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デスゲームに巻き込まれたようだけどこのゲーム作ったの俺でした  作者: 恋魂
四月十日 最後ミッション 無限回廊
95/111

④ サイドN カナ

 

 あー、終わったな、コレ。


 眼前に二匹の機械化ドラゴン。

 周りは見渡す限りの草原。

 味方は誰もいない。


 うん、まあ、いいや。

 私の力はもう無いに等しい。

 呪術士の職業は怨みの大きさで力が変動する。

 私にぴったりの職業だと思っていた。

 世の中すべてを怨み、呪い、妬んでいた。

 力は無限に湧いてくると思っていたが、その力は昨日なくなった。


 リキマルの告白。

 あの馬鹿は、気が狂ったのか、不気味な私に告白してきやがった。

 歌いながら歯の浮くようなセリフを言う馬鹿を私は受け止めてしまった。

 私を抱きしめる体温に人は温かいものだと初めて知る。


 怨みの力が無くなるのを感じた。

 最後のミッションを生き残れないことを悟る。

 それでいいと思ってしまう。

 最後の力で身代わりの人形を作ってリキマルに渡した。

 そこで私のゲームは終了したのだ。


「イィイィイイィイィイィイィ」


「イィイィイイィイィイィイィ」


 ステレオで雄叫びを上げる二匹の機械化ドラゴン。

 静かに目を閉じる。

 どうか、リキマルは生き延びて欲しい。

 それが最後の願いだった。


 二匹が巨大な爪で同時に私を引き裂く。

 バラバラになるはずだった。

 だが、二つの爪は空を切り、私は誰かに抱えられ移動している。


「何やってるっ、アホか、お前はっ」


 リキマルだ。

 瞬間移動のスキルで現れたのか。

 全身に汗をかいている。

 バカが。連続発動したうえに私と同時に移動したため体力消耗が激しい。


「バカ、いらん世話だ。あれくらいなんとも無い」


 リキマルだけでも逃がさないといけない。

 私を抱えていては、瞬間移動の距離も稼げない。


「離せっ。一人で倒せる。お前は逃げっ」


「イィイィイイィっ」


 機械化ドラゴンの口が開く。

 まずい。赤い光が口元に集まっている。


「イィイィイィアアアイアアアイィっ」


 巨大な炎の塊が物凄いスピードで私達に向かって噴射される。

 どんっ、という音とともに辺り一帯が消し飛んだ。


 身体が溶けてなくなる感覚。

 致命傷だ。だが、リキマルには身代わり人形を渡してある。

 これで私がいなくなればリキマルは一人で逃げれるはずだ。

 それでいい。それで。


「あー、カナ」


 その光景は何があっても忘れない。


「大好きだ」


 焼け焦げ、黒くなったリキマル。

 笑っているのか。表情すらわからない。

 立ったまま動かなくなる。

 風が吹く。

 ボロボロとその身体が崩れていった。


「なんで」


 自分の身体は無傷だ。

 いつのまにか。

 服の中にリキマルに渡したはずの身代わり人形が入っていた。

 黒くなってそれも崩れる。


「あ」


 灰になるリキマルと人形。

 黒い何かが私を覆う。


「イィイィイイィイィイィイィ」


 もう一匹の機械化ドラゴンが口に光を貯める。


 呪。

 これまでに無かったほどの呪いの力が溢れ出る。


「嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼っ!!」


 叫ぶと同時に二匹の機械化ドラゴンの動きが止まる。


 呪。呪。呪。呪。呪。

 かつて無い程のスピードで機械化ドラゴンに向かう。

 いつのまにか二本足ではなく、腕を使い、地面を這いずるように走っていた。

 爪が変形し、伸びている。


 私の背後で爆発が起きる。

 構わず突進する。

 機械化ドラゴンの足元にたどり着き、その足に噛み付いた。

 機械のオイルの味と生身の肉の味が混ざっていた。


 ワラ人形を作り出す。

 その中に機械化ドラゴンの肉片を放り込む。


「イィイィっ」


 噛まれた機械化ドラゴンが私に向かって嚙みつこうとする。

 糞が。

 糞溜の中の糞まみれがっ。


 ワラ人形の首を引きちぎる。

 同時に機械化ドラゴンの首がぶっ飛んだ。


 緑の血と黒いオイルが私に降り注ぐ。


 呪。呪。呪。呪。呪。呪。呪。呪。呪。呪。


 止まらない。怨みの衝動は益々激しくなる。

 何もなく世の中を怨んでいた時とは比べ物にならない。

 奪われた憎しみは私に果てしのない力を与えてくれる。

 リキマルは私にそんなものを望んでいたのだろうか。


「嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼っ」


 血に塗れながら叫び、もう一体の機械化ドラゴンに向かう。


「イ、イィアっ」


 怯えているのか?

 そんな感情が残っているのか?

 機械化ドラゴンは私から逃げようと、飛び立とうとする。

 逃がさんよ。


 髪の毛を伸ばす。

 巨大なドラゴンを覆い尽くすように、髪の毛が伸びていく。

 絡まり、悶える機械化ドラゴンの尻尾を握る。


「お前はじっくり殺してやる」


 爪で尻尾の肉を削り取る。

 ワラ人形に入れ、手足をちぎる。


 びたんびたん、と芋虫のように蠢く機械化ドラゴン。


「は、ははっ」


 人間をやめていくのがわかる。

 髪はどこまでも伸び、爪は赤黒く鎌のように鋭い。

 手足の関節もオカシイ。

 走っている時に曲がってはいけない方向に曲がっていたが、痛みすら感じない。


「ははははははははっ」


 笑う。リキマルがいたら出来なかった。

 狂気に包まれた私は彼が居なくなって初めて完成したのだ。


 じっくりとワラ人形をもいでいく。

 機械でもドラゴンでもない、ガラクタと肉の塊になるまでじっくりと痛ぶった。


 だが、怨みは一切治らない。

 全部壊すまで、終わらないのだろう。


 リキマルの焦げたギターを拾う。

 アイツのふざけた演奏をもう聞くことが出来ない。

 そんな世界が存在する意味はない。

 全てを呪い、全てを壊す。


 草原が私の髪で真っ黒に染まる。

 人間だった最後の意識がそこで途絶えた。




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