1-2経緯
産声が聞こえる。
分娩室で響く、甲高い赤子の泣き声。それに不快感は無く、寧ろこの光景を見て涙流す者もいた。
「おめでとうございます。男の子です」と助産師から母親に赤子を渡される。出産の疲労などものともせず誕生した命に手を伸ばし子供を抱く母親。この時間、光景を何者もそして柵すら侵すことはできなかった。
(何だ・・・?ここは・・・)
赤子が泣き止むと同時、出産、新たな生命の誕生の中、異質な思考をする者がいる。それは母親でも医者でも助産師でも立会人でもない、それは母親の腕の中にいた。
脳が思考するまでに至ってない生まれたばかりの生命、ありえない事象のはずだが、当の本人は何の違和感も持っていなかった。薄い視界を凝らし少しぼやけてるが女性の顔が見え、力の入らぬ体、ある確信を得る。
(そうか・・・俺は、転生を成功させたんだ!!!)
思考を巡らせ記憶を遡る、ある儀式を行い、視界が光に包まれ目覚めたらこの状況だ。赤子は歓喜の渦の中にいた。この空間にいる人間とは同じようで違うモノ。
(これから新しい人生が始まる!!!)
赤子は前世の人生とは決別し希望と夢が満ち溢れた生活を迎える!・・・筈だった。
あれから15年という月日が経ち、あの日の赤子は、かんざし駕月という生を受け、夢と希望に満ちた人生を歩む予定だったが、彼が生まれたかんざし一族は守護を司る家系、守る対象が御三家と呼ばれる家のお姫様方、それらを護衛する役目があった。
だが、現状は守るというより世話係と化していた。
この世界には超能力というものがある。世界や自分自身に超常現象を発生させることができる代物。超能力は生活でも職場でも学業でも権力争いでも戦場でも、あらゆる面で重要な立ち位置にあり、超能力一つで自分の人生が決まると言われるほどの影響力があった。
そしてカルナの能力より超能力を『複数持ち』で質も量も高く、しかも戦闘面でも滅法強い彼女らにカルナ自身は超能力至上主義の社会で彼女らより弱い俺がいる意味?と疑問を抱いたが配属を決めた御三家当主の一人が「歳近いし良いんじゃない?人手不足も深刻だしねぇ・・・それにうちの娘や他の娘さん方の手綱を・・じゃなかった心を開いてる君だったらのあの子らも安心じゃない?」という適当極まりない建前と完全に面倒を押しつけられた発言だった。
(わったぁーふぁ×××!!!!俺は世話係がしたくて転生したんじゃないのだが!)
心の中で頭を抱え叫ぶが、カルナの意見など受け入れられるはずもなく彼の新たな日常が始まった。