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21話 秘密



みーさんはベッドで寝かせてから10分ほどで目を覚ました。

まだ顔色が悪い。貧血だろう。

これは悪いことをしてしまったな。



「みーさん、起きた?」


「......スノウちゃん」


「ごめんね、私が血を吸ったせいで」


「ううん、それより、どうだった?」


「おいしかったよ!さっぱりというか薄味というか、独特な風味だった」


「やっぱり、分かっちゃうんだ」


「ん?」



どういうこと?



「スノウちゃんは秘密を教えてくれたんだもん、私も教えないとだめだよね」



無言で話を聞く。



「あのね、私ね、高校1年生っていうの、嘘なんだ」


「......?」



つまり?

浪人か留年でもしてるの?

今の流れに何か関係が?



「それでね、私、あと半年も生きられないの」


「は?」



思わず素で反応してしまった。






ーーーーーーーーーー






みーさんは自分のことを話してくれた。



骨髄異形成症候群。みーさんはそういう難病に侵されているらしい。


簡単に言えば、骨髄中の遺伝子異常により正常な血液が作られなくなる病気で、血液のがんとも言われている。

赤血球などの血液細胞が異常のある状態で血液中に出されてしまい、貧血や免疫力低下など様々な症状が出るらしい。


中学3年生の時にこの病気が発覚したそう。


骨髄移植だけが唯一の治療法らしいが、みーさんは生まれつき体が弱くて、骨髄移植に耐えられる体力がなかった。

つまり、一生治ることがないということ。


病気の進行を抑える薬もあるが、延命のための薬に家族に迷惑をかけて死ぬまで高い金を払い続けるより、治療しないことを自分で決めたらしい。


ゆっくり進行していく病気らしく、余命は持って2年と言われていたそうだ。


だから、中学卒業後高校に行くのはやめて、余生を好きに生きていくことを決めた。


死ぬ前にたくさんの人の記憶に残りたいから裏垢を始め、なるべく寿命の事を考えないようにするために超乱闘をやり込んだらしい。




......



......




目眩がした。



俺はなんて軽率なことをしてしまったのだろう。


気づくべきだったんだ。


一緒に映画を見る友達がいなかったこと、映画館で席を立った時にふらついていたこと、部屋に物が少なく、通学カバンや教科書の類がなかったこと、血を飲むのは少しだけと言っていたこと。違和感を持てる要素はこんなにもあった。


血の病気の子の血を吸うだなんて、下手したら命に関わるじゃないか。

いや実際、寿命は縮んだと思う。


それなのに、俺に血を吸わせてくれた。


すごいいい子じゃないか。





責任を取らなくてはいけない。そんな気がした。



「私なら、その病気なんとか出来るかもしれない」


「え?」



俺には異世界で覚えた魔法がある。


体内の不必要な物質を取り除く解毒魔法。

怪我の回復ができる治癒魔法。

そして治癒魔法には、造血作用もある。



「でも、もしかしたらみーさんを殺してしまうかもしれない」



しかし問題はそう単純ではない。

治癒魔法は万能じゃないのだ。


自然治癒力をあげるだけなので欠損部位は治らないし、そして、がんを患っている人に使うと、がん細胞が急激に増えて、即死するのだ。


だから、先に解毒魔法をかけてがん細胞を除去してから治癒魔法をかけ、失った部分が回復すれば、治療ができる。



みーさんの病気はどうだろう。


血液のがんと言われるこの病気では先に治癒魔法をかければ即死するのはおそらく間違いないので、まず解毒魔法を使うべきだ。


みーさんの体で悪さをしている元凶は、骨髄中の一部で異常な遺伝子を持つ造血幹細胞であり、がんのように増殖して命を蝕み続けている。

解毒魔法でこれを完全に消すことができ、治癒魔法により正常な骨髄が再生されれば治すことができるが、解毒魔法が異常な骨髄を消す判定にするかも分からないし、異常な骨髄が少しでも残れば、治癒魔法により即死する可能性が高い。



そのことをみーさんに伝えた。



「お願い!その魔法をかけて!」


「本当にいいの?死んじゃうかもしれないよ」


「いつでも死んでいいように心構えはしてたから。少しでも病気が治る可能性があるなら、賭けてみたいの」



ベッドから身を乗り出して懇願するみーさん。

もう腹は決まっているらしい。



「わかった。じゃあ、家族と話してきたら?事が事だし、私のことも話していいよ」


「ううん、いいの。皆ももう心構えはできているから。それに、もし私が死んじゃったら家族がスノウちゃんに何て言うかわからないもん。これでもし死んじゃったら、スノウちゃんは私のことを忘れて普通に過ごして欲しいな」


「......っ」



この子はどこまで優しい子なのだろうか。

自分の生死がかかっている状況でこんなにも俺のことを考えてくれる。


絶対に死んで欲しくない。そう思った。



「わかった。じゃあ、完治したら、いっぱい血を吸わせてよね」


「うん、約束する」



言質は取ったよ。



「じゃあ、いくよ」


「うん」



俺は解毒魔法と治癒魔法の魔法陣を並べ、魔力を流し込んだ。



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