大きめのショッピングセンターの1フロアが、超乱闘の大会の会場用にセッティングされている。
部屋中に綺麗に並べられた長机にいくつものゲーミングモニターが置いてあって、なんかゲームの大会に来たって感じ。
会場前方にあるスクリーンには超乱闘の対戦動画が映されており、そのサウンドと人々の喧騒が辺りに響いている。
既に来ていた人たちは立ち話をしていたり、席に座って対戦していたり、またそれを観戦していたりしている。
ここに猛者がいっぱい集まってるんだろうな。
でも、やはり見事に男しかいないな。
しょうがないか。男ばかりのところに女性は来にくいだろう。俺だってみーさんと一緒じゃなきゃ来ていなかった。
「うわぁ、なんか緊張してきた」
「私も少し緊張してるかも。心臓なんて止まってても生きられるのに」
「......???」
なんだか引き気味のみーさんを連れて受付に行き、参加費を払ってネームプレートをもらったら、俺たちも準備運動をすることにした。
ちなみに、受付のスタッフさんはかなりうろたえて俺とみーさんを交互に見ていた。
俺たちが出る大会は超乱闘TSF杯。
パッと見かっこいい感じがするが、略さずに言うと超乱闘・ザ・スーパーファイヤー杯。小学生男児が考えたのかな。
個人が企画して数人のボランティアのスタッフが運営する大会で、64人のダブルイリミネーション方式だから超乱闘の大会としては中くらいの規模だね。
賞金がでるわけでもないので身分証が必要なく、レベルは高いが高すぎることもない。かつ会場に窓がないので俺の体質を気にすることが全くない。
これらがこの大会を選んだ理由だ。
「に゛ゃー!勝てない!」
「ふふ、まあオフラインは得意だからね」
今は、テーブルの1つを使わせて頂きみーさんと対戦をしている。
「あの......」
「?」
対戦が終わったタイミングで誰か話しかけてきたと思ったら、地味な格好の男5人組だった。
「スノウちゃんとみーさん、ですよね?」
「はい、そうですが」
「やっぱり!」
裏垢のフォロワーさんかな。
俺たちは裏垢でよく超乱闘の対戦の募集をしているし、この界隈では割と名が知られているのだと思う。
「まさか実物に会えるなんて......もしかして、大会に出るんですか?」
「はい、2人とも出ますよ」
「おお!そうなんですね!」
俺たちを知っている人からすれば驚くだろう。
今までオフ大会に出たことなんてなかったし、今日も大会に出ると事前に告知などはしていなかったからね。
「スノウちゃんが目の前で動いてる......しかもしゃべってる......」
「スノウちゃんは実在した......」
「小さい。かわいい」
「まじで真っ白だ」
話しかけてきた男の愉快な仲間たちも後ろでそれぞれ反応をしている。
そうだ、ちょうどいいからちょっとお願いをしてみよう。
「あの、よければ、大会が始まるまで対戦して頂けませんか?みーさんと」
「ほ、本当ですか!?もちろんです!」
「え?私?」
みーさんは今までオフライン戦の練習は俺としてきたが、普通の人間の戦い方と俺の反射神経頼りの戦い方じゃだいぶ違うだろうし、大会前に普通の人と練習した方がいいと思う。
「目の前でみーさんがしゃべってる......」
「男ばかりのむさ苦しい大会の癒しだ......」
「小さい。かわいい」
「心が、浄化される」
こうして俺たちは、話しかけてきた男たちと大会開始まで対戦をして過ごした。




