13話 超乱闘
ガチャコーナー、完結します。
『メイド服キターーーーー』
『白髪メイド助かる』
『えっっっ』
『手突っ込みたい』
『おいしそう』
「服部、通知が止まらん」
「当然だな」
「今、お前のアカウントからの通知が通り過ぎていったわ」
「当然だな」
なんか、こいつもちゃっかりコメントしてきてた。お前は直接言えばいいだろ。何が『うちで雇いたい』だ。普通に嫌だが。
さっきもメイド服を脱ごうとしたらめっちゃ止められた。そんなに好きなのか。まあ、しょうがないから今日はメイド服のままでいてやることにする。
「ところで服部、あそこに見える赤と青のコントローラーって」
「気づいたか高橋。あれが性転堂のカチャッチだ」
「おお!!」
あれが今流行りのゲーム機、性転堂カチャッチか!
コントローラーをカチャッと取り外しできるアレだ!
「やってもいい!?」
「おう、超乱闘もあるから後で対戦しようぜ。俺は飯食ってるわ。お前はいらないんだろ?」
「ああ。その間練習してるわ」
超乱闘か!
あの、世界的に有名なゲームキャラを操作して飛ばし合う対戦ゲームシリーズの新作だ!
発売当初は目先に大学受験があったから買ってなかったけど、シリーズの前作は結構やり込んでいただけに、地球での俺の未練の1つだったんだよね。
よっしゃ、やってやるぜ!
◇
「俺が高橋に負けた、だと......?」
「はははははこれが吸血鬼パワーだ!」
対戦のリザルト画面に華々しく映っているのは、俺の前作からの愛用キャラである、竜になる白髪女だ。
服部が使っていたストレッチする男は画面下の枠で賞賛の拍手をしている。
実は服部は猛者の集まるアマチュア大会でも上位で戦える程強くて、超乱闘では前世から一度も勝てたことがなかったのだが、吸血鬼になった今ならチート仕様の反射神経で超人的な操作が可能だ。
まあ、勝ったと言っても11回目だし、服部はキャラをランダムにしていたんだけど、初めて勝ててこんなに嬉しいことはない。
「くっ、お前の反射神経チートすぎるだろ」
「横足見てから翔竜余裕でした」
この後服部の得意キャラである銃を撃つキジにボコボコにされた。
◇
「ぐすん」
「うっ、その顔で泣き真似するなよ。俺がスノウちゃんを泣かせたみたいじゃないか」
「うぅ、もう1回!」
「ああもちろん何度でも相手してやるよ。でもお前、時間は大丈夫なのか?」
おっと、そろそろ終電か。
「うーん、今日は泊まっていっていい?」
「は?」
「宿賃として部屋キレイにするから!魔法で!」
「あ、いや、いいんだが......」
狼狽えた様子で俺を見る服部。
なるほど、こいつ、美少女を家に泊めることに困惑しているな?
「ははーん、さてはお前、女の子をここに泊めたことないな。あ、入れたこともなかった?ごめーんw」
「うっせえ!まだこれからだよ!」
「まあ、俺みたいな美少女と同じ部屋で寝られるなんてラッキーだろ?俺なら気使う必要もないし、ありがたく堪能しとけ」
「お、おう......」
というわけで、今日は帰れないと家族に連絡し、深夜まで超乱闘で遊んだ。
◇
超乱闘で遊んでいたらいつの間にか深夜の2時になっていた。男友達とゲームで夜更かしとは、いいね。親の目があった前世では出来なかったことだ。
服部はこんな遅い時間まで大丈夫かな?と思ったが明日は土曜日で大学がないから大丈夫らしい。今日は金曜日だったのか。学校に行ってないから曜日感覚がなかった。
「とはいえ、そろそろ眠いな」
「じゃあ、終わりにするか」
俺はまだまだ平気だが、こいつが眠いって言うなら終わるか。今日はこの辺で満足して寝る準備をする。そういや突然だったからパジャマ持ってきてないな。まあ脱ぐのも面倒だしメイド服のままでいいか。
「高橋がベッド使えよ。俺はソファーでいいわ」
「あー、気を使わなくていいよ。俺はベッドの下で寝るから」
「ベッドの下」
「ああ。吸血鬼になって以来、狭くて暗いところが落ち着くんだよ」
狭くて暗いところに入るとどんな時でも気分が落ち着いてすぐに眠ることができるのだ。だから家でも俺のベッドの下で寝ている。
吸血鬼は棺桶にいるイメージだし、多分そういうことなんだろう。
「な、なるほど。てっきりエロ同人誌でも探す気なのかと思ったわ。俺のエロ同人誌はそこの本棚のカーテンの裏にあるから勝手に見ていいぞ」
「見ないわ!」
こいつ、一人暮らしになってそんなもん買うようになったのか。
「でも、だからってベッドの下で寝るのはどうなんだよ。ホラーのシチュエーションか?体痛くなったりはしないのかよ」
「吸血鬼の体は丈夫なんだよ。床で寝たくらいじゃビクともしないぞ」
吸血鬼の強さの1つで、並大抵の力じゃ傷が付けられないほど丈夫なのだ。パッと見普通の人間と同じで皮膚は柔らかいのに傷だけ付けられない。ファンタジー仕様だね。
それに再生力も高い。少しの傷ならすぐに回復するし、例え腕が取れても、20秒で血が止まり、5分で傷が塞がり、3日で腕が再生する。俺が四肢切断吸血鬼おじさんに不意打ちを受けた時がそうだった。めっちゃ痛かった。
「そうか。まあ、お前がいいならいいんだけどよ」
「本当は棺桶で寝れれば一番なんだけど、そんなに安くないからな」
一応通販で買えるようだが、今はゲームのためにお金を貯めたい。
「棺桶くらいなら俺でも作れると思うぞ?要るか?」
「まじか!?欲しい!」
そうだ、こいつは元々ものづくりが好きで、高校では唯一ものづくりの部活であった服飾部に入り、そのまま工学系の大学に進学したんだったな。
「おけ、なら明日からぼちぼちやってみるわ」
「おぉぉ。ありがとう、お前が神か」
「任せとけ」
服部はそう言うと、なにやらパソコンをカタカタし始め......
「じゃあ、どんなのがいいんだ?」
画面を俺に見せてくる。
どうやら棺桶の画像を検索していたらしいが......
その中に、『あれ』が大量にあった。
「ひっ......」
「ん?」
棺桶の装飾ではよくあるもの。
地球の伝承でも吸血鬼の弱点とされ、討伐の際に使われることが多い。
十字架だ。
「ぃいうぁああぁああああ!!!!?!!?ぁあああぁぁぁむりむりむりむりむりむりむりやだやだごめんなさい」
「高橋!?」
いきなり大量のそれが現れ、頭の中が恐怖一色になる。目を瞑るが、画面の中の大量の十字架が目に焼き付いて離れない。
「怖い怖い怖い怖い!やだやだ」
「高橋落ち着け!」
「ひぃぃぃぃぃ!?ごめんなさい!ごめんなさいごめんなさい......」
服部が何を言っているかもわからず、とにかく怖くて、頭に響いてきた音にも過剰に反応してしまう。
足腰には全く力が入らず、ただ体がガクガクと震える。
腕は顔を庇うポーズを取っていて、その顔からは涙がぽたぽたと垂れている......なんてことも分からず、しまいには下腹部に温かいものが広がっていった。
「まさか、十字架か!?」
「あぅ......ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい......」
まともな思考ができるようになるまでどのくらい経っただろうか、服部が心配そうな顔で俺を見ていて、ようやくさっきまで何をしていたか思い出した。
「服部......はぁ、はぁ......ごめん」
「大丈夫か?」
「ふぅー。......うん、もう大丈夫」
さて、一目瞭然だが、吸血鬼は十字架に対して生理的に恐怖を感じる。
何か嫌なことがあるわけでもないのに、ただ十字架の形を見ただけで頭の中が凄まじい恐怖に染まってしまうのだ。
今だってまだ怖いし、体が震えている。
って、あー、また漏らしてる。速やかに洗浄魔法で辺りをキレイにする。
「高橋、ごめんな、そこまで考えが至らなかった」
「うん。とりあえず、十字架を装飾するのはやめて欲しいかな」
「承知した。にしても、画像を見ただけでそこまでなるのか。俺、暴行事件の容疑者にならないか心配なんだが」
「え、俺そんなに叫んでた?」
「ああ。深夜じゃなければそろそろサイレンが聞こえてきてただろうな」
まじか。
他人を巻き込みたくないし、地球では一層気をつけなければな。なんにせよ今が深夜でよかった。
不測の事態はあったが、ベッドの下に入ったらだいぶ落ち着くことができ、すぐに眠ることが出来た。
後から分かったことだが、服部のエロ同人誌は白系の髪の女の子を無理やりするものが多かった。
身震いがした。
吸血鬼の生態ガチャ!
ガチャガチャ......ポンポンポンポン!
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【N】体が丈夫←[New!]
【N】怪我がすぐ治る←[New!]
【UR】十字架が怖い!←[New!]
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【UR】
1.十字架が怖い!
【SSR】
2.日光は無理!
3.狭くて暗いところが落ち着く
【SR】
4.尖った耳、長い八重歯
5.吸血されるとキモチイイ
6.耳は性感帯
【R】
7.不老で半不死
8.唾液に傷を回復させる効果
9.高性能な頭
10.マナから必要な物質を作る
11.生まれた時の体を保つ機能
【N】
12.他人の血液を魔力に変換して使う
13.マナ濃度の高い所に自然発生
14.だいたい性格がイっている
15.力が強い
16.体が丈夫
17.怪我がすぐ治る