3.老獪に挑めよ、若人②
エリア・ダルム古戦場跡。
広大な荒地は名前の通りかつての古戦場跡らしく、そこには散って行った者達の怨念が渦巻いている、らしい。
レベル適正は40〜50くらい。
オレから見ればさして強くもないが、周りにとっては適正なフィールドであるだろう。
ちなみにエリア〜と地名が出て来るが、特に意味はない。ただ歩いていて、ふとメニューの現在地欄を見るとエリア名が変わっていたなどという事もざらにある。
「さて、どうする?各々でスケルトンを探すか、固まって探すかだが」
メルクリウスがそう言った。
クエスト「老獪に挑めよ、若人」は基本的に三段階に分けられる。
勿論その最後が《魔導師アルクトゥルス》との戦いになるわけだが、その一段階目は、この平原のどこかにいるスケルトン達を見つけて殲滅する、というものだ。
しかし、何処にいるかはランダムなので、見つけるまでに時間がかかる。
バラバラになって探索すればその分骸骨兵が見つかる可能性も高くなるが、そうするとイベントであるパーティーウィークの恩恵が受けられなくなる。
なので、メルクリウスはどちらにするか聞いた訳だ。
まぁ、当然一択だが。
オレの目的はハナからパーティーウィークと『クォーツオブブラスト』にあるので、ここでバラバラになる訳には行かない。
故に、「一まとまりになって探索する」に一票を入れる。
「オレは固まって探す方に一票」
「オレもリップに賛成だ。パーティーウィークもあるしな」
オレがそう言うと、ドルフも同じ意見だったようだ。
「ふーん。じゃ、わたしもそれでいいよ」
そんな二人を見て、ヤマダもそれに同意。
メルクリウスはあっさり決まるとは思わなかったのか、少し拍子抜けした顔をした。
「じゃあ、決まりだな」
四人で固まりながら進んでいく。
途中で、ライオンの様な姿をしたモンスターに遭遇するが、あっさりと撃破。
というか、接敵した瞬間全員が攻撃するので、相手は死ぬ。
メルクリウスも盾役ではあるが、この平原でパーティー単位で苦戦するようなモンスターは全くと言っていいほど居ないので、いちいち防御する必要も無い。
オレは火力の差でレベルがバレるのを嫌い、手加減していたが、それでもサクサク進んだ。
ステータスなどの数値でダメージが決まる一般的なゲームとは違い、マジスレは手加減できる。
それは武器の握り方だったり、MPの込め方だったりと、様々だ。
ここまで作り込んでいると、ぶっちゃけ、段々とこのゲームは異世界なんじゃないかと思い始めてくる。
まぁ、そんな事があるはずも無いが。
「おっ」
探索すること十分程。
オレは視界の端にスケルトンの姿を捉えた。奴らは群れており、雑に数えても百は下らないだろう。
小さく声を漏らすと、ドルフがそれに反応する。
「ん?リップどうしたよ」
「あっちの方にスケルトンがいる」
「おぉ?オレには見えないが」
「オレは一応斥候役だからな。遠くまで見える」
「なるほど」
一行はオレの言葉を信用してスケルトンのいる方へと向かっていく。
スケルトンとの彼我の距離があと僅かとなった辺りで、メルクリウスが口を開いた。
「いちいちスケルトンを一匹ずつ相手するのも面倒だ。範囲技を使って倒そう」
「元よりそのつもりだぜ」
「わたしもー」
「了解」
短く返事をし、オレ達は戦闘を開始した。
「【狂信の弾圧】!!」
メルクリウスがスキルを発動し、雄叫びを上げる。
スキル【狂信の弾圧】は使用者の範囲十メートル以内のモンスターを呼び寄せるスキルであり、盾系スキルツリーレベルニで使用可能となる中級スキルだ。
モンスターは基本的には誰を攻撃するかを憎悪値という数値で判断しており、このスキルはその憎悪値を自らの下に一身に稼ぐ。
「かかってこい、カルシウム共!」
盾を構えたメルクリウスに向かって、ぞろぞろと動き始めたスケルトンを他所に、ヤマダが節くれだった木の杖を上に向け、杖から光を放った。
「いくよー、【アローレイン】」
放たれた光は空中で無数に分かれて、矢の形となってスケルトンへと降り注ぐ。
それだけで、スケルトン達は結構なHPを持っていかれる。
「よっしゃあ!【ソードテンペスト】ォォ!!」
溜めを作る体制から、ドルフが勢いよく大剣を振り抜いた。
剣先から、薄赤色の風が竜巻状に吹き、やがて炎をやどして火柱を上げる。
エフェクトが火という事はつまり、ドルフの持つ剣は火属性なのだろう、とぼんやりと考えながら、オレもスキルを放った。
「【地縛】」
地面に短剣を突き立てると、短剣の周囲の地面が割れたようなエフェクトが走り、そこから褐色の鎖が何本も飛び出した。
短剣系スキル、【地縛】。
文字通り、敵を地面に縛り付けるスキルだ。
鎖はスケルトン達に絡み付き、ダメージを与えると同時に動きを止める。
そしてスケルトン達が硬直した瞬間に、ドルフが放った炎の竜巻がスケルトンを粉々に破壊した。
「おう、余裕だな」
「そりゃーまあ、こんだけ一斉に攻撃すりゃねー」
大剣を肩に担いだドルフに、ヤマダが気の抜けた返事をした。
「よし、無事『魔導師の紋章』をゲットした。次に行こう」
スケルトンが破壊された後、その残骸を漁っていたメルクリウスが戻ってきてそう言った。
マジスレではドロップアイテムというものが存在する。それらはモンスターやNPCを殺した際に自動的にメニューのアイテムボックスへと送られるが、稀にそうでないものもある。
例えば採掘系アイテムなどがそれだ。
そして、クエストに必要なキーとなるアイテムも自動的にアイテムボックスには送られない。
「クエストのキーアイテム、『魔導師の紋章』はその一つであるという訳だ」
「ん?リップ、何言ってんだ?」
「……いや、何でもない」
聞き流せ、ドルフよ。
オレは顔を背けた。
ちなみに、プレイヤーを殺してもアイテムはドロップしない。精々経験値が心持ち多目に入ってくるだけだ。
プレイヤーをキルして得られるメリットは、経験値と、僅かな名声と、達成感だけなのである。
世知辛い。
さて、そんなこんなでクエストは第二段階へと進んだ。
次は魔導師アルクトゥルスの住処に侵入するという犯罪的なミッションだ。
ストーリー的には間抜けな、もしくは自己顕示欲の強いアルクトゥルスは各魔導師につき一つある『魔導師の紋章』から正体がバレるというしょうもない話だが、そこはどうでもいい。
ガンガン不法侵入をキメていく訳だが、腐っても名前に魔導師が入るボスモンスターだ。
その棲家も尋常ではない。
奴はダルム古戦場跡の南の方にある洞穴に住居を構えているのである。
正直言ってキチガイであるが、まあ、そこはゲームだからな。
そんな奴もいてもいいだろう。
オレ達はダルム古戦場跡を移動し、キチガイの家の前に立っていた。
入り口は狭いが、中は割と広いようだ。
「さて、行こうか」
「りょー」
「おう」
メルクリウスの号令に従い、パーティメンバー達は続々と洞穴に入っていく。
その最後尾であるオレは、背後を警戒する役割である。
オレはアイテムボックスから愛用しているマチェットを取り出して、短剣を代わりにアイテムボックスに仕舞った。
アルクトゥルスの棲家にも当然モンスターはいる。
スケルトンだ。
設定的にはアルクトゥルスが作ったものなんだろう。
マチェットに武器を変えたのは、短剣ではスキル無しの場合スケルトンと相性が悪いからである。
この場合だと、短剣よりも殴打も出来るマチェットの方が強い。
「あれ、武器変えた?」
「ああ、こっちの方がいいかなと思って」
「そっかー」
振り返って、目敏く武器の変更を見つけてきたヤマダに適当に返事をする。
「暗いねー」
「まあ洞穴だからな」
しかしいくら洞穴とは言え、家の中でモンスターを徘徊させるなど、やはりアルクトゥルスは頭がおかしいのだろう。
そして、そんなキャラクターを作った運営も頭おかしい。オレは、運営には一人は確実に狂人がいると踏んでいる。
運営死ね。
「来たぞ!【狂信の弾圧】!!」
「おっしゃ、やるぜ!」
「はいよー」
「オーケー」
そんな事を考えながら、早速現れたスケルトン相手に、オレ達は攻撃を開始するのだった。