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3素敵なもの

 

 とある日和の昼下がり。


 王太子であるクリストファーは息抜きに体を動かすため、騎士団の訓練場へ向かっているところだった。


 この間、十四年ぶりに母と再会を果たし、最初に思った事は隣の父のことだった。


 国王陛下である父は目覚めぬ母をずっと抱きしめ、ただ一心に謝り続けていた。

 私には妹がいるらしいが一度もあった事がない。

 妹は行方不明だと宰相であるサンチェス公爵スレムメースが言っていた。いつも飄々とした顔をしているのに珍しく顔を歪めていたのがいろいろ過去に有りそうだと察する。


 ここ最近の父は仕事の間はいつも通りなのにふとした瞬間に苦しそうに顔を歪める。父は何も話してくれないが母が関係している事は分かる。


 父は仕事に明け暮れるようになった。

 私は父に無理はして欲しくないので父が少しでも楽出来るように私もいつもより公務を頑張ってこなしている。妹は暗殺部隊が探しているからおそらくそのうち見つかるだろう。


 もう半年も経ったんだ。そろそろ会えると良いな。


 私が死にそうだった時に目覚めさしてくれたあの子にもいつか、あえるだろうか。


 そんな時風に乗って音が聞こえた。


「…なんだ?ヴァイオリンの音色が聞こえる。」

「聞こえますか?」

「いや少し聞こえるでしょう。学園の方からですね。」


 一緒についてきていた赤毛の男、レオン・リル・マルティネスと眩しい金髪のエドワード・メース・サンチェス三人とも次代六大英雄の後継者である。

 彼らは私の半歩後ろで反応する。


 エドワードは朝から弟が高等部に入学ですよ〜と言って一騒ぎしてからちょっと顔見てきますといって消えていった弟大好きな奴である。最近は反抗期で凹んでいるそうだ。

 レオンは…彼の父親と同じぐ脳筋である。拳でモノを語るので少々バカだ。ウイスティリア学園に入れたのが奇跡としか思えない。

 私とエドワードは同じ歳だがレオンは二つ年下他の二人は一歳年上である。

 そう言えば本当に妹がいたならば今日中等部に入学の年齢だ。


「あ、聞こえました。」

「これはあれですね。」

「…祝福の曲だな。ピアノの曲のはずだがヴァイオリンにアレンジされてある…」


 この曲は王妃が好きな曲だった。王妃は俺たちを寝かしつける時など子守唄のように弾いてくれた。

 お腹の中の妹にも、弾いてあげていた。

 そう言えばまだ性別がわからなかった時、女の子なら付けたい名前があるといっていたが何と名付けたのだろうか。


「懐かしいな…」


 いつの間にがヴァイオリンの音色は消えていて、残ったのは暖かな思い出と手を伸ばしても手に入らない虚しい気持ちだけだった。




 __________





「セツカすごいわ!!ピアノの楽曲をここまでヴァイオリンでモノにするなんて!」


 弾き終わると一瞬の沈黙と拍手が響いた。

 エレナは頬を赤らめ、早足でそばに寄ってきて感想を述べてくれました。


 ヴィンレン夫人は…ど、どうしたのでしょうか⁉︎お顔をハンカチで押さえで下を向いておられます。


「ど、どうかなさいましたか?」


 ヴィンレン夫人は小さく頭を振ると少し赤く色付いた目を優しくゆるめ、微笑んだ。


「私の娘も貴方のようにその曲をヴァイオリンで弾いていたのです。お腹の中の子がちゃんと生まれて幸せになりますように、と。」


 私が反応するよりも早くエレナが反応した。そして私はその事実に心臓を大きく鳴らすことになる。


「ヴィンレン夫人の娘さんと言うと王妃様の事でございますね。王妃様も王女殿下も森の方へ療養に出たと聞いております…」


 バッとヴィンレン夫人を見る。ヴィンレン夫人の微笑みに懐かしさを感じたのはお母様の母親だったからなのか…つまりヴィンレン夫人は私のおばあさまに当たる方。

 改めてじっと目つめてみる。


 …とても優しそうな方で、良かった。


 こんな方が母親だったからお母様はこんな色味で、疫病神のような私でも愛してくれたんだ。


「セツカさん綺麗な音色をありがとう。その曲は思い出深い曲なの、とても懐かしい気持ちになったわ。…ふふ、久しぶりに孫に会いたいわねぇ。」


 ヴィンレン夫人が私の両手を取りお母様と同じ色のヘーゼルの瞳を優しく細めた。


「どう、いたしまして…」



 なんだか泣きそうだったのは秘密である。





 ***



「セツカ、今日この後時間あります?魔法師団の訓練場で婚約者と一緒に予習をする予定ですの。一緒にいかがかしら?」


 まず私はエレナに婚約者がいた事に驚いてますよ。


 仕事は基本私がいなくても滞りなく進められるようなメンバーしかいないので大丈夫として、図書館に借りていた本を返さないといけませんが。まぁ、今が3時半といったところで、図書館が閉まるのが6時、てことは。


「一時間ほど参加しもよろしいですか?」


 ということでエレナとともに魔法師団の方にある結界の張られた訓練場へ来ています。

 的のような物がいくつか立っておりそれ以外は芝生が生えている一見外のような風景ですね。結構広いようです。

 結界は透明で太陽の光に反射して時折見えるかなといった感じ。生徒証明書がないと入れないようです。

 数人の魔法士方が大きな紙とペンを持って何やら話し合いながら魔法を使っています。

 あれは新しい魔法の開発でしょうか?杖を持っているので魔法陣を用いる大きな魔法の研究なのでしょね。魔法陣を使うと難しい魔法も少しばかり使いやすくなるそうですよ。慣れれば魔法陣なんて入らなくなりますけどね。

 あれはより精霊に力を貸して貰えるようにする魔法陣でしょうか?精霊が力を貸してくれると魔法の威力が上がりますからね。

 私は光と闇の属性しか持っていないので精霊は関係ないですけどね。精霊は火水土風しか居ないので。残念です。


「あ、居ましたわ。あれが私の婚約者ですわ。」


 周りをキョロキョロ見渡しているとどうやらエレナ様が婚約者を見つけられたようです。むむ、なんですかあの眩しい人。なんか見たことあるような…


「彼はサンチェス公爵家の次男なんですの。将来は私の家に婿入りする予定ですわ。ケイレブさま〜」


 あぁ、入学式の日に女の子の山を作っていたスメレムメースの弟ですね。私ができれば避けたかった人です。うん。私運がありませんのね。きっと星座占い最下位だったに違いありません。


 エレナの声に短めウルフカットにされたくすんだ金髪をサラリと揺らし振り返りました。うん。金髪といえば碧眼ですよねぇ王道を有難うございます。金髪碧眼って語呂がいいですもんね。はい。


 ケイレブと呼ばれた少年はエレナを目に止めるとまるで砂糖が溶けたように甘く微笑みました。仲良しですね。


「エレナ!」


 こちらに近寄ってくるとエレナに一つハグをし額にチュッとキスをしました。中良きことは素晴らしきかな。


 ただな、一つ言わせてくれ。


 人前でいちゃつくなこのリア充が!


 うおっふぉん。

 エレナが頬を染め以前お話しした仲良くなったお友達も連れてきましたのと言い私の肩に手を乗せました。

 私、お邪魔虫では?えぇ、すぐに帰宅しましょうかしら。


「あぁ、君がセツカ嬢ですね。エレナと仲良くしてくれて有難うございます。私はケイレブ・サンチェス。ケイレブとお呼びください。」


 そう良い紳士の礼をしました。平民である私にも普通に接してくれる。この世界の貴族は良い人が多いですね。ノブレス・オブリージュがしかっかりしている方が多いです。

 学園でも平民である私もいじめられることもなく目立たず過ごせております。


「エレナ様とは仲良くさせていただいております。セツカと申します。どうぞお好きなようにお呼びください。平民の出でございますゆえ礼儀知らずなところがございましたら申し訳ございません。」


 そう言いカーテシーをする。礼儀知らずとは一応言ったもののいつどこに潜入して暗殺するか分からないから礼儀作法は完璧である。師匠の友人にそっち方面が得意な人がいてとても扱かれた。彼女は他国だが現役の貴族で暗殺者だ。


 慣れた完璧なカーテシーをし、顔を上げると何故かケイレブ様だけでなくエレナまでキョトンとしている。

 あら?、おかしいですね、ちゃんと最後には口元に微笑をのせるサービスもつけたというのに。

 小首をかしげるとケイレブ様も小首を傾げます。どうしたのでしょう。


「慣れているね。とても様になっているよ。」

「本当ですね。そう言えばセツカ自身の話はあまり知らないわ。ご実家は何をされているの?」


 え、ご実家ですか?そうですね。国を営んでおりますわ。なんて言えるかぁい!

 まぁ()()()()設定をお話ししましょう。


「私は孤児院の出でございますので、両親はおりません。元々は辺境の孤児院で暮らしていたのですが人も少なかったので潰れてしまい私は他の孤児院の入る予定だったのですが、レントゲンを開発致しましてお金もあったので一人暮らしを始めました。その有り余るお金で王都で老人ホームというのと保育園というのを開きまして。今は社長として社員寮で働きながら暮らしています。仕事のつてで様々な方とお話し致しますからカーテシーは磨いたのです。」

「あぁ!最近波に乗っている突然出てきた老人ホームと保育園は君が作ったのか!なかなか人気らしいね、王都だけでなく様々な地方に乗り出しているんだろう?レントゲンも医療界に革命的な進化をもたらしたよね。その年でとてもすごい事だ。まさに天才としか言えないね。」

「本当ですわ。セツカがそんな大物だなんて知りませんでした。」


 私はなぜかとてつもなく褒めまくられまるで恥ずかしがっているように顔を伏せる。実際は私が考えたものではないのでいたたまれないが人の役に立っているから良いよね。


 中等部は初級魔法は使えるものとして始まる。中級魔法も少しは使えるのも当たり前らしい。

 上級魔法以上は使えるのは魔導師団くらいなので上級魔法は中等部では習わない。中等部では魔法の回路効率をよくする練習と命中率を上げる授業。魔導師団の魔物の討伐に参加して実戦を学ぶらしい。高等部は実戦ばっかりらしい。

 ケイレブ様は水魔法使いで上級魔法まで使えるらしく将来は魔法師団に入るらしい。

 エレナは風魔法使いで中級魔法をいくつか使っていた。

 さて、ここで私である。私、光と闇が使えるのですが。バレる確率を下げるため違う物が使えるって事にしたいです。って事で精霊さん、カモンヌッッ!


 私の周りには常に四属性の精霊さんが守るようについています。えぇ、精霊王の一部ですからね。私。

 他の六代英雄にできない事だってできます。ずばり精霊と会話!彼らは見えるけど話せはしないのです。

 私は火の精霊さんと目線を合わせ一つうなずきます。

 察した火の精霊は任せて〜と言い、私の掌ほどの体をクルクルと回転させます。


 的に向かって手を向けます精霊さんが私の肩に乗りほっぺをスリスリしてきます私のイメージを読み取ってくれてるのでしょう。ファイヤートルネードですよ、良いですか。これ中級魔法ですからね。


「『ファイヤートルネード』」


 こっ恥ずかしい呪文を唱えると、あら不思議私の掌から魔法陣が展開され炎が渦を巻いて的へとぶつかりました。精霊さんが私の魔力を食べて代わりに私の願いを叶えてくれたと言った感じです。


 前世の二次元ではこう言うのを精霊術って言いましたけど精霊術ってないんですよね。

 精霊は魔力を食べて生きている自然を生み出す存在って言う認識です。

 森が茂るのは精霊がいるからだそうです。世界のあり方が前世と全然違いますね。


 ん、あれ。いつまで燃え続けるんだろう。

 的が燃え続けて灰になっていってるんだけど、おかしいな。あの的には結構強い強化魔法が付与されてたはず…

 せ、精霊さんめ!魔法の濃度が強いんだよ!


「…なくなりましたわ。」

「無くなったね。」

「……弁償でしょうか…?」

「大丈夫ですよぉ。物は壊れる物ですからねぇ。」


 知らぬ声が聞こえ、何者かが気配もなく私の後ろに立った。

 呑気な声なのにまるで喉にナイフを当てられたような殺気を当てられる。

 だがしかし、その殺気は体に馴染んだ本物の殺気ではなく試すような普通の人には気付けないような隠された殺気だった。だから私は気づかないふりをして。ゆっくりと振り返る。


 そして近くでため息が聞こえた。


「はぁ…兄上、どうしてここにいるの?」


 ケイレブなんて比ではない私の後ろに立った眩しい青年。すらりと伸びた高い身長に必要な筋肉だけついた美しい体躯。眩しいハニーブロンドの金髪に明るいベリーのような可愛らしいピンクスピネルの瞳。その瞳は澄み渡っていて宝石のようだ。だが何も感情が読み取れない。

 神が悪戯に作ったような美し過ぎる青年だった。

 こりゃ女の子の山もできる。


 彼が次代スレムメース、エドワード・メース・サンチェス。


 会いたくなかったなぁ。

 一応私の魔力は師匠の魔力がこもった指輪の魔道具の効果で隠れているけど。気づかないでね。せめて、怪しい少女で止まって。


 分厚い瓶底メガネ越しに目がった。エドワードは私から目を離さずにニコリと笑い、ケイレブの質問に答える。


「休憩時間だったからね。ケイレブが今日ここでデートだと言っていたから冷やかしに来たんだ…だけど。」


 エドワードはその高い体を少し屈め私の片方の三つ編みをそっと持ち上げチュッとキスを落とした。


「僕はとても素敵なものを見つけてしまったようだね。こんにちは素敵な人。少しの時間一緒にお茶しないかい?」


 まるで最初の殺気が無かったかのようにエドワードはパチンっと音がなりそうなウィンクをした。



 くっ…眩しいからやめてっ!





ありがとうございました。


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