変わったけれど、変わらない
「入れ換えるって? あたしの記憶力がお姉みたいにめちゃくちゃ良くなって、お姉があたしみたいに何も覚えられなくなるってこと?」
「そういうことだね」
「それはダメ!」
「お姉ちゃんみたいに記憶が良くなることを望んでるんじゃないの?」
「お姉ほどじゃなくていいの 少しでも、昨日のことを覚えられたらいいなって それに、お姉があたしみたいに覚えられなくなるのはいや」
「お姉ちゃんはそれでいいって言ってたよ 昨日お姉ちゃんの夢に行ってきたんだ 君はお姉ちゃんに愛されてるよ 那由多が辛そうだから、変われるのなら変わってあげたいって、泣きながら、言ってたよ」
「お姉...」
そうだ、これは小さい時にあたしの夢によく出てきた妖精さん 昨日のことを覚えられないあたしの唯一の友達だった
「この夢から覚めたら、君はいつも通り僕のことを忘れる この会話のことも 次に君が願った時、今言ったこと、叶えてあげるよ」
そうだ、あたしが凛真くんを覚えていられるように願った時、あたしのサヴァンが発症したのは、お姉からそれを受け取ったから そして、お姉の症状が発症したのは、あたしの症状を受け取ったから
はっと気がつくと、あたしはまだ凛真くんとキスをしていた
「もういいよ!(バン!) ご、ごめん!」
凛真くんを乱暴に押し返してしまった
「ぜんぶ思い出した! お姉、ごめんね! あたしがお姉の記憶の能力、ぜんぶ奪っちゃってたみたい!」
「いいの、私が望んだことだから 私も、全部思い出したよ 今までの記憶 なんで今まで忘れてたんだろうってくらい、鮮明に 妖精の夢の記憶から、凛真に助けられた日のことまで 全部、頭の中で再現できちゃう、昔みたいに」
もう戻っちゃったんだな 昔みたいに、あたしは明日にはぜんぶ忘れちゃう お姉にこんなに長い間、楽しい思いをさせてもらったことも 凛真くんと、キスしたことも ありがとうお姉、そして、凛真くん
夏休みに入って、叶向とデートしまくった
高校生には似合わないような良いディナーに行ったり、本屋に行ったり、水族館に行ったり、美術館に行ったり
「私が凛真の家に忘れた携帯の充電器持ってきてくれた?」
「あっ! 忘れてた!」
「も〜 昨日の夜電話で言ったでしょ〜」
何気ない会話の中にも、昨日の記憶があるという、当たり前だが当たり前でなかった幸せが
あれから叶向の家に行くたび、那由多と会って会話している
あの頃のように、彼氏さんとは呼んでくれない
「じゃ、このあと私の家行こっか」
「わ、わかった!(いまだにバクバク)」
「お邪魔しま〜す」
「よし! 今日は那由多も親もいない! 今日こそはよ! 凛真!」
「何が今日こそはじゃ〜〜〜!」
「那由多!? なんでいるの!? 何か思い出せるかもって、例の公園に行ってみるって言ってたじゃない!?」
「公園占領してたよく分からんヤンキーたちにからかわれたから帰ってきてやった! まあそいつらボコボコにしたけど! なんで、あたしがこんなに強いからは分からん! 覚えてない!」
「それはここにいる私の彼氏、印田凛真君のおかげよ!」
「この人が印田凛真!? え〜、思い出せないなぁ〜 う〜ん...」
那由多はまじまじと僕の顔を見つめる
「もう何回も会ってるんだけどね...」
このやり取りも、もうお馴染み しかし何回目でも、愛おしい
「じゃ、凛真くんって呼ぶね!」
記憶はできないかもしれないけれど、いつも元気いっぱいで、一緒にいると楽しくなれる、那由多は変わったわけじゃない
最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!




