18話 はじめてのおふかい
あれからちょくちょくOwatterで超乱闘の対戦を募集しているが、それとは別に、『みーさん』さんとは個人的に何度も対戦をする仲になった。
みーさんさんの電気子ネズミには何度やってもなかなか勝てなかった。
吸血鬼が有利なオフライン戦でならもう少し勝負できると思うんだけど。
どうでもいいけどみーさんさんって呼びにくいな。さん無しだと呼び捨てにしてるかしてないかよくわからない。
心の中ではみーさんと呼ぶことにしよう。
何度も対戦する中で、みーさんとはなかなか友好的になったと思う。
それで今、こんなところにいる。
「あ、あの......スノウちゃん、だよね?」
来た!実物のみーさん!
ベージュのコートを着ていて、セミロングの黒髪を風になびかせている。俺よりも身長が高かったらしい。
なんだか戸惑っている様子だが、実物は想像以上にかわいい。血飲んでいいかな?
「そうです、みーさんさん、こんにちは」
「こんにちは。......えっと......その格好は?」
戸惑っている理由がわかった。
本日は晴天。
俺は日光の暴虐に抗うべく、いつもの水色のパーカーのフードを深く被り、デカいマスクと手袋をつけ、かつ日傘を差して完全防備態勢になっていた。
これじゃパッと見俺とわからないな。悪いことをした。
「ごめんなさい、日光に弱いんです」
「そ、そっか、アルビノだから......?なんだか吸血鬼みたいだね」
少しビクッとした。
まあ、勘違いしてくれたようなのでいいや。
「あ、敬語使わなくていいよ。同い年でしょ?あと、さんは1つでいいよ」
「わかりま......わかった、みーさん」
どうやらみーさんでよかったらしい。
俺の裏垢『スノウ』は2月生まれの15歳......つまり高校1年生ということにしている。みーさんもこの前話した時に高校1年生だと言っていた。設定上では同い年ということになるね。
さて、なぜこんなところでみーさんと会っているのか。
それはこの前みーさんと超乱闘の対戦後に雑談をしていた時のこと。
『スノウちゃんは、全滅の刀は見てる?』
『アニメは見ましたけど、映画は見てないです』
『そうなの?私も!それなら、今度一緒に劇場版見に行かない?1人じゃ敷居が高くて......』
ということである。
みーさんは同じ神奈川県民らしいし、全滅の刀の劇場版は俺も見たかったので快くオーケーしたのだ。
でもまさか、こんなにかわいいリアルJKとデートできるとは!今が一番、裏垢女子しててよかったと思ってるかもしれない。
「それじゃあ、さっそくだけど、行こっか」
「うん」
今回は映画館の最寄り駅前での待ち合わせだ。ここから近くの映画館まで歩いて行く。
「スノウちゃんは、映画館は初めて?」
「ううん、高校の頃友達と何回か来たことがあるよ」
懐かしいな。
俺と遊ぶ友達と言ったら、まあ服部しかいないわけだが。
高校に入ってからはよく遊びに出かけたものだ。
「高校の頃って、変な言い方。今も高校生でしょ?」
あ。
「そ、そうだったね。あー、全滅の刀、楽しみだなー」
俺は誤魔化した。
全滅の刀。
全殺隊なる集団が人間も鬼も全員皆殺しにするアニメだ。
俺はこのアニメが放送している時期に死んで続きが気になっていたので地球に戻ってきて真っ先に見たが、まさか社会現象にまでなっているとは思わなかった。
男女問わず幅広い世代で流行していて、俺の裏垢にもこのアニメのキャラクターのコスプレリクエストが多く届いていた。
しかし、みーさんほどかわいい子なら一緒に見る友達なんてたくさんいそうだが......
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超乱闘の話をしながら映画館に向かっている。
「みーさんの電気子ネズミはコンボがうまいよね。なかなか抜け出せなくって......」
俺はなるべく女の子らしい柔らかい口調を心がけている。万が一にも素が出てしまったら大変だからね。
「電気子ネズミは技のリーチが短いから、スノウちゃんの竜女なら密着しないように......あ、ここだね」
着いたか。
この辺では最も大きい映画館だ。家から一番近いので生前にも何度かお世話になった。
みーさんは映画館は初めてらしいが、同じくここが一番近いと言っていた。電車も同じだったようだし、結構近くに住んでいるのかもね。
屋内に入ったので日傘を閉じ、マスクとフード、手袋を外す。完全防備態勢解除だ。
「わあ、本当にスノウちゃんだ!かわいい〜!」
そりゃあ、俺だからね。
でも、かわいい子にかわいいと言われるのはなんか変な気持ちになる。
「髪触っていい?」
「う、うん」
みーさんが俺の髪を1束手に取った。
なんだか耳が少しくすぐったい。
人間とは違う耳が見えてしまわないよう、咄嗟に手で押さえた。
てか、なんか距離が近くないかな?
「すごーい、真っ白......」
美少女に髪を触られてじっくり見られている。
かつて美少女がこんなに無防備に近づいてくれたことなんてあっただろうか。いや、ない(反語)。
これはもう襲ってもいいってことだよね?血吸うね。あーん......
「あ、そうだ!ツーショット撮ってもいい?」
「......うん、いいね」
僅かに残った理性で返事すると、みーさんは俺の横に来て肩を合わせ、スマホに俺たちを映しパシャリと写真を撮った。
かわいい女の子が嬉しそうにくっついてくる。なんて幸せなんだろう。
それからみーさんは『あの裸カラーコーンのスノウちゃんと映画館に来てるよ!』と写真を投稿していたので、俺もそのつぶやきをリオワータしてみた。
てか俺は裸カラーコーンの人ってイメージがついてるのね。
「あっ、あそこでジュース売ってるね。私買ってくるよ。スノウちゃんは何がいい?」
「あ、私はいいかな」
「そう?わかった」
吸血鬼は水分が必要なら体の中で勝手にできるからね。
みーさんの血だったら飲みたいんだけど。
そうしてみーさんがジュースを買ったら、上映まで適当に時間を潰すことにした。
チケットは事前に各自で購入している。学生料金で買えないのを見せるのは少しまずいからね。
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「おもしろかった!」
「すごかったね。みーさん泣いてた?」
「し、しょうがないじゃん!」
社会現象を起こしただけあって、とてもよかった。
近くの通路ではまだ小さい子どもがキャッキャと映画の登場人物の真似をしている。
「じゃあ、私たちも出ようか」
「うん」
みーさんは俺に続いて立ち上がり、よろけた。
「おっと」
咄嗟に支える。
「大丈夫?」
「う、うん、ちょっと目眩がしただけ。ありがとねスノウちゃん」