29話 お披露目
そういえば俺も幻影の自分の姿を見てみたいな。
妹の部屋にお邪魔して、妹の姿見の前に立つ。
魔道具に魔力をこめると......おお、まじで生前の俺になった。
動画で見たままの服装を着ている。
ただ実際の俺の目の高さは元のままなので、生前の俺を見上げる形になっているね。
ユーリアは光魔法って言ってたし、光をいろいろ操っているのだろう。
確か、透明化の魔法の上に生前の俺の姿を再現しているんだったか。
それなら、この状態で服を脱いだらどうなるんだろう?
とりあえず裸になってみた。
今、実体の俺は裸にペンダントだけつけている状態のはずだが、鏡の中の生前の俺は普通に服を着ていて、服を脱ぐ動作をしたときにどこからともなく現れた血だらけのナプキンつきのパンツを持っている。
なんか犯罪臭がするが、俺は自分のパンツを持っているだけである。
すごいな。
俺が動けば幻影もその通りに動くし、幻影の服を腕まくりすることもできた。
まあ、この姿で出歩くつもりはない。
万が一生前の知り合いなんかに出くわしたら大変だからね。
この姿は家族と服部の前だけにしておいて、外を出歩く時は黒髪茶目になる幻影魔法を使おう。白髪よりはだいぶ目立たないはずだ。
ユーリアには頭が上がらないな。
あ、そういえばユーリアを放置してた。
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「たてぃとぅてと」
「たてぃとぅてと、ちがう!たちつてと」
「た、ち、す......?」
リビングに戻ると、ユーリアは妹に日本語を教えられているようだった。
肩を並べて座って、なかなかに微笑ましい光景である。
幻影魔法を解いて、ユーリアに話しかける。
異世界語を話す時は、男の姿じゃダメな気がするからね。
『ユーリア、完璧だわ。本当にありがとう』
『いえ、このくらいでしたらお易い御用です』
『それでなんだけど、何かお礼をできない?』
『......吸血鬼もそんなこと言うんですね』
この子の吸血鬼のイメージ悪すぎないかな?と一瞬思ったけど、俺の知り合いの吸血鬼にお礼できそうな奴なんていないしその認識で間違いないから何も言えない。
しかし、さすがにこんなどう見ても高価な魔道具をタダで作ってもらうのは気が引ける。
この宝石も高そうだしね。
『材料も魔術で作っただけなのでお礼なんていいですよ』
『えっ、この宝石も魔術で?』
『はい、炭の成分を圧縮したらできました』
ダイヤモンドやんけ!?
そんな、授業中消しカスまとめてたら出来ましたみたいなノリで作っていいものじゃなくない!?
『お願いしますお礼させてください』
『えぇ......?』
土下座である。
『うーん......でしたら、この世界の科学に興味があります。それに関する本が読みたいです』
なるほど。確かに、異世界の科学はあまり発達していないからな。
科学の本と言ったら、まずは理科の教科書だろうか?それなら俺は小中高全て取っておいてある。
理解するなら数学の知識も......いやまず日本語の知識が要るな。
だから数学の教科書と、あとは日本語の教材......国語の教科書と国語辞典、漢字辞典も必要かな?
多すぎる気がしなくもないが、とりあえず部屋から持ってきた。
『この辺が日本語、こっちが数学、こっちが科学の本よ。使わないから全部あげるわ』
『全部ですか?ありがとうございます』
あとはもっと初歩的な日本語の教材と、大学レベルの科学の本もあった方がいいかな?
まああって損はないだろうし、買っておこうかな。
『もうちょっと必要なのがあるから買ってくるわ。いつまでこっちの世界にいられるの?』
『そうですね、向こうの夜までには帰ります。家事があるので』
『それなら、この世界の料理も買ってくるから持っていくといいわ』
『それは助かります。あの後は夕飯の買い物をしようと思っていたので』
『うっ』
誘拐してすみませんでした。
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ということで、さっそく幻影魔法を使った初めてのお出かけである。
俺は黒髪茶目になり、ピエンモールの書店に来ていた。
時刻は19時過ぎ。まだたくさん人がいる時間帯だ。
俺は周りの視線を気にしながら目的の本を探している。
「......」
うん、とりあえず、俺を視界に入れた人全員から凝視されるなんてことはないようだ。これが黒髪の恩恵か。
しかし黒髪になっても美少女なのは変わりない。
現に、今すれ違っている高校生くらいの少年は俺を見た瞬間に不意を突かれたように立ち止まってそのままぽけーっと俺を見つめている。
でも、その程度だ。
前にピエンモールに来た時はそのまま付いてこられたりカメラを向けられたりしたからね。幻影魔法様様である。
この調子ならもう少し気軽に外に出かけることができそうだ。
俺は子供向けコーナーで見つけた簡単な日本語の教材と、大学の講義で使えると書いてあった科学の本を手に取った。
そうだ、せっかく書店に来たんだし漫画のコーナーでも見に行ってみようかな。
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「おぉ〜」
俺は生前から基本的にアニメかゲームばかりであまり書籍には触れてこなかったのでこういう所には来たことがなかったが、いざ来てみると、すごい。
俺の好きそうなやつがいっぱいあるし、アニメ化した作品もかなり置いてある。
これ知ってる!これおもしろそう!って見てるだけでも結構楽しいものである。
たくさんの漫画ラノベにうきうきしていると不意に視線を感じたので、なんだろうと横を見てみると、素朴な顔の少年が漫画を見てるフリをしながらチラチラとこちらを窺っていた。
まあ、どう見ても男向けの本しかないところに美少女がいたらそりゃあ気になるか。
あ、目が合った。
今日はあまり目立たないと調子に乗っていた俺は、なんか美少女ムーブがしてみたくなって少年に向けて微笑んでみた。
「......っ!?」
少年はギョッとした様子で顔を赤くした。
なんかおもしろいな。
突然、後ろから肩に手を置かれた。
なんだ?
「ねえ、君かわいいね、どこ住み?てかOwatterやってる?」
「よかったらお兄さん達と食事でもしない?」
うわっなんか金髪と赤髪の見るからにチャラそうな2人組に話しかけられた。
赤髪とか異世界かな?
夜のピエンモールでナンパとは、ご苦労なことだ。
「隣町に住んでます。Owatterやってます。食事はしません」
「へ〜いいね〜!じゃあそこのカフェでID教えてよ、奢るからさ〜」
「お兄さん達結構お金持ちなんだ〜その本も買ってあげるよ?」
えぇ。
「結構です。では帰るので失礼します」
「つれないな〜高級車乗せてあげるよ?」
と言って赤髪が腰に手を回してきた。
うわっキモ。
「ごめんなさい、私女の子が好きなんです」
「ええ〜?いいじゃんいいじゃん。お兄さんたちと遊ぼうよ」
「そんなにかわいいのに、もったいないよ〜?」
今度は金髪に手を引かれた。
うーん、どうしよっかなあ。こいつらをボコボコにするのは簡単なんだけど。
よくアニメで首の後ろチョップすると気絶するのあるけど、あれ実際やったら死ぬこともあるらしいし。
こういう時用にも何かいい魔法を教えてもらえばよかったな。
「あ、あの!嫌がってるじゃないですか!」
おや?
この場の誰でもない声が聞こえてきたと思えば、さっきこちらをチラチラと見ていた少年じゃないか。
「あ?誰?」
「今この子と話してるんだけど」
「逃げて!」
まあなんと。この少年は自分を囮にして俺を逃がすつもりらしい。殊勝なことだ。
赤金チャラーズは俺から手を離して少年にガンを飛ばしている。
「ひっ......!?」
確かに逃げられる状況だが、それじゃ助けてくれた少年があまりに不憫である。
......あ、いいことを考えた。
俺はこっそり魔法でお湯を発生させ、赤金チャラーズの股間の辺りにぶちこんだ。
「ん?なんだ?」
「濡れて......おわっ!?」
チャラーズのズボンがびっしょりと濡れ、ポタポタとお湯が垂れている。
これぞ、ぷぷぷ、漏らしてやんの作戦!
さっそく煽っていこう。
「ど、どうしました?え、漏らし......あ、いえ、だ、誰だってそういうことありますよ!」
決まった......
「な、何が起きた!?」
「ちょ、トイレいくぞ!」
そう言って赤金失禁ズは去っていった。
そうだ、助けてくれた少年に礼を言わねば。
「あの、助けてくれてありがとうございました」
「い、いえ、正直僕にも何がなんだか......」
確かに何だったんだろうね。2人同時に漏らすとは。
きっとずっと我慢してたんだろう。
「それでは、私はこれで」
「あ、あの!」
「はい?」
「よければ、名前を教えてもらってもいいですか?......あ、僕は普通沼モブ男って言います」
吹きかけた。
なんだそのモブを極めてそうな名前は。
顔が普通なら名前も普通、いや全然普通じゃないわ。普通だけど。
まあ助けようとしてくれたんだし、名前を教えて欲しいなら教えてあげよう。
あ、でも俺の名前どうしよう。考えてなかった。
「高橋雪那です」
咄嗟に本名の読み方を少し変えたものを言ってみた。こっちの方が響きが女の子っぽい。
「高橋雪那さん......ありがとうございます」
「はい。では失礼しますね」
あんまり遅くなるとユーリアに悪いので、持っていた本を購入し、店を出る。
その後はピエンモール1階のスーパーで、ユーリアの夕食用に日本のハイパーフード寿司を数人分と、妹に機嫌を直してもらうために妹の好物であるマシュマロを買った。
わさびは後でつけるタイプにしておいた。
俺は血ばかり口にしてきて異世界の食文化を知らないからね。
割り箸も貰ったけど、使ったことあるだろうか?
 




