タロウ物語
この仔犬は『タロウ』。
小さな村『ハギ村』の番犬だ。
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タロウは村の子供と遊んでいる。
「タロウ、取って来い!」
子供がボールを投げる。
(ワン!)
タロウは全速力でボールに向かう。
(カプッ!)
ボールを咥えて戻って来る。
「もっともっと!」
タロウは尻尾を振り催促する。
「よしよし、行け!」
子供がまたボールを投げる。
(ワン!)
タロウはまた全速力でボールを追う。
(カプッ!)
ボールを咥えて戻って来る。
「よしよし。」
子供はタロウの頭を撫でる。
暫く遊んだ後、子供は家に帰って行った。
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ある日、村に領主の家族がやって来た。
「ようこそ、ハギ村へ。」
村長の『ヨモギ』が挨拶をする。
「あなた、こんな辺鄙な所に泊まるの?」
奥さんの『パスタ』が話す。
「これこれ、本当だとしても言ったらいかんぞ。」
主人の『ボルドー』がパスタを止める。
(ガルルル…。)
「タロウ、領主様だからダメだぞ。」
ヨモギがタロウを宥める。
ヨモギは領主を屋敷に案内して行った。
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「なんて偉そうなんだ。」
村人が家から出て来る。
「領主だからって。」
タロウの周りで愚痴る。
「まあまあ抑えて抑えて。」
ヨモギが戻って来て宥める。
「ヨモギさん、どうして言い返さないんだよ。」
ヨモギに詰め寄る。
「いやいや、領主様に反論なんて言えませんよ。」
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領主は1週間程滞在し、帰る日が来た。
「領主様、またいつでも、お待ちしております。」
ヨモギが頭を下げる。
「のんびりさせて貰った。」
ボルドーがヨモギの手を取る。
「ねえねえ、その犬連れて帰りたい。」
息子の『ナムル』がタロウを指さす。
「ナムル様、タロウはこの村の番犬なんです。
連れて行かれては…。」
ヨモギが、タロウの頭を撫でる。
「ナムルよ、犬なら沢山居るではないか。」
ボルドーがナムルを説得する。
「この犬がいい。」
ヨモギもボルドーも困ってしまった。
「タロウは連れて行かせないぞ!」
その時子供達が出て来てタロウの前に立ち塞がる。
「お前達…。」
ボルドーが徐に口を開く。
「君達、タロウを貸してくれないか?」
子供達は首を振る。
「僕は領主の息子なんだぞ!
連れて行くったら連れて行く。」
ナムルはタロウを無理やり連れて行こうとする。
「タロウは連れて行かせないぞ!」
1人の子供がナムルを突き飛ばす。
「まあ!私のナムルになんて事するの!」
パスタがナムルに駆け寄る。
「連れて行くんだ!」
今度はナムルが突き返す。
「絶対連れて行かさない!」
ナムルと子供が取っ組み合いの喧嘩になる。
「お前達、止めるんだ!」
ヨモギとボルドーが止めに入る。
「ナムル、この村の大切な犬なんだ。
帰るぞ。」
ボルドーは、ナムルを無理やり馬車に乗せ、帰って行った。
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領主達が村から帰って1ヶ(か)月が経った。
ここは大都市『サクラ市』。
ボルドーが治める都市である。
「爺、爺は居るか!」
ナムルが爺を呼ぶ。
「ナムル様、お呼びですか?」
ナムルの部屋に爺が入ってくる。
「爺、ハギ村の犬を連れてきて。」
ナムルが、爺にお願いする。
しかし、爺は首を振る。
「ナムル様、ボルドー様から、ハギ村の犬はダメだと言われております。」
(父様め!)
「わかったよ、爺出てって!」
ナムルは爺を部屋から押し出す。
「絶対に手に入れてやる…。」
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次の日、ナムルは市内を歩く。
「たしかこの辺りのはず。」
ナムルは路地裏に入って行く。
「お、ナムルじゃないか?」
路地裏に住む『ボルシチ』が声をかけて来た。
「ボルシチ、頼みがあるんだ。」
ボルシチは顔を近付ける。。
「なんだ、喧嘩か?」
ナムルは首を振る。
「ハギ村の犬を拐って来てくれ。」
ナムルは、ポケットからお金を出す。
「わかったぜ!」
ボルシチはお金を受け取り奥に消えて行った。
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数日後、村の近くに、黒いフードを被った5人組が現れた。
彼らはボルシチの仲間だった。
「あの犬だな。」
ボルシチが指をさす。
「今、拐ったら良いんじゃ?」
仲間の1人『チョビーノ』が言う。
「いや待て、村人が見てるかもしれない。」
ボルシチが止める。
「じゃあ夜まで待つのか?」
仲間の1人『ガスパチョ』が聞く。
「ああ、村人が寝静まってからな。」
ボルシチが答えると、仲間の1人『トムヤムクン』がポケットからお菓子を取り出す。
「お菓子、食べないか?」
トムヤムクンがお菓子を配る。
「お、ドーナツか。」
仲間の1人『チャウダー』が拍手する。
(パクパク、モグモグ。)
お菓子を食べながら、5人は茂みで夜まで時間を潰した。
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夜、村は人が消えたかの様に静まりかえっていた。
「それじゃあ作戦通りに。」
ボルシチの掛け声で5人は散らばる。
「行け!」
ガスパチョは、紐付きボールを犬の近くに投げる。
(ポン、ポン、コロコロ。)
ガスパチョは紐を引きボールを動かす。
(コロコロ、コロコロ。)
「ボールだ!」
タロウは尻尾を振りボールを追いかける。
(コロコロ、コロコロ。)
ガスパチョが茂みまでタロウを誘き寄せる。
「今だ!」
ボルシチの声でトムヤムクンがマスクでタロウの口を塞ぐ。
(ウー、ウー。)
タロウは首を動かし振り払おうとする。
「よし!」
マスクを嵌められたタロウをチョビーノとチャウダーとボルシチが箱に押し込む。
(バタバタ、バタバタ。)
タロウは箱から出ようと暴れる。
「さあ、帰るぞ。」
ボルシチ達は箱を台車に乗せ帰って行った。
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朝になり、村人が外に出てきた。
「さあ、今日も働
くぞー!」
子供達も出てきた。
「タロウ、ご飯だよ!」
子供達は犬小屋を覗くが、タロウの姿は無かった。
「タロウ、居ないよ?」
子供達が困った顔をする。
「あら、いつもなら小屋の中に居るのに…。」
大人達も不思議がる。
「どうしたんですか?」
ヨモギが尋ねる。
「村長さん、タロウが居ないの…。」
子供達がヨモギに訴える。
「おかしいな、昨日は私が小屋に入れたのだが…。」
ヨモギも不思議がる。
「タロウ、どこに行ったの…。」
子供達が半泣きで呟く。
「村の周りを捜してみるか。」
大人達が頷く。
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サクラ市に戻ったボルシチ達は、路地裏でナムルが来るのを待っていた。
「ボルシチ、犬は?」
ボルシチ達は布を外す。
すると、檻の中にタロウが居た。
「この犬で良いんだろ?」
ナムルは頷くと、タロウを受け取った。
(グルルル…。)
タロウはナムルを睨み付ける。
ナムルは5人にお金を渡し、タロウを連れて帰った。
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ハギ村では、大人達が村中を隈無く捜したがタロウは見つから無かった。
「タロウ、見つから無かったよ…。」
大人達が子供達に話す。
「わーん!タロウどこに行っちゃったのー!」
子供達は泣くことしか出来なかった…。
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ボルシチ達から、タロウを受け取ったナムルは、屋敷に帰ってきた。
屋敷には10匹の犬を入れた檻がある。
(ガチャン!)
屋敷の檻にタロウを入れた。
「これで、タロウ も僕の物だ。」
(ワンワン!ワンワン!)
タロウがナムルに吠えまくる。
「吠えたって出さないよ。」
ナムルは屋敷の中に入って行った。
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屋敷の檻の中、犬達が話している。
「新入、名前は?」
柴犬が話しかけてきた。
「ハギ村の『タロウ』です。」
タロウは頭を下げる。
「俺は柴犬の『ヤマト』だ。」
ヤマトはタロウに餌を渡す。
「餌、食べな。
ナムルは、連れてきたばかりの犬には、餌を与えないんだ。」
タロウはまた頭を下げ餌を食べる。
(ムシャムシャ。)
「ハギ村には、他の犬は居るのか?」
タロウは首を振る。
「他に犬は居ない。」
ヤマトはタロウの肩に手を置く。
「そうか、それなら逃がしてやる。」
タロウは顔を上げ。
「本当に?」
ヤマトは頷く。
「お前達も手伝ってくれるよな?」
(ワオーン!)
「ありがとう!」
犬達は作戦を立てる事にした。
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作戦決行日、夜も深まり、辺りは静まりかえっている。
「それじゃあ、作戦決行だ!」
ヤマトの掛け声で、地面に穴を掘り出し始めた。
(ガリガリガリ、ガリガリガリ。)
穴は深くなり1メートル程掘った。
「次は壁に向かって掘るんだ!」
犬達は交代しながら真横に掘り進める。
掘る事数時間、今度は上に堀り始めた。
「穴が貫通したぞ!」
穴は壁を過ぎ、道の真ん中に辿り着いた。
「俺は、ここに残るが、お前達は自由だ!」
タロウは驚く。
「ヤマトも逃げなよ。」
ヤマトは首を振る。
「俺は、ここで生まれたんだ。
外の事はわからねぇ。
井の中の蛙なのさ。
それに、ナムルを悲しませる訳にいかない。」
(ワオーン!
)
タロウ達は、遠吠えをして、ヤマトを見送った。
「ヤマト、元気で…。」
こうしてタロウは、ハギ村へ向かって走り出した。
「おい、タロウ!」
何と、他の犬達もタロウに着いて来ていた。
「どうして着いて来るんだ?」
タロウは尋ねる。
「俺達、何年も屋敷に居たから、帰る道はわかんねぇ。
だから、タロウとハギ村に行きたい。」
タロウは頷く。
「わかった、ハギ村へ行こう。」
タロウ達、10匹はハギ村に向け走り出した。
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タロウ達が走り出して数時間、夜が明け朝がきた。
(ドドドドド。)
タロウ達は『ボタン村』に辿り着いた。
「餌を貰って来るから待っててくれ。」
犬達は頷く。
タロウは村に入って行く。
「ワンちゃんだ!」
村の子供が指をさす。
「ママ、餌あげて良い?」
子供の母は頷き肉を持ってきた。
「はい、ワンちゃん食べて。」
子供は分厚く切られた肉を置く。
(ガブッ!)
タロウは肉を咥えると、村の外へ走って行った。
「ワンちゃん逃げちゃった。」
タロウは犬達の所へ来ると、爪で肉を分けた。
「少しだけど食べよう。」
タロウ達は肉を食べ、また走り出した。
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サクラ市の屋敷では。
「犬が逃げた!」
ナムルは慌ててボルドーを呼びに行く。
「父様!父様!」
ナムルが父様の部屋に入っていく。
(バタン!)
「なんだ、ノックもしないで。」
ボルドーが注意する。
「ごめんなさい、でも犬が居なくなっちゃったんだよー!」
ナムルは父様に必死で訴える。
「鍵を掛け忘れたんだろ。」
ナムルは首を振る。
「わかった。」
ボルドーはナムルと檻を見に行く。
「犬は?居るじゃないか。」
ナムルは、また首を振る。
「ヤマト以外居なくなっちゃったんだよ!」
ボルドーは檻の中を確認、すると穴があることに気が付いた。
「ここから逃げたんだな。」
ボルドーは穴を見せる。
「せっかく手に入れたのに、穴を掘るなんて…。」
ナムルは肩を落とす。
「なに!手に入れたって。」
ボルドーはナムルを問い詰める。
「ハギ村の犬を捕って来たのか?」
ナムルは頷く。
「はぁ、爺に止めさせていたのに、まったく…。」
ボルドーは呆れてしまう。
「それじゃあ自業自得だな。」
ボルドーは中へ戻って行った。
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3日後、タロウ達は『ハギ村』に辿り着いた。
(ワン!ワン!)
タロウが吠える。
すると、家から続々と出て来た。
「何々?」
「タロウかしら?」
村人達が集まって来た。
「タロウじゃない!」
「タロウだ!」
村人がタロウの頭でを撫でる。
「この沢山の犬は?」
「タロウが連れて来たのよ。」
タロウを撫でながら話す。
「村中で飼いましょ?」
村人達は頷く。
「犬小屋を沢山作らないとな。」
男達は腕捲くりし、森に入って行った。
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次の日、其々其々の犬小屋が完成し、犬達が入った。
(ワン!ワン!)
犬達は尻尾を振って喜ぶ。
「遊びに行くぞー!」
子供達は犬達を連れ、遊びに出掛けた。
昼過ぎ、1台の馬車が来た。
そこからボルドーとナムルが降りてきた。
「すまないが、村長を呼んで来てくれませんか?」
1人が村長を呼びに行った。
「今回は、皆さんにも聞いてほしいことがあるので…。」
村人が村長を連れて戻って来た。
「ヨモギさんや村の皆さん!今回、家のナムルがタロウを拐ったみたいで、ご迷惑をおかけしました。」
ボルドーとナムルが頭を下げる。
「え、えっと、昨日、タロウが帰って来まして…。」
子供達が遊びから帰って来た。
「あっ!」
子供の1人が、ボルドーとナムルを指さす。
「犬は渡さないぞ!」
子供達が犬達の前に立ち塞がる。
「君達ごめんね。
もう犬達を盗ったりしないから。」
「本当に?」
ボルドーは頷く。
子供達は笑顔になった。
「さあ、ナムルからも皆さんに謝りなさい。」
ナムルは顔を上げ。
§「大切な犬を拐ってごめんなさい。」
ナムルは頭を下げた。
「迷惑をかけた、お詫びに、子供達にプレゼントだ。」
ボルドーは、子供達に、動物を模したクッキーを贈りました。
そして、ボルドーとナムルは帰って行った。
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数ヶ月が経ち、犬達も生活に慣れ。
たまにナムルがやって来て、犬達と遊ぶようになりました。
§おしまい§
読んで頂きありがとうございました。
今回の話は、動物を大切にしている所と、悪い方法で手に入れたってロクな事が無いと言う所を考えて見ました。
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書き終えて文字数に驚きました。
以前に書いていた作品より倍くらい多かったからです。
どんどん書いていくので、また読んで下さい。