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バートン家夫妻の交換日記  作者: 小石キイ
3/3

3ページ〜メイナ



*****


旦那様へ


毎日が暑くなってきましたね。夏の花が花壇を華やかにしてくれています。

今日、町で見回りをしてくださっている騎士団の方々を見掛けました。こうして町を守ってくださる騎士団の方々がいらっしゃるので、安心してお買い物ができます。旦那様も見回りをされてるかしらと思って探してみたのですが、残念ながら旦那様をお見掛けすることはなく、少し残念に思ってしまいました。お仕事をされている旦那様と騎士団の方々に失礼でしたね。申し訳ありません。


雑貨店でマーガリーおばさんのおすすめのスパイスを購入してみました。黒胡椒よりも少し酸味が強くて、魚に合うとのことです。ムニエルを作る時に使ってみようと思います。楽しみにしていてくださいね。

それから、パン屋の娘さんのサリーに良いことを教えてもらいました。朝露をスプーンに一匙ほど集め、それを額に塗りながら願い事をすると叶うのだそうです。明日の朝に試してみようかと思ったのですが、毎日がとても幸せなので何を願ったらよいかわかりません。また願い事ができたときにしてみようと思います。


旦那様、怪我に唾を付けても治らないと思うので、きちんと見せてくださいね。

そして、交換日記していただき、ありがとうございます。



メイナより



*****



 旦那様がお勤めから帰って来られ、片手に持っていたノートを渡してくださいました。これは交換日記をすることを了承してくれたということでしょうか。言葉は無くとも、旦那様がこくりと頷くのを見て、嬉しくてノートをぎゅっと胸に抱きしめてしまいました。そんなわたくしの、今すぐ読みたいという気持ちが顔に出ていたのでしょうか。珍しく慌てた声色で自分が居ない時に読んでくれとお願いされたので、旦那様が明日の朝、お勤めに出られたときの楽しみにしておくことにしました。


 食事を済ませ、お風呂で汗を流された旦那様に果実酒を出します。この果実酒はわたくしの父が小さな苗から我が子のように可愛がって実らせた林檎から出来たものでございます。それを一口、含んで舌を転がす旦那様。その姿を見ているだけで、飲んでないわたくしの方が酔ってしまいそうになります。グラスに一杯の果実酒、これを食後に楽しむのが旦那様の一日の終わりの日課でございます。


 旦那様が用意してくださったこの家は、屋敷というには小さいですが、二人で暮らすには部屋がいくつも余るほどには大きな家でございます。突然のお客様が来られても、どんと来い、でございます。

 一階には食堂と併設されたキッチン、そして風呂場などの水回りが配置よく置かれています。あとはまだ使われたことがない応接間と客間があります。食堂にも暖炉を備え付けてもらえ、食後には暖炉の前に置かれた一人掛けのゆったりとした椅子に座り、そこで寝るまで旦那様と静かに過ごすのが私のお気に入りのひとときでございます。

 木で作られた椅子は職人さんのこだわりがあるのでしょう。背中をゆったりと預けられ、素敵な座り心地でいつまでも座っていたいと思うほどです。さすがに一日中座ってはいられませんが。

 そんな椅子ですが、結婚してから一月と経たない頃に、気付けばわたくしが座る方の椅子の座面にふんわりとしたクッションが置かれていたのです。このクッション、どこかで見たことがあると記憶を手繰り寄せれば、町の雑貨店に飾られていたものだとすぐに思い出しました。

 旦那様の休日に、二人で町をふらりと歩いていたときのことでございます。雑貨店の前を通るとマーガリーおばさんと窓越しに目が合いました。ちょうど新しく仕入れたクッションを飾っていたのでしょう。クッションを片手に、もう片方の手で手招きをしてくださいました。


「こんにちは。可愛らしいクッションですね」

「そうでしょう、今日の朝入ってきたばかりさ!手に持ってみるかい?」

「いいのですか?」


 持たせてもらったクッションは、黄色の生地に柔らかな綿が詰められていて、ふかふかな抱き心地で思わず笑みが浮かびます。そんなわたくしに旦那様は真剣な眼差しでわたくしを見ていらっしゃいましたが、旦那様もクッションを手に持ってみたいのでしょうか。黄色のクッションを旦那様に向けて差し出せば、旦那様の大きな手が可愛らしいクッションをそっと受け取ってくださいました。何やら思案顔でクッションを見つめる旦那様。旦那様もふかふかなクッションに幸せな気持ちになっているのかもしれませんね。

 その間にわたくしはマーガリーおばさんに美味しいご飯の作り方についておしゃべりを楽しみ、わたくしと旦那様は帰路についたのでした。

 ちなみに美味しいご飯には、愛情を人匙加えると良いのだそうです。美味しくなーれ、この呪文が大切なのですね。

 そうして数日後、黄色のクッションが椅子に置かれていたのです。


 寒くないこの季節、火のない暖炉の前で小さなテーブルを挟み、旦那様と向かい合って今日の出来事を話ます。

 町で買い物をしたこと。庭で蝶々を見かけたこと。掃除をして、ご飯を作って、毎日変わらない話になりますが、旦那様は柔らかな目でわたくしの話を聞いてくださいます。

 無口な旦那様は相づちを打つだけですので、わたくしばかりが口を開いているのですが、その口を閉じてしまったらこの旦那様との一時も今日の終わりを迎えてしまいます。

 ですから、わたくしは一つ一つゆっくりと今日を思いだし、旦那様に伝えます。もう少し、もう少し旦那様とのこの一時が、時間が伸びるように、時間が止まるように、旦那様のお顔を少しでも見ていられますように。


 旦那様がお仕事に行かれている間の寂しさを、少しでも埋めるように、この時間を大切に。







 





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