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たけどら演劇脚本シリーズ

風邪ニ舞エッ!

「風邪ニ舞エッ!」作 六六



風岡風太/風香…カゼオカフウタ/フウカ…動きがうるさい。

高校教員の塚本先生…1年3組の担任。

シロイヌ宅急便の人…ノリが軽い。

NHKの人…破壊光線が出せる。

同級生の火口…女、心配性。

同級生の林部…男、毒舌。

同級生の山崎…女、ぶっきらぼうだが落ち着いている。

飼い猫のニャンキチ…男、悪ガキ感強め。


*主役、先生、宅急便、NHKは男女両方可です。

*先生の名前は何でもいいです。

*どの部分のネタもある程度削ることが可能です。




あらすじ。

風岡風太は奈良県に住むまぁまぁ普通の高校生。普通でないところと言えばアイドルグループ『TKD1000』の大ファンであることくらいである。

風太は明日にライブを控えている身。しかし翌日は生憎の平日であり、彼は前の日から学校に電話して休むことを伝えるほど意気込みは十分であった。

だが……それの願いは、いとも容易く打ち砕かれる。

へっくしょん! なんと風邪を発症! 目覚めた彼は衝撃を受ける。

ライブまでもう時間がない……何とかしないとやべぇぇぇ!!





ブル転。風岡家のリビングルーム。

電話のプルルル音、ガチャッと音。

中央で風太がスマホを耳に当てて先生と会話している。先生は舞台の下手側に立っている。


風太「あっもしもし?」

先生「……はいもしもし?」

風太「1年3組の風岡です」

先生「……あーうん、風太やろ、わかるわ。……何か用か?」

風太「えっとその前に、あなたは誰ですか?」

先生「いや何でわからへんねん! 担任の塚本やろうが!」

風太「あっはい塚本先生、落ち着いてくださいよ」

先生「なんか癪に触るな……で、何や、こんな時間に」

風太「明日学校休みたいんですけど」

先生「……ちょっとええか、風太?」

風太「はい?」

先生「それ深夜1時に俺の携帯にかけてまで言うこと?」

風太「……(悩む素振り)言うことですよねっ!」

先生「朝かけ直せっ! 眠いねんこっちは!」

風太「明日は風邪を引くんで休みます」

先生「話聞いとるか風太? 何やその未来予知」

風太「具体的には38度4分ほどを発症する予定です」

先生「いくらなんでも具体的すぎやろ」

風太「あっ、明日ってか正確には今日でした!」

先生「どっちでもええがな! とにかく風邪なんか実際引いてみなわからんやん。今の風太はとりあえず元気なんやろ? やったらあと5時間後にまた電話せぇ。それで38度以上やったら休んでもええわ」

風太「あざっす! あざっす! あざっす!」


風太は激しく連続で頭を下げる。


先生「野球部かお前は! まぁそんな都合よく熱出すとは思われへん」

風太「それじゃ!」

先生「! あちょ待……!」


風太は勢いよく電話を切る。

先生は引っ張られるように下手へ引っ込む。


風太「アチョマ……やって! むははははははは!!」


大袈裟にヘドバンしながら笑い転げる風太。

そのまま中央へ歩く。中央サスがつき、唐突に笑うのを止める。携帯をポケットに突っ込み、大袈裟なポーズを決めながら話す。


風太「……勝ち申したぁ! そして言質は取り申したぁ! こうなりゃこっちのもんやてせやかて工藤、5時間後にはバリバリの平熱やろうが構わんと休みの連絡したる! すまんなぁ塚本先生ェ! むはははははは!!」


笑い声の途中でバリバリのアニソンが流れる。笑うのを止め、機械的に姿勢を元に戻す。


風太「……おいおい、お客さん。頼むわぁ。これより前に注意あったやろ? 劇見とるときはな? 携帯くらいな? マナーモードにするくらい常識やんか? せやろ? まったくなぁ、これやから情報化社会は…………」


風太は少しの間の後考える素振りをして、携帯を取り出す。

アニソンの音量が大きくなる。


風太「ごめん俺の携帯やったわ」


風太は電話に出る。アニソンストップ。

サス消え、ブルーホリ。先生はさっきと逆の動作で出てくる。


風太「もしもし? なんや塚本先生かぁビックリさせんといてよ」

先生「お前は話を最後まで聞け! あと敬語!」

風太「もしもしございます? なるほど塚本先生なりか仰天させんといてくださいまし」

先生「お前に期待した俺がアホやった。そう、それでさっきの話の続きや。お前に対する警告でもあるからよー聞いとき」

風太「ふむふむ警告なりか」

先生「俺の担当は数学やから古典の話はNG。いやちゃうて! あんな、もしあと4時間58分後に俺に嘘付いて風太が学校休むとするやろ」

風太「先生几帳面すぎひん?」

先生「そうやなそうやな、さっきの電話は妙に綺麗な敬語使っとったから違和感あってん。お前は敬語使うようなキャラちゃうかったなそう言えば!」

風太「話続けてや、尺押しとんねん」

先生「せーやーかーらぁー! もし嘘付いて学校休んだらそれなりの罰を用意しとく! 覚悟しとけ!」

風太「あーあーはいはいそんな事かいな。あいあい、わかりゃっした~それじゃ」

先生「あちょ待……!」


風太は勢いよく電話を切る。先生は同様の動きで下手へ引っ込む。風太は中央へ歩き、サス付く。

セリフ始めと同時に大袈裟なポーズ。


風太「……先生アホ過ぎワロタァッ!! そんなもん見抜けるわけあるか? いいやナーーイ!! 見抜けるわけありゃせんわ! 俺は何も怖くない! アチョマ先生を恐れることはない! ……この風岡風太の名にかけて! 明日は『TKD1000』のライブで頭パーなるまで騒ぎ倒すんや! それこそ風邪が出るくらいな! むははははははは!!」


笑い声の途中からオープニングBGM、FI。

風太は適当にその辺に寝転び、寝始める。オープニングBGMを切りの良いところで終わらせ、朝の照明、鶏のコケコッコー、雀の鳴き声。

風太は寝返りを打ちながら寝言。


風太「んん……やめてぇ…………それ以上は……だめぇ…………そんなとこまで行ったら……後戻りできんくなる……ほんま、むりぃ…………iPhoneに、カメラ47個も付けんといてよ……頼むわぁぁ…………いや、待って……やめろやめろ、付けるなぁ……カメラ48個になるって……それはほんまに止めて……絶対売れへんからぁぁ………………ハッ!!」


風太は飛び起きる。


風太「はぁ、はぁ……悪夢や……。あっ、てか今何時や!?」


目覚まし時計を確認。


風太「んん……は、はっくしゅん! えーと、6時ちょい前。ライブは5時半からやから、せやな……塚本先生には悪いけどやっぱ学校は休ましてもろて、3時くらいまでは究極の惰眠を貪り尽くすとするか……」


風太のセリフの途中から飼い猫のニャンキチ(めっちゃ見た目人っぽい、猫耳)が四足歩行でキョロキョロしながら近づいてくる。風太はそれに気づき、少し驚く。


風太「うわっ……! お前はっ……!」


ニャンキチは風太の前まで行き、猫っぽい座り方をする。

毛繕いを始め、始めた瞬間に風太のセリフ。


風太「ニャンキチやんか~! どうしたこんな朝っぱらからぁ!」

ニャンキチ「にゃあああんっ」


ニャンキチは幸せそうな表情。


風太「どしたどした、そっかー彼女にフラれてその苦しみで寝るに寝られへんかってんなぁ可哀想にもーー」

ニャンキチ「…………は?」

風太「それでまた新しい恋を始めたいけどええ感じの相手が終わらんって!? むははは、猫の世界も大変やなほんまに」

ニャンキチ「は?」

風太「でも何とか出会いが欲しいからこの度婚活サイトに登録したって!? 猫の世界にもそんなんあるんやなぁ! なになに、ニャンキチよ、お前どこにスマホ隠し持っとんねん、ほれほれーー」

ニャンキチ「(本気で嫌そうな顔をして舌打ちを五回ほど)」


風太はニャンキチを豪快に撫で回す。

ニャンキチは吐きそうな表情で風太から逃れ、シャーッと威嚇。


風太「うおいおい、そんな怒んなって。どーどー」

ニャンキチ「あのさ」

風太「どーどー」

ニャンキチ「猫の世界にはな」

風太「どーどー」

ニャンキチ「彼氏彼女も婚活サイトもスマホも……」

風太「どーどー」

ニャンキチ「……テメェみたいな気持ちわりぃバカ野郎もいないってんだよ!! シャーッ!(威嚇)」

風太「え!? 今度は婚活サイトアクセス過多でサーバーダウンしたんか!? 大変やなぁ猫の世界も!」

ニャンキチ「テメェがいることが少なくとも俺にとって一番大変なことなんだよ!」

風太「まーまーそう怒んなっちゅーの」

ニャンキチ「テメェに猫語が通じてたら今頃しばき倒して東京湾と琵琶湖のどっちに捨てるか考えてたぜクズ! バカ! クソザコ!!」

風太「せや……」


風太は棚に置いてある猫缶を持ってくる。


風太「これニャンキチのために思って買っと……」

ニャンキチ「ご主人様、どうかそれを僕に下さい」


ニャンキチは華麗なる土下座。


風太「お、何か急に大人しなったな……むはは、さてはこれが欲しかったんやなぁ? 朝っぱらから食欲旺盛な猫やわ」

ニャンキチ「お願いご主人様! それを! 僕に! ちょーだいください寄越せやゴルァ!!」

風太「うわ、また機嫌悪なった。情緒不安定やなニャンキチ? それでも風岡家の猫か? ん? ん??」

ニャンキチ「ぐっ……! 堪えろ……堪えるんだ俺……! その猫缶さえ貰えれば、いいんだから……!」

風太「うわぶっさいくな顔」

ニャンキチ「……」


しばらく沈黙。


ニャンキチ「あああああああ!! もうテメェを倒してでもぉぉぉぉ!!」

風太「ぎゃ、痛った!」


ニャンキチは風太を押し倒し、額を引っ掻く。

風太は倒れ、ニャンキチは猫缶を強奪。ニャンキチは痛がっている風太を眺めながら首を傾げる。


ニャンキチ「……? 今引っ掻いた時に気付いたんだが……なんだ、テメェ…………もしかして」

風太「いたたたた……畜生、ほんまにニャンキチはこういう時乱暴な子やねんから…………ん?」


ニャンキチは座り込んでいる風太の背後へ回り、耳元で囁き続ける。


ニャンキチ「熱出てるぜ、テメェ。熱出てるぜ、テメェ。熱出てるぜ、テメェ……(小さい声で続ける)」

風太「な、なんや、なんやなんやなんや! なんやこの、気持ち悪い囁きボイスは! こんなんYouTubeで聞いても何もゾワゾワせんしキュンキュンもせんし……! なんや、これ……うぅ、熱……出て、るぜ……テメェ…………? 熱、出てるぜ、テメェ。熱出てるぜ、テメェ。熱出てるぜ、テメェ……(ニャンキチと合わせて何回か続ける)」


風太は突然ハッとした表情をして手を叩いて立ち上がり上手へはける。左手に猫缶を持ったニャンキチは四足歩行で下手側まで歩いていき、はけ際に缶をちらっと見て一言。


ニャンキチ「おっしゃ成功だぜぇぇ!! みゃあああ!」


ニャンキチはぴゅーんと下手へ去っていく。

風太が体温計を手にして戻ってくる。体温計を脇に挟み、3秒くらいでピビピピと音が出る。


風太「さすが3秒体温計……時代がちゃうな、やっぱ」


風太は後ろを向いて体温計を確認する。


風太「……もしかして思って。そうやって熱計ってみたらどうや」


くるっと振り替えってニコッと笑い、


風太「38度6分やって! むはは!(体温計を膝でバキッと粉砕する)あああああああああ!!」


風太はヘドバンしながら絶叫。


風太「こんなん……あんまりやっ! 何でほんまに熱出さなあかんねん! 嘘から出た実ってかあーもう知らんわそんなん! このままやったら……このままやったら『TKD1000』のライブに行かれへん! せっかく六時間並んで30000するチケット買うたのにか!? あんまりや! そんなん許されへんで風岡風太ァァァァ!」


叫びの途中から、笑点のテーマが流れる。風太は驚き激しく咳。

咳が治まると、大きくため息。


風太「……あんな。俺今落ち込んどるんよ。携帯のことはさっきゆうたやんか。な? お願いやから静かにしてくれ…………」


風太はうんざりした顔で歩いていく。

粉砕した体温計を床に捨て、踏みつけながら固定電話の側へ。


風太「……はぁ」


風太は固定電話を取る。笑点のテーマストップ。

先生が舞台の下手側に出てくる。


風太「もしもし?」

先生「おい風太、電話してくんの10分遅刻や」

風太「どこまで行っても几帳面なんやな」

先生「どうした風太、まさか寝起きか? 声にいつもの鬱陶しい張りがないやないか」

風太「鬱陶しいは100パー余計や。……えーとな、塚本先生」

先生「ん、なんやねん急に改まって」

風太「先生、風邪っぽい。熱出てん。学校休む」


少し沈黙。


先生「へっ、嘘つけ」

風太「ほんまやってぇぇぇ!!」

先生「そう言われて何回騙されたっけなぁ確かそう21回! 前例があんねんよ! もうだまくらかされへんぞ!」

風太「騙され過ぎや先生! てか、今回はほんまやねん! 38度6分や! 頼む、無断欠席にはしやんといてくれ!」

先生「5時間前は38度4分ゆうとったん俺覚えとるぞ」

風太「2分違いやけども! うわ、こんなん俺が嘘ついてるみたいやんか!」

先生「いやいや、嘘ついとるんやろ?」

風太「ちゃうわ! もーほんまに頼むわぁ……!」

先生「はいはいわかったわかった、無断欠席にはしやんといたる」

風太「え、マジで先生?」

先生「マージマジマジーロや。但しその代わり……」

風太「……」

先生「今度の期末テストの風太の合計点から1点引いとく」

風太「良心的やなぁ! これもう22回騙されたんと変わらんやろ!」

先生「し、しまった騙されたッ!!」

風太「何に!? ここまで来たらもう先生わざとやってへんか!?」

先生「風太、俺はそろそろ職場に向かう。まぁ家で安静にしとき。間違ってもアイドルのライブなんかに行くんとちゃうぞ」

風太「え、あ……あぁ、行くわけ、ないやんかー。はは」

先生「ん、そんじゃーな」


電話が切れ、ツーツーと音。風太は固定電話に受話器を戻す。

先生は下手へはける。

風太は下手の方を向き、手を頬に添えてニャンキチを呼ぶ。


風太「ニャンキチー、ニャンキチー!」

ニャンキチ「うにゃああああ」


ニャンキチは二足歩行で走ってくるが「あ、やべ」と呟き、慌てて四足歩行に。風太は気づいていない。


風太「急いで冷えピタ持ってきてくれへんか!」

ニャンキチ「にゃん!」


ニャンキチは下手へ。


風太「非常事態や。5時半……いや、3時までには何としてでも熱を下げんな……ライブで頭パーできひん。ていうか今が頭パーや。何かよう考えたらぼやっとしてる気するし……。くそ、何が原因やっちゅうねん……」

ニャンキチ「(下手袖から)にゃー」

風太「ん、持ってきたみたいやな」


ニャンキチは頭に冷えピタを貼って登場。


風太「お前猫の癖に器用やな!? ちゃうわ! 俺の分! 新品持ってきぃ!」

ニャンキチ「は? 嫌だし。もう猫缶の分の恩は返したつもりなんだけど」

風太「(ポケットから猫缶を取り出して)これ後であげるわ」

ニャンキチ「いってきまーーすっ!」


ニャンキチは二足歩行で走っていこうとする。


ニャンキチ「あ、やべ」


ニャンキチは四足歩行で下手にはけ、セリフ。


ニャンキチ「猫缶ぱーらだーいすっ!」

風太「……ふぅ。さて、頭冷やして考えてこか」


場面転換用BGM(オープニングテーマ流用も可)。

風太は下手にはける。ホリは朝から昼のイメージに変化。

BGM FO。

戻ってきた風太は額に冷えピタを貼っている。ニャンキチも戻ってくるが、額のみならず両側の頬にも冷えピタを貼っている。


風太「(中央へ歩きながら)ニャンキチも一応冷やしといた方がええかな思ったけどやりすぎたかなぁ」

ニャンキチ「やりすぎだバカ! クズ! ドジ! クジラ!!」


ニャンキチは上のセリフを言いながら猫パンチ。しかし全てのパンチを偶然かわされる。

それを目の当たりにしたニャンキチは信じられないという表情。その表情のまま、舌打ちを50回くらいしながら上手へはけていく。


風太「さて……親も仕事行ったし、ヨーグルトも胃の中に押し込んだし……。もう一回」


風太は持ってきた体温計(さっきのと別個体)を脇に挟む。6秒くらいでピビピピと音。


風太「ちょっと遅いな……後で電池換えとこ……」


風太は体温を確認する。


風太「39度2分! むはははは!(急に絶望した顔をして)…………何で上がっとんねんこんちくしょーっ!!」


風太は体温計を床に叩きつけ、「フンッ! フンッ!」と数回踏み潰す。ボロボロになったそれを拾って手で引き千切りながらセリフ。


風太「上がってどうする! 俺は何としてでもライブ開始の二時間くらい前……そう3時! それまでに平熱にせなあかんねやろーが! あと六時間しかないんやで! 対策を考えるんや風岡風太……!」


床にあぐらをかいて座る風太。しかし座った直後に笑点のテーマ。風太は気付きつつあえて無視するが、堪えきれなくなって受話器を取る。先生が下手に立つ。


先生「おい風太、ちょっとええカァァァァァ!?」


風太は即座に受話器を戻す。先生は驚き下手へ引っ込む。

それを確認した風太は元の位置でまた座ろうとするが、座る直前にまた笑点のテーマ。渋々電話を取る風太。先生が出てくる。


風太「……はい?」

先生「酷いやんか風太ぁ、俺とお前の仲やろう? 即切りは流石に俺も堪えるで……」

風太「……確か今日って一時間目数学やんな?」

先生「せやな」

風太「てことは?」

先生「あぁ、もちろん授業中に電話しとる!」

風太「教師クビになれ」

先生「バレんかったら犯罪、いや違反とちゃうねんぞ。まぁ風太の企みは俺に筒抜けもええとこやけどな」

風太「筒抜けどころか先生は間抜けすぎや」

先生「こんな時間に電話したんは他でもない、放課後の事や」

風太「放課後?」

先生「そう放課後。風太の家に今日配ったプリントとかノートの移しとかお前宛のラブレターとか、お前の友達に届けに行かそ思てな。三人もいるかなぁ思ったけど、本人らが名乗り出てきて……林部、火口、山崎やねんけど……あちょ待、お前ら、おい……!」


先生は下手から出てきた三人組に引っ張られはける。

三人組の林部、火口、山崎は電話を奪取。


林部「げふんげふん、マイクテスマイクテス……聞こえとるか風太。さっきの、ラブレターは嘘な。お前にそんなもんくるわけあらへんバーカバーカ」

風太「は? 林部お前なめとんかボケ」

火口「風太ぁ! みんな超心配しとんねんで! 学校来てよー!」


火口の声が大きく、風太は少し受話器を耳から離す。


山崎「火口、落ち着き。塚本先生が言うに、熱出したんやろ風太。ウチが林部火口と一緒にあれこれ届けに行くついでに看病したるわ」

風太「え!? あ、あぁー……うん、せやな」

先生「こーらっ……!」


先生は三人から電話を何とか取り戻す。

三人は渋々引っ込む。


先生「ちゅうわけや。ほな、あとよろしくな」

風太「えちょ待!」


先生は電話を切って「じゃー授業戻るでー」と言いながら下手へはける。風太は頭をかいて「やばいなぁ」的な顔。


風太「どうしよ……。あいつら、来るとしたら4時くらいか? 熱下がってたらライブ行っとるし下がってなかったらなかったで大分しんどいやろうし……めんどくさいことになったなぁ……」


突然ウェディングベル(教会の鐘)が鳴る。

しばらくしてもう一度鳴る。


風太「これは……」


またウェディングベル。そしてウェディングベル五連発。

下手から声。


宅急便「ちわーっすお荷物お届けに参りましたぁ~っ」

風太「インターホン鳴らしすぎやうっさいなぁ……」


風太は判子を持って下手へ。ドアが開く音。

下手袖で会話。


宅急便「シロイヌ宅急便でぇーっす。判子はここに……あー、まぁ3つくらいポンポンって押しといてくださいー」

風太「色々雑な宅急便やな……はいよ」

宅急便「ありゃりゃっした……あれ、風岡さん? 判子一回しか押してないじゃないですか」

風太「本気やったんかい! ほら!」

宅急便「あーあー、駄目じゃないすか四つも押しちゃー……」

風太「(怒りのため息)消せばええんやろ消せば……!」

宅急便「ほいー、今度こそありゃりゃっした~。それじゃこれお荷物です。どぞー」

風太「はいどーも」


ドアが閉まる音。風太は段ボールを持って戻ってくる。

それを上手よりの床に置くと、今度はウェディングベルがリズムよく押される。風太はしばらく聞いているが、タイミングを見て歌ってみる。


風太「君の前前前世から僕はー君を探し始めたよーって地味に懐いな! 2016年やぞあの映画!」


風太は鬱陶しそうな顔で下手へ。

ドアが開く音。


宅急便「すいませーん、やっぱ判子4つで合ってました」

風太「あっそ!!」


風太は早足で判子を取りに舞台に戻りまた下手へ。


宅急便「ありゃりゃっした~」


ドアが閉まる音。


風太「ふぅー……! やっと終わったかこのくだり……!」


風太は舞台に戻る。

しかし、後ろを宅急便の人が着いてくる。


風太「いや何でおんの!?」

宅急便「えー、何となくっすかね。まぁこの後の配達予定もなかったんで」

風太「リビング! ここリビングやぞ!! しかもおま、土足やんけ!」

宅急便「安心してください、ハンカチなら持ってますから」

風太「ハンカチかー……! ハンカチで済むんかなー……!?」

宅急便「あ、ティッシュの方がいいっすかね?」

風太「ハンカチでええからはよ出てってや! こっちは熱出てんねんぞ!」

宅急便「あっ、じゃあ明日の仕事休みたいんで移してくださいよ」

風太「ごめん俺あんたみたいな大人には絶対なりたないわ」

宅急便「あ、そっすか」


宅急便はあぐらをかき、風太を差し置いて座り込む。

それを呆れた表情で見つめる風太。

するとニャンキチが下手から登場、冷えピタは全て外れている。


宅急便「……お? 風岡さん、猫飼ってるんすか?」

風太「……まぁな」

宅急便「名前は?」

風太「ニャンキチ」

宅急便「へぇー……可愛いっすね。恋しちゃいそうです」

風太「ここまで軽いと軽口も空に浮かんで飛んでくんちゃうかな……」

宅急便「撫でて良いっすか?」


風太は「まぁええか……」的に頷く。

宅急便はニャンキチの頭を叩くように撫でる。

ニャンキチは嫌そうな顔をして宅急便の額に猫パンチ。宅急便はうろたえる。風太は満足げ。


ニャンキチ「こいつは平熱だな……」

宅急便「お、お宅の猫、狂暴ですね……」

風太「こういうやつやからあんたに撫でるのを許可したんやで」

宅急便「あれぇ、信頼がないっすね?」

風太「逆に土足でリビングに上がり込む宅配人のどこを信用すればええねん」

宅急便「ご迷惑お掛けしたならシロイヌ宅急便に電話でもしてくださいよ。僕の上司が困るだけなんで」

風太「あんたの上司に迷惑かけたくないから電話はしやん……」


ニャンキチは上手へ歩きだす。


ニャンキチ「人間って、怖いぜ……」


ニャンキチは上手へはける。


宅急便「ところで風岡さん、熱出してるって言ってましたよね」

風太「ゆうたっけな、イライラして忘れてもうたわ」

宅急便「そう、あとはとてもイライラしてます」

風太「誰のせいや思っとんねん」

宅急便「もしかして、この後なんか絶対行かなきゃ駄目な用事でも?」

風太「……何でわかったんや?」

宅急便「伊達に人の顔を毎日眺めて回ってませんからね」

風太「ほーう。……じゃ、その用事ってなんやと思う?」

宅急便「さぁ……TKD1000のライブとかっすか?」


風太は驚愕して宅急便から飛び退く。


宅急便「まぁ、僕も一応ファンじゃないことはないんで。玄関にこれでもかってポスターが貼られてたんで解りましたよ。今日はぴぃちゃんの初ステージでしたっけ」

風太「うお、おう……あんた、何やわかっとるやないか……」

宅急便「そうですかー、その身で今日は熱を? これはこれはお気の毒に。このままだとチケットが無駄になってしまいますね」

風太「……やから、何とかして熱を下げなあかんねんよ。こんな元気にお喋りに興じてる暇は、ほんまはあらへん」

宅急便「じゃあ、風岡さんの熱を一気にギュインと下げる方法をお教えしましょうか?」


風太は宅急便の近くにささっと座りに行く。


風太「マジでかあんた?」

宅急便「マージマジマジーロっすよ」

風太「教えてくれ! 頼む!」


風太は壮大な土下座。


宅急便「頭を上げてください。んじゃ、まずは例のチケットを10秒以内に持ってきてください」

風太「待っとき」


風太は上手にチケットを取りに行く。


宅急便「じゅー、きゅー」

風太「ほれ!」

宅急便「うわはやーい」

風太「それで、どうしたらええ?」

宅急便「なるほどなるほどー、それじゃあ風岡さんに簡単なテストを行います。見事全ての質問に即答できたならば、その方法をご教授しましょう」

風太「よし、どんとこいや!」

宅急便「第一問。TKD1000のTKDは何の略?」

風太「時! 空間! Dimension!(三つともポーズを付けながら)」

宅急便「その通りです。それでは第二問」

風太「おう!」

宅急便「TKD1000の1000はどういう意味?」

風太「特に意味はなく結成当時のメンバーで適当に付けられた!」

宅急便「流石です。それでは最終問題。TKD1000の5枚目のシングル『BAIGYOUGI☆WARUI!!』のMVにおいて、サビ部分で右から3人目の位置で歌っていたのは誰?」

風太「ホタテちゃん!!」

宅急便「お見事!」


宅急便は拍手、風太はガッツポーズ、歓声のSE。


宅急便「それではチケットを預かります!」

風太「おう!」


風太はチケットを宅急便に渡す。


宅急便「それじゃー熱をドガガガギュインと下げる方法を試してみましょう……こっち、来てください」

風太「わかった!」


二人は下手へはける。


宅急便「熱を下げる画期的な方法、それは……」

風太「それは……!?」

宅急便「こうするんす、よっ!!」

風太「……なっ!?」


打撃音、その他ボコしてるSE。

ドアが開いて閉じる音。鍵をかける音。

宅急便が一人でリビングに戻ってくる。宅急便は中央にうつむき気味のまま歩いていき、中央に着いたら止まる。


宅急便「……ふふふふふ」


宅急便は両手を天空に向かって広げる。


宅急便「ふははははははは!! 今日はなーんてついてるんやろうか! こんなことあるか!? 流石に六時間もかけて30000円するチケット買われへんて! やのにこんな形でチケットが手に入るとはな……! ファンじゃないことはない!? とんでもない! 僕は根っからTKD1000の大ファンなんだよォ!! ふははははははは!!」


インターホンが鳴る。

宅急便は下手を見てセリフ。


宅急便「もう遅いわ! 鍵かけたからなぁ! 僕は裏口かどっかから退散させて貰うとするで……!」

NHK「(下手から)すいませーん、NHKですー。集金に来させて頂いたんですけどもー」

宅急便「は……? NHK? また変なタイミングで変なやつが来おるな。おいNHK! 外に高校生くらいのボウズが居るはずや! そいつはどないしてる?」

NHK「……え? そのような方は……はい、いらっしゃいませんね」

宅急便「……? まぁええわ。今行く」


宅急便はチケットをテーブルに置いて下手へはける。

風太はNHKと宅急便が会話しているのを良いことに上手からそろりと出て来てチケットを探す。チケットを発見して喜ぶが、二人の会話を聞くにつれ、顔色が怪しくなる。


NHK「こんにちは。あ、いや、おはようございますですかね。11時ですか……ややこしい時間帯です」

宅急便「まぁせやな。……集金来たゆうとったけどすまんな、僕、この家の人ちゃうから」

NHK「え? いやいやいやまたまたまたぁ! そんなことないじゃないですか! そういうのは、家の持ち主が私たちNHKから逃れるためにする発言ですよ。もしお金を頂けないようなら破壊光線ぶちこみますよ」

宅急便「いやほんまやって……! ちゅ、ちゅーかこの家、さっき見たけどテレビなかったぞ」

NHK「えぇ? そんなことないですって。この規模の一軒家ならない方がおかしいですよ。……ちょっと中入らせてもらいますね」

宅急便「え、あ……! 待ちぃ! やめろやめろ、めんどくさいって……!」

NHK「あーもう焦れったい! そこ! どいてくださいっ!!」

宅急便「は!?」

NHK「波ぁぁぁぁぁ!!」


破壊光線SEからの爆発音。ホリは赤色にチカチカ。

風太は破壊光線をモロに食らい、悲鳴を上げて上手へぶっ飛ばされる。

NHKと宅急便は下手から入ってくる。NHKはバナナを食べている。


NHK「炎タイプの破壊光線ですよ。おじゃましますね」

宅急便「破壊光線嘘ちゃうかったん!? てか普通はノーマルタイプやろ……」

NHK「あ、やっぱテレビあるじゃないですかー!」

宅急便「……あぁ、めんどいなぁ」


ウェディングベル連続で鳴る。

下手から声、二人はそちらの方を見る。


火口「風太ぁぁぁぁ! 来たでぇぇぇぇ!」

林部「うるせぇ火口バーカバーカ」

山崎「林部、火口、二人とも落ち着け。風太? おるやろっ……て、何でドアが潰れたクリームパンみたいになっとんの?」

林部「どうせ風太がやったんやろ。あいつアホやから」

火口「風太そんなことする?」

林部「するやろ」

火口「するかどうかっちゅーか、普通はできひんと思うねんけど」

山崎「どっちにしろ何かあるんは間違いなさそうやな。とりあえず、中入ろか」


三人は舞台へ。山崎の後ろに火口と林部がくっついてくる形。


林部「ふーうーたっ、遊びっましょ」

火口「林部あんた鬼やな……」

山崎「火口やって、早く風太に会いたくて早退する言い出したんやろ。それに優しいウチと林部が賛同したって、三人揃って早退っていう素晴らしくもおかしいこの状況が完成したというわけや」

火口「うっ、まぁそりゃそうやけどー」

山崎「そのせいでプリントもノートもラブレターもくそもないけどな」

林部「火口のせいやバーカバーカ」

火口「ウチのせいちゃうよ! どっちかと言えば着いてきた山崎と林部のせいやって!」

山崎「はいはい。……で? そこにいるお二人は誰ですか?」

宅急便「あっ……」

NHK「あっ……」


宅急便とNHKは顔を見合せた後「ははは」と力なく笑う。

二人は上手側でこそこそ離す。


宅急便「一旦休戦や。こんなとこ近所に言い回されたら僕ら終わりやで!」

NHK「わ、わかりました。私に任せてくださいよ」


NHKはバナナを一かじり。

こそこそを解除し、三人に向き直る宅急便とNHK。


NHK「ちょっと事情を説明しよか。ドアの事とか、君たちのお友達の事とか……うん、ちょっと、玄関まで行こ。もし説明させてくれへんかったら、君たちからも徴収するで受信料」

火口「山崎、アイツなんか怪しくあらへん?」

林部「NHKの集金人やな。お金むしり虫の」

山崎「いや……家の中で逃げ道を防がれるよりも外の方が安全や。ここは警戒しつつ従った方がええ」

NHK「よしよし、じゃあ行こか」


宅急便は上手側を向いて座る。

三人組とNHKは下手へはける。


NHK「じゃあ、ちょっと説明する……と! 見せかけてぇ!!」

火口「え、え!?」

山崎「な!? まさか!」

林部「おい、何か来る!」

NHK「受信料払え払えビーームッ!!」


破壊光線SE、爆発音。ホリは点滅。

下手はシーンとする。それを聞いて少しビビる宅急便。


宅急便「技名だっっさ……」

NHK「な、何ぃ!?」


下手からNHKが後退りしながら舞台に入ってくる。

NHKは全ての破壊光線を受けきり、三人を守った英雄、塚本先生を見ている。塚本先生の後ろを無傷の三人が着いてくる。

塚本先生はボロボロ(血が出ている)。


先生「ぐっ……生徒を守るのが、先生の使命や……!」

火口「せ、先生! 怪我ヤバいって!」

林部「まさか、ここで先生が来るとは……」

山崎「何で先生がここに!?」

先生「(三人を向いて)俺も、三人と、風太が心配やったから……早退した(サムズアップ)」

火口林部山崎「塚本先生っ……!!」

先生「お前やな……俺の生徒にスペシウム光線撃ったのは……!」

NHK「ひっ!? や、やめろ来るな! 徴収、徴収するぞぉぉぉ!」

先生「だあああああああ!!」

NHK「がっ!?」


先生渾身のパンチ、NHKは気絶してぶっ倒れる。


宅急便「……あの、どちら様で?」

先生「この家の子の担任や!」

火口「名をば」

林部「塚本先生となむ」

山崎「言いける」

宅急便「……ど、どないなっとんねん。てか、何やこの状況は! 一体何なんや! 説明せぇ! おい! 風岡! 風岡ぁ!! 出てこい!!」


ピビピピと体温計の音。

上手から体温計を持ったニャンキチが出てくる。

続いて死にかけの風太がフラフラと出てくる。

舞台にはぶっ倒れたNHK、訳がわからないといった顔の宅急便、ボロボロの先生、そして心配そうな火口、林部、山崎。


風太「……俺、ただライブに行きたかっただけやのに……何が、どうなってんの…………」


風太はゆっくり倒れ、三人と先生は「風太ぁ!」と叫ぶ。ニャンキチがため息をついて体温計を火口に渡し、ニャンキチ以外の倒れていない全員が集まる。


全員揃って、

「ご、52度ぉ!?!?」


エンディングBGM。

先生と三人は慌てる仕草、宅急便はそれを呆然と眺める。

ニャンキチの台詞を聞かせるため、ここは口パク。


ニャンキチ「正にオーバーヒート。結局、みーんな1つの風邪に踊らされたってことか、にゃ? ……はっ、はっ……! へっくしょんっ!」


くしゃみと同時に暗転。


END

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