2話 転移魔法
血を吸うべくロリ巨乳美少女に迫ったら逃げられてしまった俺だが、もちろんあんなにかわいい子を諦められるはずもなく、次の日の夜、市場でふらふらしていると昨日の少女を見つけることができた。
「あの!」
「......げ」
顔をしかめるロリ巨乳。そんな顔もかわいいけど、げだよ、げ。悲しいよ俺は。
「昨日はごめんなさい。私はセツナ・ハイブリッジ。人間の国を旅してるわ」
「......ユーリア・ターナサイド、魔術師です」
俺のこの名前は、生前の名前『高橋雪那』を雑に英語にしたもの。
吸血鬼はマナの濃いところに自然発生する生物で親がいないため自分で名前を決めた。
目覚めた時は大変だった。服が無いから露出狂の変態扱いされたし。もっとも、言葉が分からなかったのでそれを知ったのは後のことなんだけど。
さておき、なんだか引き気味の金髪碧眼ロリ巨乳はユーリアちゃんと言うらしい。
それから場所を変えて、弁明というか、なぜ血を吸いたいのかをがんばって説明したら、なんと血を吸うことを許可してくれた。うおおおー!
では遠慮なく。
「かぷっ」
「っ、ふあ!?」
牙を首元に突き刺すとユーリアは少し痛そうな声をあげたが、血を吸い始めるとそれとは違う声が出た。
不思議なことだが、吸血鬼に血を吸われると体内で独特な魔力の循環が生まれて、なぜか快感が伴う。
吸血鬼に血を吸われると眷属となってしまうという俗説があるがそれは誤りで、吸われる方が快感の中毒になってしまっているだけなのだ。
そして、魔力の循環の仕方はお互いの好意の強さやその時の感情によって変わるらしい。
好意が大きいほど快感も強くなるし、悪感情を向けていれば快感ではなく苦痛が襲う。
「......ぁ」
それはともかく......うんめえー!
飲み込むごとに体がゾクゾクする。やはりこれはやめられない。
これだと魔力変換の効率もかなりいいだろう。
血液を魔力に変換する時の、血液量あたりの魔力量も、お互いの感情や好意に依存するのだ。
恍惚とした声をあげるユーリアだが、やがて足腰の力が抜け始めたので抱きしめて支えると、たわわな胸が俺の胸と合わさりむにゅっと押しつぶされる。
俺は今幸せである。
この後めっちゃ怒られた。
◇
「にしても、吸血鬼ってのは本当にろくなのがいませんね」
上気した顔でまだ少し息の荒いユーリア。
「分かるぅ〜」
「あなたもですよ?」
いやいや、俺は吸血鬼の間じゃレズでロリコンなやべーやつって言われてるけど、絶対にまだマシなほうだ。
俺に言葉を教えてくれた吸血鬼のお姉さんはムキムキマッチョが好みのサディストで、マッチョの家族友人を目の前で惨殺して絶望したところの血を吸うのが好きらしいし、以前出くわしたおじさん吸血鬼は、四肢切断しただるま女を犯しながら吸う血は最高だと言っていた。吸血鬼じゃなければ俺もそうなっていたらしい。
だいたい吸血鬼はこんなもんで、吸血鬼が魔物でも魔族でもないのに人類の敵とされるのは間違いなくこれが原因だ。
その上、吸血鬼はかなり強い。
『吸血鬼に遭ったら逃げろ』とはよく言われていることで、子育てする親が『寝ない子は吸血鬼に襲われちゃうぞ〜』なんて言っては多くの子供を泣かせてきたことだろう。
「いきなり土下座したと思えば付きまとって口説いてくるのもいたし、魔物に犯されて喜んでるのもいたし......あ、いきなり手足を切断してこようとしたのもいましたね」
なんか知ってるやついた気がするなあ。
「最後のだけは心当たりがあるんだけど、あなたはちゃんと五体満足に見えるわ。どうやって諦めさせたの?」
「いえ、殺しました」
「えっ!?」
殺したって、あのおじさん死んだの!?
俺じゃ手も足も出なかったあいつが!?
いや、あれ相手なら手も足も出さない方が正解、ってやかましいわ!
「あなた何者?」
「ちょっと魔法が好きなだけの、ただの冒険者ですよ」
んなわけないだろ。人間であのおじさんに勝てる人がいるのかと驚くレベルだ。マナ感知の精度といい、昨日の転移魔法といい、人類でもかなり上位の魔術師であることは確かだ。
「そういえば、昨日の魔法は何?あんなの初めて見たわ」
「転移魔法ですよ。魔法陣は、はい、これです」
一瞬で複雑な魔法陣を5つも展開するユーリア。さすが、人間離れした魔力制御だ。
「1陣目は、世界の状態を読み込んでそこから"自分"を定義する魔法陣です。2陣目は定義した"自分"の体を分解する魔法陣で、3陣目以降は転移場所に"自分"を構築するものです。転移先は3陣目で設定します。この辺が、この世界を指定する部分で、ここが座標軸の設定、こっちは具体的な座標ですね」
うーん、言ってることがよくわからない。ていうか魔法陣の模様に意味なんてあったのか。俺治癒魔法陣とか普通に暗記で覚えたけど。
でもこの子少し聞き捨てならないことを言っていた気がする。
「世界を指定?それは、異世界にも行けるってこと?」
「異世界?うーん、異世界があったとして、その世界をちゃんと指定できればいけるんじゃないですかね」
「ほんと!?ちょっとしばらくそのままにしてくれない!?」
「え?は、はい」
異世界、地球に帰れるかもしれない。
ユーリアが展開している魔法陣を魔力で模写していく。
「ここが、こうで、こっちが......ん?違う」
魔法陣が増える度に魔力操作がきつくなるが、なんとか5つ魔法陣を模写できた。
「な、何を......?」
「ちょっと故郷に帰るわ。転移場所の指定についてもっと詳しく教えてくれない?」
「え、ええ」
相談しながら魔法陣を描き換えていく。
世界の指定の部分はよくわからないから適当に日本語で"地球"って描いた。
で、日本の座標は確か、緯度35°69、経度139°69だ。
なぜ覚えているか、いや、なぜ思い出せるのかというと吸血鬼の脳が優秀だからに他ならない。
頭の回転は人間より数段速く、数ヶ月で異世界の言語を習得することもできたし、生前社会の授業で少し出ただけの数字を詳細に思い出すこともできる。少しずつだが転移魔法の複雑な魔法陣を描くこともできた。この魔法陣も後から思い出せるだろう。
「ありがとう、これで故郷に帰れるかもしれないわ」
「私は分かりませんよ?それに......」
「じゃあ、さようなら」
「えっちょっと!転移先の指定が間違ってたらあなたの体が消えるだけ――」
一瞬、意識が暗転し、視界が切り替わった。
吸血鬼の生態ガチャ!
ガチャガチャ......ポンポンポンポン!
【N】マナ濃度の高い所に自然発生←[New!]
【SR】吸血されるとキモチイイ←[New!]
【N】だいたい性格がイっている←[New!]
【R】高性能な頭←[New!]
吸血鬼の生体図鑑!
【UR】
1.
【SSR】
2.
3.
【SR】
4.尖った耳、長い八重歯
5.吸血されるとキモチイイ
6.
【R】
7.不老で半不死
8.唾液に傷を回復させる効果
9.高性能な頭
10.
11.
【N】
12.他人の血液を魔力に変換して使う
13.マナ濃度の高い所に自然発生
14.だいたい性格がイっている
15.
16.
17.