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マジ狩ル・プレイヤー・オンライン  作者: 山縣元隆斎三十六ノ助
プロローグ
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プロローグ

書きたくなったのでつい書いてしまいました

 



 蹴飛ばす。

 蹴散らす。


 朝露に濡れ、水分を含んで湿った苔を踏みつけて、樹から樹へと、跳ぶ。


「……ッ!」


 着地。

 成功の余韻に浸る事無く、運動エネルギーをそのまま次に生かすように、跳ぶ。


 鬱屈とした森の中に、僅かに差し込む斜陽だけが、唯一の明かりだ。まばらに射すそれを辿るようにして、さらに跳ぶ。


 幾多の木々を飛び移り、他の樹より大きめの樹に乗り移った所で、オレは漸く足を止めた。


「居た」


 オレが飛び乗った樹。

 他の樹とは異なり、この樹だけが根元の辺りが開けた広場のようになっている。


 そこはこの薄暗い森の中で、ぽっかりと開いた空白地帯。

 太陽が一番差し込む場所だ。


 その広場の中央に、黒色の小山がある。

 その小山は規則正しく上下しており、時折漏れる唸り声にも似たいびきが、それが生き物であることを示していた。


 《三日月の暴狼クレセント・タイラント)》。

 全長が軽く五メートル以上はある、黒い巨大な狼だ。

 その毛皮は美しい艶を放ち、天鵞絨びろうどのような滑らかさを誇る。

 胸には白い三日月状の模様を持ち、黒い体毛が夜空のように輝くのも相まって、小さな夜天を形相していた。


 しかしその美しい外観とは裏腹に、その性能はえげつないの一言。

 内包する経験値分だけ、そう簡単には倒させないとでも言いたげな、厄介なモンスターだ。


 そしてこのモンスターこそがこの世界――即ち、マジカル・スレイヤー・オンラインというゲームにおいて、プレイヤー達が到達し得た現状の最前線。

 そして、未だに踏破された事の無い、現状最強のボスモンスターでもある。


 だがオレは、この馬鹿デカい狼を狩るつもりなど毛頭無かった。


「………来たな」


 研ぎ澄ませていた聴覚で、微かに鳴った苔と木の葉を踏みしめる足音を捉える。

 続いて聞こえてくる、楽しげに談笑する声、弾む吐息、ガチャガチャと武具や防具が鳴らす音。


 どんな些細な現象でも細部まで再現する圧倒的なグラフィックとデータ量に感謝しつつ、オレは獲物の到来を悟った。


「メニュー」


 そう呟きながら右手を小さく下から上へ振ると、オレにしか聞こえないらしい軽快な音と共に、目の前に三十センチ四方ほどのウィンドウが出現する。


 このウィンドウ、通称“メニュー”は、普通のRPGで言うところの、ステータスやらアイテムバッグやらその他諸々を一つにまとめたみたいなものだ。

 また、メニューの設定を弄らなければ、基本的に自分のメニューは他人に見られる事は無い。


 オレはソレに指をなぞらせ、操作する。


 すると、瞬時にオレの服装が変わる。

 今まで着ていた、忍者が着るような黒装束から、刺々しいデザインの、蔦が纏わり付いたような意匠が施された軽鎧へと。

 頭部には頭を全て覆う形のヘルムが現れる。

 そして手には、オレの身長ほどもある長弓が握られていた。


 腰に取り付けられた矢筒から矢を引き抜いて弓につがえて、オレはその弓を弦の限界まで引き絞る。


 その体勢で待つ事十秒近く、漸くオレは先程聴覚で捉えた存在を、視覚で捉えた。


 それらは、それぞれが色取り取りの異なる武装をしている、人型の存在。

 つまるところ、プレイヤーである。


 そして、オレの獲物とは奴等の事。



「【スナイピング】」



 そう呟いて弦から手を離せば、つがえた矢は緑に光り、光の尾を描いて高速で飛んで行く。


 そしてその矢は、現実ではあり得ないような軌道を描いて木々の合間を縫い、標的プレイヤーの一人にクリティカルヒットした。


 そしてそのプレイヤーは、たったそれだけで、無数のポリゴンとなって消える。

 そのプレイヤーの装備から見て、恐らくは盾職タンクだと予想する。

 本来なら【スナイピング】だけで盾職のプレイヤーを殺す事は難しいが、首や心臓、頭部などといった“弱点”にヒットさせれば不可能では無い。


 この場合、相手が油断していた事もあって、あっさりと弱点に当てる事が出来た。


 連中の慌てた声をBGMに、素早くオレは武装を変更する。


 森の中では取り回しの悪い長弓をウィンドウのアイテムを仕舞う欄――所謂アイテムボックスに入れ、更にそこから二本のマチェットを取り出す。


 どんなに連中が間抜けなウスラトンカチ揃いだからと言っても、そろそろ矢が飛んで来た位置からオレがいると思しき場所を特定しているだろう。


 その場に留まり迎撃を選択するか、打って出てくるか。


 恐らくは後者だ。


 その予想通り、僅か三秒後に斥候職スカウトのような装備をした男と女が先行して来るのを視界に収める。


 予想の根拠としては、オレが撃った【スナイピング】は高位スキル、スキルツリーレベル四で開放されるスキルだからだ。

 その分連射は難しいが、ある一定のスキルと組み合わせれば、その欠点すら補う事ができる。

 装備によればそこらのボスをワンパンできるほどのスキルだ。その場で待ち構えていれば唯のまと、すぐに蜂の巣にされるという事は簡単に想像できる。


 ゆえに距離を潰し、近接に持ち込もうとしているのだろうが、奴等はオレの居場所をそう簡単に察知できるとでも思っているのだろうか。

 オレは樹上に身を潜めながら、獲物が近づいてくるまでじっと待つ。


「ダメだ、こっちにはいない」


 探索サーチスキルを使ったのだろう、男が少し離れた場所を探索している女にそう告げる、その背後から、オレはその男に飛びかかった。


「馬鹿が」


 マップは広大だ。その中で決められた小さな範囲でしか探査できないスキルで、そう簡単に見つけられてたまるか。

 大体、前方だけ確認して、背後を確認しないでどうする。


 古今東西、殺し合いでは相手の背後を取るのがセオリーだろうが。


「なっーー!?」

「【ハードヒット】」


 驚く男をマチェットで殴り付ける。

 殴り付けるというのは不適切かも知れないが、スキルツリーレベル一の初期スキルでもあるこのスキルは、ただ強打ハードヒットするスキルだ。

 初期スキルだけあって与えるダメージは少ないが、しかしこのスキルの真価はその特性にある。


「がっ、くっ!?」


 おっと、首の後ろという“弱点”に当てた事と、元より軽装な事もあって、斥候の男はそこそこダメージが通ったようだ。


 だが、オレの狙いは別。

 男は一瞬だけ、身体が硬直して動けなくなる。


 状態異常《怯み》である。

 これは、殆どの基礎スキルに付与されている効果だ。

 そして、スキルレベルマックスのハードヒットともなれば、ほぼ確実に怯ませられる。怯み時間は僅か一秒にも満たないが、それで十分。


「てっ――!!」

「【サイレント】」


 敵はここだ、と叫ぼうとしたのだろうか。

 甘い、甘い。


「〜〜〜ッ!!?」


 声が出ず、戸惑う男の頭上から、遠心力を味方につけたマチェットを振り下ろす。

 “弱点”を攻撃された事による被ダメージ増加により、男は脳漿を撒き散らす代わりに、ポリゴンを飛散させて消える。


 スキル【サイレント】は本来なら魔法職ソーサラーや魔導系のボスに使用するスキルだ。

 魔法を使うのには詠唱がいるが、この【サイレント】は詠唱を封じる事で魔法を封じる事ができる。

 その応用として、相手に声を出させず暗殺という使い道も出来るわけだ。


 とは言え、最近は専ら応用としての【サイレント】を活用している。

 理由としては新しく実装された【詠唱破棄】のせいだ。それまでにあった【無詠唱】というスキルは声に出さずに詠唱できるスキルで、しかしやはり詠唱をしているという認定で【サイレント】が有効だったのだが、【詠唱破棄】は詠唱自体を無くす事が出来たのだ。


 これには泣いた。

 当然、【無詠唱】を習得していた魔法職達も泣いた。


 上がらないレベルキャップ、獲得出来ないスキルポイント、中々増やせないスキル枠。

 課金でも解決できないそれらの問題に、カンスト勢はそれはもう発狂したものである。

 魔法職は【無詠唱】がゴミと化し、オレの様な対人もやるプレイヤーも【サイレント】がゴミとなった。


 大体、【詠唱破棄】が実装される前から【サイレント】は使い道が魔法職との対人戦くらいしか無かったのだ。

 魔導系のボスに効くと言っても、殆どの魔導系ボスは魔法抵抗が高く、魔法スキルに分類される【サイレント】は通用しなかったからである。


 それが、【詠唱破棄】のせいで完全と言っていいほどに元来の使い方をする事は出来なくなった。


「おーい、こっちはいなかったよ」


 間抜けな女の声が聞こえる。


 運営死ね。

 不遇スキルの悲しみを背負い、やり場のない運営への怒りを、目の前の敵にぶつける。


「しねえええええ!!」


 魂の咆哮、迸る熱情パッション

 おお、なにゆえ運営かみはこのような苦難パッションを授けたもうた。


 スニーキングミッションは破棄、今はただこの悲しみをぶつける。


「ッ!?【チャージスタブ】!」

「ッちぃ!」


 女は咄嗟にスキルを発動する。

【チャージスタブ】、前方に五メートルほど突進する短剣系スキル。


 オレは咄嗟に防御態勢を取り、独楽コマのように回転しながら女の短剣を受け流す。


「んなっ!?」


 スキルを単純な技術で受け流された事に驚く女。


【チャージスタブ】のような単純なスキルなら、軌道を予測するのは簡単な事である。


 この女は強襲に対し反応できる咄嗟の判断力は という面では先程の男より上だが、このゲームの対人戦の経験は少ないようだ。


 オレは回転を活かし、左手のマチェットを投擲する。


「っく!」


 それを弾く女、だがオレはもう走り出している。


 右手に握ったマチェットを両手に持ち直し、腰だめに構える。


「【アクセルブレード】」


 片手剣・両手剣用スキルを発動。全身が加速する。

 マチェットは片手剣・短剣カテゴリに入るので、このスキルを使用する事が出来る。


「【フラッシュスタブ】!!!」


 女もスキルを使ったようだ。

 手に持った短剣が発光、突進スキルアクセルブレードの突進に合わせて、カウンターで最速の突きを繰り出そうとする。


 それは正しい、全くもって正しい判断だ。

 移動距離という面で効果範囲の広い突進スキルに対し、単発のスキルは範囲が狭いものの、威力は突進スキルより高い。

 普通に打ち合えば、突進スキルが競り負けるだろう。


 そう、素直に打ち合えば。


 だが――


「このオレが、スキル効果範囲を把握してない訳がないだろうが」

「が、っは……」


 結果として、女の短剣は空をつき、それにワンテンポ遅れる形でオレのマチェットは女の胸を切り裂いていた。


 トリックは単純、オレの【アクセルブレード】の効果範囲が女の手前一メートルと少しまでだったというだけだ。

 だが、オレがそこで急停止した事によってタイミングをずらされた女のスキルは空振り、そこに追撃のオレの斬撃が入った訳だ。


「だっしゃあッ!!」


 だがそれはスキルでは無いから一撃で女のHPを削り切れはしない。

 女は即座に短剣を振る。


 だがそれをマチェットで受け、女の腹を蹴り飛ばす。

 女は衝撃を殺すために後ろに飛ぼうとするが、その髪を掴んで逃さない。 


 戦闘センスは良い、だが惜しむらくは経験のなさか。


「まあどうでもいいがな」


 オレはくの字に曲がった女の頭に、マチェットを振り落とした。

 発生したポリゴンを踏み潰し、自ら敵のいる方向に歩いて行く。


 茂みを抜けやや開けた――と言っても木々の間、狭い事に変わりは無いが――場所に立つ。


 眼前には色めき立つプレイヤー達。


 内訳は盾職ニ、攻撃役アタッカー四、魔法職三。

 盾職が厄介だ。そして魔法職が【詠唱破棄】を持っていないことを祈る。

 持っていた時は……………。


 運営死ね。


 オレは回収したマチェットを掲げ、叫んだ。


「VOOOOOOOOOOOOOO!!!!!」


 オレは人間をやめるぞ、運営ィィィィッ!!



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