20話 いただきます
俺は今、女の子の部屋に連れ込まれている。
なんかいい匂いがする。
「ほら、ちゃんと見せて!」
って、えっ待って待って。服脱がされてるんだけど。
ちょ、ちょっと?もうその下ブラジャーしかない......あっ。
え、ズボンも脱がなきゃだめ?......あっ。
「どこを怪我したの?」
下着だけにされた俺の体を触りながら注意深く見ていくみーさん。
なんだこれ、恥ずかしすぎる。既にOwatterでは見られてるんだけど、女の子にされるがまま、そんなにまじまじと見つめられるのにはさすがに耐性がない。っていうか近すぎる。
「あれ?ほんとになんともない......?」
こ、こうなったら、別のことを考えていよう。
みーさんの部屋を見渡してみる。
よく整頓された質素な部屋だ。
テーブルやベッドなどの家具類を除けばあとは性転堂カチャッチ一式といくつか積まれたカラーコーンくらいしかない。
というか裏垢女子ってよくカラーコーンが送られてくるものなのか?
そういえば、ここってだいぶ俺の家と近いな。
もしや、ギリギリ俺の中学校の学区に入るか......?
確かみーさんって、今高校1年生だよな。
俺の3つ下の妹と同学年......?
まさかな。
「ねえ、みーさん、高橋麻衣って知ってる?」
「え?麻衣ちゃんなら中学の同じクラスにいたけど......その子?」
まじか。
「同じクラスか......」
「もしかして、高校一緒なの?」
「あ、いや。し、知り合いなんだ」
妹は俺と同じ高校に入ったので同じと言えば同じなんだけど。
「じゃ、じゃあ、高橋雪那は知ってる?」
「麻衣ちゃんのお兄ちゃん?知ってるよ。新聞に載ってたから」
まさかの俺の前世認知されてた!?
「麻衣ちゃん、元気にやってる?あれからの麻衣ちゃん、人が変わったみたいだったから」
「え?」
妹が?その話詳しく。
「今までが嘘みたいに暗くなって、誰とも口を効かずにずっと勉強してたよ。受験シーズンなのもあるかもだけど、私にはひたすら気を紛らわしてるように見えたな......」
「へえ、今は全然そんなことないんだけどなあ」
妹がそんなことになっていたとは。
今の様子からは全然考えられない。
生前、妹にはいつも素っ気ない態度をとられていたし、抱きついては殴られるのが日常茶飯事だったからてっきり嫌われていると思っていたけど。まさか俺の死でそこまで参るとは、案外そうでもなかったのだろうか?
「じゃあ、今は立ち直れたんだね。よかった......って話を逸らさない!ほら、頭もよく見せて!」
「うぇ」
「どこ切ったの?」
俺の髪をまさぐるみーさん。
「............あれ?この耳」
あ。
見られた。
まあ、今さらなんだけど。
既にみーさんには誤魔化しが効かないところまで行ってしまっている。
もう腹を括るしかないな。
さて、どこまで話したものか。
「ええと、みーさん。これから言うことは誰にも言わないでね」
「え?うん」
「私ね、吸血鬼なんだ」
「へ?」
口を指で広げて見せる。
「......!」
「日光がダメなのも、ジュースがいらないのも、トラックに轢かれて平気だったのも、全部、吸血鬼だから」
「吸血鬼って、あの吸血鬼?スノウちゃんが......?」
「うん」
「そ、そうなんだ......」
俺の下着姿を上から下まで見るみーさん。
目に見えて戸惑うこともなく、物わかりがいい子なんだろうな。
あ、せっかく正体をバラしたなら血を吸ってみたいな。
言った。
「それでなんだけど、よかったら血を吸わせてくれない?」
「えっ......私の?」
「うん」
「......」
考え込むみーさん。
さすがにいきなりすぎたかな?
「......わかった、いいよ。でも、ちょっとだけね?」
「やった、ありがとう!じゃあ、ちょっとだけ!」
うわあああい!!
「では、いただきます」
俺はみーさんのコートの留め具を外し、首元を出した。白くてとても綺麗だ。
そしてみーさんの腰に手を回し、首元に噛み付いた。
ちょっとだけということなので、牙の先の方だけ突き刺す。
「はむ」
「......!」
おお。
なんだかさっぱりとしていて、今までにない独特な風味だ。
飲み込む瞬間にはこの子の優しさのようなものを感じることができて、心が温かくなる。
素晴らしい。
これが清楚系美少女の血か。
珍しい味を精一杯堪能しながら数口飲み込んだくらいで、傷口は塞がってしまった。
「ぷは......みーさん、おいしかったよ、ありがとう!......みーさん?」
呼びかけても返事がない。
というか俺に抱えられてぐったりして......気絶してる!?